極彩牢獄 ーThe prison of a kaleidoscopeー

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
25 / 29

26

しおりを挟む




 乱暴に引き摺り下ろされ、体のあちこちからゴツンゴツンと打ち付ける音が響く。

「ぃ…────っ、ぅ…」

 最後にバタンと床板の上に倒れ伏した瞬間、チカリと灯りが瞬いた。


「…………点いた、ね」


 部屋を見渡しながら、こちらを見向きもせずに言う汰紀から逃れようと尻餅をつきながら後ずさった。


 感情の消えた目が、ひやりとそんな侑紀を追い掛ける。

「どこに、行こうとしてたの?」
「…っ」

 伸ばされた手が侑紀の髪を鷲掴み、ずるずると格子内へ引き摺って行く。
 ぶちぶちと切れて鳴る髪の音と痛みに喚くが、汰紀の表情は変わらない。

 どん…と突き飛ばされたのは慣れ親しんだ格子内で…

「ぁ……あ、ぁ…っ」
「逃げようと、した?」

 傍らに座り、ひきつる兄の顔を覗いた。

「どうして?今は…嫌いじゃなくなったって、言ってたのに」

 激情の欠片すら映さない平淡な目が射すくめる。

「…ぁ…あぁ、嫌いだったよ。今は…─────大っ嫌いだっ!!」

 そう怒鳴り付けて間近にあった汰紀の横っ面に唾を吐き掛けた。

「………」

 袖の裾でそれを拭い、汰紀は視線を下ろして拳を作る。

「…騙してた?」
「  はぁ?てめぇで勝手に勘違いしたんだろうが!!頭ん中めでてぇな!」
「そう…」

 緩く呟かれた言葉。

 侑紀は微かに揺れた汰紀の肩にすらびくりと震えていたが、それでも毅然と顔を上げて目に力を込めた。

「やっぱり、壊してしまわないと…ダメ?」

 一種艶然とした笑みを見せて汰紀は立ち上がった。

 猿轡に含み切れなかった唾液が頬を伝い始める。
 胸の前できつく縛られた腕は、血が流れにくいのか紫色に変色し、人体にあるまじき冷たさになりかけていた。

「ん…ぐ……」

 コンクリートブロックが投げ出された足の間に鎮座する。
 膝下辺りに置かれたそれが何に使われるのか分からず、侑紀の震えは次第に増して行く。

「痛み止…打って上げたいけど、痛くないと反省しないでしょ?」
「ぅ…」

 痛み止を使うと言う事は、それ相応の痛みを伴うナニかをされると言う事で…
 今まで汰紀が行った、精神を追い詰めるような所業を思い出して侑紀は震え続けた。

「なんて映画だったっけ?兄貴は覚えてる?」

 そう言いながら足の間のコンクリートブロックの位置を調節する。

「あの映画のオバサン、怖かったよね?」

 猿轡のせいで言葉を返せずにいる侑紀に、にっこりと微笑む。

「一回で終わるように頑張るから」

 そう言ってしゃがんで何かを持ち上げる気配がした。
 仰向けに転がされたまま、侑紀は視線を汰紀の方へと向ける。

「っ!!」

 鈍い色のそれは、光を反射してギラリと光る事は無かったが、逆にそれが存在感を際立たせ、侑紀は昔見た映画を思い出した。


 監禁された小説家。

 逃げようとした彼は足を…






「じゃあ、折るからね」






 ハンマーで叩き折られた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

年下くんに堕とされて。

bara
BL
イケメン後輩に堕とされるお話。 3話で本編完結です

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

わるいむし

おととななな
BL
新汰は一流の目を持った宝石鑑定士である兄の奏汰のことをとても尊敬している。 しかし、完璧な兄には唯一の欠点があった。 「恋人ができたんだ」 恋多き男の兄が懲りずに連れてきた新しい恋人を新汰はいつものように排除しようとするが…

処理中です...