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しおりを挟む「自分の本心で、兄貴から来てくれるのを」
ふわりと笑うと、内にある狂気が影を潜めて子供のような笑みになる。
「………くそっくらえ」
言葉は強気だったが、声は上擦り覇気がなかった。
「キスしていい?」
子供のねだりのような声に怯えながらも、侑紀は首を振って拒否を示し、細やかな抵抗とばかりに唇を強く噛み締める。
「ふふ…お仕置きは亀頭攻めにして上げる。玉を括った状態で、延々と…」
朱の着物を割り開き、現れる胸に軽いリップ音をさせて口づけた。
「潮吹く位、気持ちいいらしいよ?楽しみにしてて」
するりと腹を撫でると、汰紀はおやすみと呟いて立ち上がる。
それを見上げて、侑紀は慌てて着物の前を掻き合わせた。
笑みを残し、汰紀は階段を軋ませながら階上へと行ってしまった。
「お…ふく、ろ…?」
そこで亡くなっていたと、指し示された辺りに目をやると、着物を鷲掴んだ侑紀の手が震え始める。
白くなるほど手を握り締めた手の震えがピークに達した瞬間、
「───────っ」
侑紀は堪えきれなくなったように着物を被って突っ伏した。
ふんだんに花を散らした着物が、侑紀の震えに添って小刻みに揺れる。
─────ク…
くつり…と圧し殺しきれなかった笑いが漏れ、侑紀は慌てて着物を被り直す音に誤魔化した。
───ザマァ…クソオヤジ
噛み締められていた筈の唇がそう形を作る。
『お前は弟に、何をしようとしていたっ!?』
眠る汰紀のへ妖しく伸ばした手を見咎められた時の声が耳内に甦る。
───聖人君子面シテ、テメェモ同類ジャネェカ
くつ くつ と、喉の奥に張り付いた笑いは絶えない。
『お前から汰紀を守る為だ。卒業したら出ていけ』
母親似の汰紀を溺愛していた父親は、卒業と同時に侑紀を追い出した。
───マサカ、本当ニ連絡先ヲ知ラナカッタトハナ
道理で蒔いた種が芽を出すのに時間が掛かった筈だった…と、ぼやきながらまたくつくつと笑った。
何年掛かったか…と、着物の下で器用に寝返りを打ちながら思いを馳せる。
まず汰紀に性的事柄に関連を持たせて自分に執着させた。
執着を勘違いするまでにそう時間が掛からないだろうと言うのは、汰紀の性格から容易に想像できた。
後は切っ掛けとなる嫉妬を煽るだけで…
汰紀の気に食わなさそうな女とばかり付き合ったのも、これで報われると言うものだ…と、小さくごちる。
けれど…
───予想以上ダ
小さく言葉が漏れ、はっと口を押さえた。
監視の為のカメラが有るのは確実だが、盗聴ははっきりとしない。
今もレンズの向こう、モニターの前で汰紀がこちらに視線を注いでいるのだろうかと思うと、ざわざわと身体中が総毛立ち、鈍い熱が体を回る。
───おれガ女役ナノハ意外ダッタガ…
盛大な苦笑も、花模様に埋もれて汰紀に知られる事はない。
───マァイイ…ソノ内 搦メテ行ケバ良イ
目が回るような極彩色の牢獄の中、侑紀が汰紀を拒めば拒む程執着は深まり、終わりない世界へとなっていく。
脛についた傷にも、苦笑を漏らす。
───マッタク…アイツニ飽キラレ無イヨウニスルニモ骨ガ折レル
実際に折られるかもしれなかったが、侑紀にとってそれは些細な事だった。
手に入った途端、直ぐに飽きる汰紀の気を引き続ける為の段取りに考えを巡らせる。
どう搦めて、どう導くか…
着物の隙間から見た鳳凰と目が合う。
───クッ クッ
どれが実像か分からないような虚像だらけの万華鏡の中、
搦めたのか
搦められたのか
二人で完結する世界は続いていく…
END.
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