2 / 29
2
しおりを挟む「…昔の腹いせにしたって……コレは質が悪すぎやしないか?」
そう言うと、汰紀の細い眉が上がった。
「そう言うって事は、悪気はあったんだ?」
「っ………」
聞き返されて言葉に詰まり、バツが悪くなって下を向く。
「あ、謝れば…いいのか?」
「素直だね?」
「こんなへんちくりんな所からさっさと出たいんでな………って、お前!レナはどうしたっ!?」
もつれる足で格子に駆け寄ると、汰紀は手の届かない位置まで身を引いた。
「レナ?」
「オレの連れだ!!一緒にいただろ!?」
「…あぁ、知りたい?」
何を考えているのか分からない表情で問い掛けられ、侑紀は苛ついて縛られた手で格子を叩く。
「お前!レナになんかしたら承知しないからなっ!!」
侑紀がそう言うと、汰紀はやっと人間らしく顔をしかめて見せた。
「承知しないって…どうするの?」
「ど、どうするって……そりゃ…」
殴るとか…ともごもごと言うが、格子の隔たりがある以上それは不可能だ。
「殴る?殴ってもいいけど…彼女どうなってもいいの?」
「は?っちょ…お前分かってるのか!?言ってる事、犯罪紛いだぞっ!」
「うん?そう?」
薄い唇に笑みを乗せて笑う弟に寒気を感じて、よろりと後ずさる。
「とにかく出せよ!話はそれからだ!」
「話?話なんか無いよ?」
「は?」
「立場分かってる?あの女を守りたいなら、言う事聞くしか無いんだって」
そう汰紀は深く微笑んだ。
投げて寄越された小さな瓶の中からとろりとした液体を掌に出す。
それを両手に伸ばしながら、ちらりと格子の向こうの弟を見る。
「…こんなの見て、何が楽しいんだ?」
「それは兄貴の基準だろ?」
また尋ね返されて、苛々が募って行く。
けれど侑紀は縛られたままの手を動かし続けた。
『オナって見せて』
それはまるで質の悪いイジメのような要求。
は?と聞き返す侑紀に、汰紀は瓶を投げて寄越した。
「………」
ローションをまぶした手を、縮こまって股間にぶら下がるモノに添える。
「………」
無言で、手を動かす。
「声、出さないの?」
「っ!!男が出すかよ!?」
「ふぅん」
さして気にしないのか、汰紀はそう返しただけだった。
グチュ
ローションの滑りを借りた動きに、こんな状況でも股間のモノは反応を示す。
「は…」
グチュ…グチュ…
規則正しい濡れた音。
一度立ち上がりかけてしまえば、そこはあっと言う間に力をたぎらせ、堅く上を向いた。
「黒いね、遊んでるの?」
「…ぅ…っせぇ」
ふ、ふ、と短く息が漏れる。
こんな醜態を晒す真似をさっさと終わらせたくて、侑紀は一心不乱に手を動かした。
「彼女とは?週何回ヤるの?」
「おま…え、にっ関係ねぇっ」
タラリと垂れ始めた先走りに、先端に触れる。
腰に集まった血から、ざわざわとした物が駆け上がって背筋をしならせる。
「一回って事は無いんでしょ?」
「うるっせぇ!逢えばヤるよ!っ…」
「へぇ、じゃあほとんど毎日?彼女タフだね」
ふふ…と笑われ、その事に気を取られると高まりつつあった熱が僅かに逃げる。
「は?」
「じゃあ昨日もヤってたんだ?」
「ちょ、待て、なんで…」
手は止まり、呆気に取られて汰紀を見る。
「高木レナ、だっけ?」
「なんで知ってんだ!?」
「え?調べたから」
しれっと言い、汰紀は二重の扉の内、最初の格子の扉に手を翳した。
ぴっ
小さな電子音と共に鍵の外れる音がし、ゆっくりとした動作で侑紀の居る座敷牢へと続く扉を、今度は鍵を使って開ける。
「なかなかハイテクだろ?」
からかう声を聞かないまま侑紀は一気に駆け寄り、弟の襟首を掴み上げる。
「っ…」
「調べたって…な、なんだ!?」
「何でも屋って言うの?凄いよね、誘拐までしてくれるんだから」
締め上げられ、苦しい息の下から可笑しそうな声がする。
「誘拐より、強姦とかの方が喜んでやってくれそうだよね?」
「何考えてんだっ!!」
更に襟を掴んだ手に力を込める。
汰紀は苦しそうに喘いだが、振り払おうとはしなかった。
「あれ?兄貴より俺の方が身長高いんだ?」
飄々と、まったく関係の無いことを言う汰紀を突き飛ばす。
「茶番は終いだ!!帰るっ」
座敷に転がる弟に一瞥をくれて扉を潜るも、外側の扉は押しても開かない。
「っ!?くそっ」
「…俺の静脈じゃないと開かないよ」
その言葉に、悠然と座り込む汰紀を振り返った。
「じゃあ開けろ!」
「やだね」
「汰紀っ!!」
怒鳴り付けるが、汰紀の涼しげな表情は変わらない。
「兄貴は俺の言う事を聞くしかないんだって」
「嫌だって言ったら?」
「あの女が肉便器になるだけだよ」
さらりと返され、言葉もなく立ち尽くす。
「さ、続けてよ」
そう汰紀は促した。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる