とある画家と少年の譚

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
2 / 192
朱夏

しおりを挟む


 甘露水を含ませた艶々とした髪と唇、
 小さな光を拾って輝く理知的な双眸、
 男の征服欲を掻き立てる白磁の肌、

 二つの日本人形のような姿は情欲をそそるには十分だった。

 描いてみたいものだ と、画家らしい欲が頭を擡げる。

「新山さんは日本画……で、らしたかしら?」

 その言葉に内心の下心を読み取られた気がして、さっと身を引き締めて頷いて返す。
 
「ええ、拙いものを描いております」

 そんなことないわ と峯子がふふと笑って見せた。

 いや、魅せた。

 その色気は計算してのものなのか天性のものなのか……さきほど自分に興味がないと、素気無い言葉を言われたばかりだと言うのにそれを流せてしまえるほど蠱惑的だ。

「久山さんはこの間の作品展? で最優秀をとられたのよ」

 褒めつつも峯子はさっぱりこちらに興味がないことを隠しもしていない、けれど世辞なのか翠也は感嘆の声を上げる。

「それは素晴らしいです! よろしければ拝見させてくださいね」

 年相応の子供のようにはしゃぎながらねだる姿にほっと肩の力を抜く。

「家の者と、工房として使っていただく離れは翠也に案内させます」

 そう言うと翠也に軽く目配せをしてから、初めと同じように毛皮を纏う生き物のしなやかさで奥へと立ち去った。
 その後姿は計算されたかのような隙が垣間見えて、付け入ることができるように導かれているかのようだ。

「僕が案内で申し訳ない」

 峯子の消えた奥につい視線を残してしまっていたのを、からかいを含ませて言われて慌てて首を振った。

「いや! 邪推しないでくれ、俺はただ……」

 触れれば落ちる赤い花のような色気を含む後姿に、気を取られなかったと言えば嘘になる。
 けれどせっかくできた後援者を、その奥方への横恋慕で失う気はない。

「ええ、分かっています。母は、息子から見ても美しい人だと思います」
「  確かに、君とよく似ている」

 その一言に翠也は足を止め、すっきりとした切れ長な目を丸くした。

「……僕は自己愛者だと言われているんでしょうか」
「あっ いや、そう言うわけでは……」

 確かに、母親が美しいと言った息子の前で言う言葉ではなかったと、しどろもどろと返事をすると彼は芍薬が花開くように華やかに笑って返す。

「ふふ」

 その軽やかな笑いはからかわれているのだと分かっていても許せるほどに魅力的で、普段なら腹が立ちそうなものだったが何故だか逆に面白くてたまらなかった。

「新山さんは真面目な方ですね」
「猫を被っているだけだよ。それに新山ではなく卯太朗と呼んでくれないか? あ、いや、図々しいか」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...