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「ちょ…食わせろよ!」
「言い方が違うんじゃないの?」

 は?と返す侑紀の目の前でおにぎりがぼとりと床に落とされる。

「っ!?」
「こんな状況になって、少しは殊勝さを見せるかと思ったけど…」
「ふっ…ざけんなっ!!いい加減にしろよ!」

 格子に食らい付き、格子の狭い隙間から弟に向けて手を伸ばす。

「香代子の事は悪かったとは思うが、根に持ちすぎなんだよ!この陰険っ!!」

 そう怒鳴って睨み付けるが、汰紀は無表情なままだった。
 一瞬、その顔に怯みもしたが、空腹と先程受けた非常識な出来事が背中を押す。

「オレを嫌ってるのは良く分かった!慰謝料でもなんでも払うからとっとと出せ!!辱しめなら十分受けた!」
「…金なんか要らないよ?」

 睨み付ける侑紀を無視するように、汰紀は階段を上がってしまった。

「っ…おい!話は終わってないぞ!」
「終わらせてないよ、相変わらず短気だね」

 再び階段に姿を表した汰紀の手に下がるボストンバックに目が行く。
 黒いそれは中にいろいろ入っているのか、微妙に形が歪だった。

「な…なに…」
「短気なのもいいけどさ…忘れてない?あの女の事」
「っ…!!」

 レナの名前を出され、びくりと背筋を伸ばした。
 あ…う…と唸る侑紀に向けて、汰紀は目を細める。

 バックを床に降ろし、汰紀はその中を漁り始める。
 何が飛び出すのか不安ではあったが、好奇心に負けて中を覗こうと格子に手を掛けた。


 キラ…


 一瞬光を反射したそれを見逃さなかった。

「ひっ…」

 小さな悲鳴を上げて後ずさる侑紀を、刃物をちらつかせた汰紀が手招く。

「こっちに来てくれるかな?」
「や、なに、…バカな事考えんなっ!!」

 身内だから、最悪な事態には…と思っていた侑紀の背中に冷たいものが流れた。

「縄を変えるだけだよ?」

 くすりと笑われ、一人早合点した羞恥にむっと唇を歪めた。

「それとも、…殺していい?」
「っ!?」
「冗談だよ、兄貴の百面相って面白いね」

 汰紀の浮かべる表情に欠片も冗談を見付けられず、侑紀は念の為に身を引く。

 緊張に渇いた喉へ無理矢理唾液を飲み込むと、こちらに来る様子の無い侑紀に焦れたのか、刃物を置いて代わりにロープを取り出した。

 扉を操作して牢の中へと入ってくる。

「な、何す……」

 無表情に此方に来る汰紀を避けるように、一歩後ろへと下がる。

「あっ」

 どっと背中が格子に当たった。

「あの女、どうなっても良いなら抵抗しなよ?」
「ふ、ざけん…な……いつまでも、そんな…脅し…」
「でも声は震えてるし、抵抗もしないよね?」

 嘲るように笑われながら、ロープが首に掛かるのを震えながら受け入れる。
 その紐が格子に掛けられるのを見ている侑紀の歯ががちりと鳴った。

「…なぁ、何を…」

 首を吊られる自分を想像して青くなっている侑紀を他所に、ロープは座り込んでも幾分余裕がある程度で固定された。

「あ、…ぁ?」
「何?吊るされたかった?」
「ちが…」
「異様に伸びた首に、飛び出した眼球と舌、痙攣する体に失禁…」

 夕食のメニューのような口振りで言われ、侑紀はは?と返した。

「それも魅力的だけど、お楽しみにとっておこうよ?」
「た、たのし…?」

 弟の行動が分からず、だからと言って逃げ出すことも出来ないままに見上げる。

 見上げた侑紀に、汰紀の手が延びた。


 肩を突かれ、腕を縛られたままの侑紀は無様に畳の上へと転がる。


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