23 / 29
24
しおりを挟む「恨み……じゃ、ないとは言い切れない。あの時はね?」
端整な顔が乞うままに侑紀はその唇に口づける。
「でもね、なんだろうね?…俺が憎んでいるのが、兄貴に抱かれた香代子に対してだって……気付いた。もっとも、気付いた頃には兄貴はとっくに家を出て、連絡先も分からないんだから…泣けてくる」
何に嘲笑ったのか分からないが、自嘲気味な笑みはどこか胸をひんやりとさせるものがある。
「そんなに、この家が嫌だった?」
「…嫌……っつーか。お袋の事もあったし…な」
ある日姿を眩ました母親。
楽しみの少ない狭い田舎では、噂は格好の娯楽だった。
繰り返し、陰で囁かれる興味本意な会話。
蔑むように投げ掛けられた視線の冷たさも、侑紀はまだ忘れられないでいる。
「向こうは気楽だしな」
「そう。でも…連絡先位は教えておいてよ」
ああ…そうか…と呟いて侑紀は頷いた。
「親父の事、ありがとうな。一人で大変だったろう?」
皮肉るように眉が上がり、汰紀は首を振って鼻で笑った。
「良くも悪くも、田舎だからね」
近所が手伝ってくれた…と言葉が続く。
小うるさい近所の人々相手に、まだ若い汰紀にどんな心労があったのかを思って侑紀は項垂れる。
「悪かった」
呟き、そ と汰紀の首に腕を回して抱き締めた。
「どうしたの?」
「…別に………労を労ってやってるだけだ」
そう言って背中を緩く撫でてやると、汰紀は幼い子供のように笑って抱き締め返した。
「あんまり…さ。仲良くなかったけど、俺、兄貴の事…好きだよ」
染み入るような答えに、侑紀は一瞬言葉を詰まらせ、ぶるりと首を振る。
「オレは…すぐオレの物を欲しがるお前が嫌いだった」
そう言い捨ててそっぽを向くと、女顔を微笑ませた汰紀が耳元に口を近づけた。
口を開くと、微かに舌が耳朶を擽る。
「ふぅん」
「そのくせ、やるとすぐに飽きて放り出すんだ。まったく…」
「…そんなオレが嫌い、だった?」
「ああ!嫌いだったっ!」
突き放してそう言ったはずが、汰紀の機嫌の良さげな笑みは崩れない。
侑紀は首を傾げて…はっと口を押さえた。
「───今は?」
擽ったそうなはにかみ笑いから侑紀は顔を背け、膝を抱いて小さく踞る。
それを追いかけ、汰紀はその肩をつついた。
「ねぇ?今は?」
「────し、知るかよっ!!」
怒鳴り付けて立ち上がるも、狭い格子内ではどこに行くことも出来ず、侑紀は赤い格子にしがみつくようにして顔を伏せた。
「ねぇ?」
背後から柔らかな人の温もりが覆い被さる事に、侑紀は小さく口許を綻ばせる。
「…知らねぇよ……」
そう繰り返し、自分よりやや高い位置にある汰紀の目を見上げた。
狂気を孕みながらも愛しそうに見下ろす視線を受けたまま、侑紀は軽く背伸びをするようにしてその唇に口づけた。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる
すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。
第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」
一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。
2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。
第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」
獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。
第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」
幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。
だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。
獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。
溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集
あかさたな!
BL
全話独立したお話です。
溺愛前提のラブラブ感と
ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。
いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を!
【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】
------------------
【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。
同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集]
等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
ありがとうございました。
引き続き応援いただけると幸いです。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる