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用心すべきは人生

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 部屋に突然現れた腕のことを思い出して思わず眉間に皺が寄った。
 アレは一体何をしたかったんだろうと思い出して、思い出したくないことを続きで思い出して崩れ落ちたい気持ちになる。

「はは!」

 そんな気持ちをカティノの軽快な笑い声が貫く。

「よしっ! よしっ! さすがにゃぁだろ! あの犬っころめ! ざまぁみろ!」
「カティ!」

 強く名前を呼ばれてカティノはぴょんと跳ねた。
 それは小さな子供が親に叱られた様子にも似ていて、ささっと項垂れてしまったしっぽを見るに二人の力関係がわかる。

「私達なの、貴方をこちらに呼んだのは」

 ラセルトの艶のある唇が弧を描いて行くのを見て、「は?」と曖昧な声と言うよりも音が零れた。

「ラグレッドネディオへようこそ、トーマ  ────そして、マリーン様は?」
「は⁉︎」

 今度はオレがぴょんと跳ねる番だ。

 この人達は何を言っているんだ……と言う顔をしたせいか、カティノはさっとオレに詰め寄ってくる。
 オレよりもずいぶんと大きいカティノに襟首を掴まれてしまうと、それだけで爪先立ちにならないといけなくなった。

 ぎゅうぎゅうと締まっていく首元に苦しみを感じるけれど、オレを睨みつける燃えるようなエメラルド色の瞳はキラキラとして見えて、息苦しさに喘ぎながらもつい見入ってしまう。

「マリーン様はどこにいる⁉︎」
「っ っ……いや、北だろ?」

 あの『奴隷村』の爺が言っていた。
 マリーン殿下は北の平定に向かったんだって……だからオレはそこに行くために旅をしようとして、今ここにいるんだから。

「っ⁉︎ そんなことはわかってる! もっと詳しい位置だ!」
「位置って言っても……そもそも、この世あんたたち界の人間ですらないオレにかあさ……いや、マリーン殿下の居場所なんてわかるわけないだろ⁉︎ って言うか、あんたたち一体何者なんだよ! いやっそれよりもオレをこんなところに呼んでどうするつもりだ⁉︎」

 まくしたてるオレの襟首を掴む手にぎゅっと力が籠る。
 かろうじて爪先でこらえていたのに喉元を支点に体が浮き上がって、息が詰まったがそれ以上に脳みそへの血の流れが悪くなってかっと頭が熱くなるのがわかった。

 ジタバタと足をばたつかせるとうまく動かせないまま空を切り続ける。

「マリーン様は?」

 カティノはもう一度低い声で尋ねてくるけれど、オレは答えを持っていない。

 首を締め上げる手を引っかくようにして叩き、食いしばった歯の間から「北」と繰り返す。

「カティ! 止まって!」
「 ────っ」
 

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