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人生の先は谷底
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しおりを挟むフードはちょっと考えるようなそぶりを見せた。
「ああ、頼もうか」
気取ったような返事を聞きながら、オレは自分につけられた20円……じゃなくて20ギーの値段を考え直す。
さっき告げられた単位がおかしかったかなぁ と、空耳だったか聞き間違いだったかするんじゃなかろうかと、耳をほじりたくなって腕の不自由さに顔をしかめる。
「ずいぶんと高くついたな」
そう言うとフードの女はどっかりとソファーに腰を下ろしてふんぞり返った。
「……20ギー?」
「はは! いくつか〇が足りなくないか?」
女はオレの言葉に特に気を悪くした様子はない。
むしろ機嫌がよさそうで……
「あの、本当にその値段でオレを買うつもり?」
「どう思う?」
女は逆にオレに尋ねては前のめりになって籠の中を覗き込んでくる。
目深に被ったフードの下から見える唇は丁寧に手入れのされた赤いサンゴのような綺麗な色だ、形もよくて小さめだけれどつんと立体感のあるそれは可愛らしい形をしている。
鼻……は、ちらちらとしか見えないけれど高い?
もう少しかがんでくれたら目元も見えるんじゃないかと一生懸命重心を動かしてみるも、狭いここじゃガコガコとテーブルにぶつかるだけだった。
すると、女が興味深そうに首を傾げてソファーからこちらへと身を乗り出してくる。
丸い籠を爪先でコツコツと蹴りつけ、不安定に揺れるのを見てまた「あはは!」と軽快な笑い声をあげた。
「ちょ、ちょ……な、なに、やめてく っ」
ぐるんと回されると、いろんなところが見えちゃうから本当にやめて欲しい!
「なるほど、人間だ」
「はぁー⁉」
当たり前のことを当たり前に言われて腹が立つのは、その人間が入っている籠をころころと転がしてくれるからで……
「やめっ やめろっ! きも、気持ち悪くなってくる!」
三半規管がそんなに丈夫じゃないオレは、こんなことをされるとぐるぐると目が回ってすぐに気持ち悪くなってしまう。
叫んでやめさせようとしているのにそれでも女の爪先は執拗に籠を蹴りつけてきて、オレは今すぐにでも胃の中のものを吐き出してしまいたい気分だ。
「ふぅーん」
なるほどね とでも言い出しそうな声を出して、女が籠を掴んでくる。
体が大きいだけあって手も大きく、長い指がしっかりと籠を掴むとさっきまで転がりまわっていたのに籠はぴたりと動かなくなった。
唇同様の手入れの行き届いた綺麗な色がついている爪は、ルーの働くための短い爪とは段違いだ。
たぶん引っかかれたら死ぬ。
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