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人生は振り回されてなんぼ
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しおりを挟むふさふさと毛のみっしりと詰まった尾を指先でかくように撫でてやる。
そうすると何か感じたのか、尾が大きく揺れてばたんばたんと打ち下ろされる。
呻きながらちょっと寄った眉間の皺を見ていると、睡眠不足と蹴落とされたことに対する溜飲が少し下がる思いだ。
「それにしても……気持ちいいな」
犬の毛皮のようにコシがあって固いと言うわけじゃない。
長さの違う毛が層のようになっていて、その一本一本が驚くほど柔らかい。
シナモン色のそれは皮膚に近い部分は白っぽく見えてまるで綿毛のようだ。
なるほど……これで叩かれたら気持ちいいはずだ と、被毛の流れに沿って手を這わす。
「 ん、 にゃっ」
小さなうめき声と共に尾で手を振り払い、ごろんと向こうを向かれてしまう。
そうするといつも尾と同じ色の髪に隠されている背中がむき出しになって、白いそれにめまいがしそうだった。
紳士ならばここでそっと掛け布団を直しておくところなのだろうが、青痣だらけのオレにそんな部分は微塵も残っていない。
寝ようとしたところを起こされ続けてどこか思考のねじが緩んでいたのかもしれない……
綺麗に浮き出た肩甲骨に指を這わせると思わずぱっと身を引いた。
自分と同じ……と言うか、もっと綺麗な肌の感触が返ってくるんだろうなって思い込んでいたのだけれど、実際に触れたカティノの肌はベルベット生地のような感触だ。
白くて滑らかだけれど、その表面はごくごく短い被毛に覆われていて……
毛の流れに沿って撫でるとつるつると滑っていきそうだった。
きっと気持ちい。
間違いなく気持ちいい。
それがわかる。
ごくりと唾を飲み下して、さわ とさっきよりも大胆に掌で触れてみる。
アパート暮らしで動物を飼うことはなかったけれど、それでもこの手触りが極上の毛皮なんだってわかった。
骨格に沿って掌全体で撫でて行くと、うずくまるようにしているカティノの喉からくるくると小さな振動が響く。
猫が機嫌のよい時に喉を鳴らすというのは知っていたが、こうして振動として経験するのは初めてで舞い上がりそうな気分になる。
くるくると鳴る喉元を同じようにさすってやると、カティノの体がぐっとうねって擦り寄るような動きを見せた。
甘えるようなしぐさがカティノの獣人としての本能だったとしても、それでも嬉しそうに擦り寄られて嫌な気分はしない。
「き、気持ちいいのかな……?」
わざわざ声に出したのは、どこかで許可が欲しかったからかもしれない。
眠っている美女の体に勝手に触れるなんて、本当なら警察案件だろうとよくわかってはいる。
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