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人生の先は谷底
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しおりを挟むすすり泣く声があちこちから上がって、ああこの感じはって思い当たるものがあった。
「人身売買の、オークション?」
不自由だったけれど体の重心を動かしてぐるぐると視界を動かすと、明るい舞台上で鐘を持って叫んでいる男が見える。
しかも怪しげな仮面をつけているところを見ると、もう明らかにこれが合法のものじゃないんだって物語っていて……
「な、なんでこんなことになってんだよっ」
籠を揺らすようにして大声で叫んだ途端、オレの傍に控えていた筋肉がガンッと蹴りつけてくる。
すぐ目の前にあるのはこれでもかってくらい鍛え上げられたふっとい脚で、鉄柱を蹴りつけてくれたからよかったものの、直接蹴り飛ばされていたら無事では済まなかっただろう。
こちらを見下ろす目も、もう人を見ているって感じがしない!
冷ややかに動物でも見下ろすような目だったらよかったけど、この男の目は完璧にオレを物としか見ていない目だった。
人権がない。
裸で押し込まれているってだけで人権が……と思っていただけに、この空間は買う人と売る人と商品しかないのだと理解した。
は⁉︎ なんで⁉︎ なんて言う言葉は、異世界転移した段階でこれ以上言ってもどうしようもないお約束なんだろう。
オレの前の順番らしい人達がどんどんと連れられて行き……最後はオレともう一つの籠ってなった時に、向こうの籠の隙間から覗く目と目が合った。
キラリと薄暗い中でも光るそれは明らかに人のものとは違っていて、はっとなってそちらに重心を移す。
もう少し近くで覗き込むことができたならはっきりとしただろうが、この距離だし相手もオレも窮屈に折りたたまれる形で籠に詰め込まれているから、相手の姿形ははっきりしない。
はっきりはしなかったが、それでも妙な胸騒ぎと言うか、確信があってなんとかそっちに寄れないかとじりじりと重心を動かした。
全身に妙な期待のせいで汗が噴き出す。
生前? こっちに転生してくる前の母はなんと言っていたか?
ケモ耳や羽、ウロコのついた娘でハーレムを……
「んふ」
ごくりと唾を飲み込んだつもりなのに妙な笑い声が零れてしまった。
『奴隷村』が人間ばっかりだし、商人も人間だったし、なんならこの周りにいるムキムキの兄ちゃんたちも人間(に見える、たぶん)から、そう言った半獣とか獣人とかは諦めていたのだけれど、これはもしかしたらもしかするんじゃないだろうか?
「なぁ、あんた……」
キシ と小さく床が軋んで、丸い籠が震えるように動く。
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