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第三章 人生やっぱり学びは大事
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しおりを挟む倫理に反した答えだと思いながら、「邪魔に思う」と呻くように答えを出した。
「邪魔、邪魔! ははははは」
そんな面白い言葉を使った気はなかったが、爺は大笑いして止まる気配がない。
周りの目もあるからと、おろおろしているとこっちに向かってルーが駆け寄ってくるのが見えた。
助けてくれとそちらに行こうとした瞬間、ぐっと腕を引っ張られてしまう。
「 おい、ここを出て、マリーン殿下にこの状況をお伝えするんだ」
老人の言葉はさっきまで大笑いしていたとは思えないほど早口で、ひそめられている。
「な 」
「前払いはしたぞ」
強い力で握られていた手の中に何かがぐいと押し付けられて、つい反射的にそれを握り込んでしまった。
「トーマ!」
駆けてきたからか皿のスープは飛び散ってしまっている。
食料がギリギリしか提供されない場所だから、食べ物は大事にしないとダメだよって言っていたルーらしくない行動だ。
スープで濡れた手を気にもせず、オレの顔を見て……それから目の端に爺を留めるような視線の位置で貫頭衣の端を摘まんでやたらとかしこまったお辞儀をした。
ここに来て以来、そんな堅苦しくていかにも貴族然としたような挨拶をしている人を見たことがなかっただけに、オレはぴりっとした雰囲気を感じ取る。
オレンジ色の髪に隠されてはいたが、ルーの口元は引き締められているように見えた。
「わ、悪い、ちょっと話をしていただけで……」
そう言い出したオレの言葉がきっかけと言うわけではなのだろうけれど、老人が田んぼの縁から腰を上げて背を向ける。
がっしりとした背中とルーを見比べるけれど、どちらが言葉を発すると言うことはなくて、気まずい思いがしてもぞもぞと足を掻くようにすり合わせた。
「…………」
「…………」
「トーマ」
「あの……ごめん、オレ……なんかしたんだよな」
「ちが、違うよ……でも、あの人には近寄らないで。ね?」
顔を上げたルーは大きな黒い目の縁を赤くして、今にも泣くんじゃないかって雰囲気だ。
いつもにこにことしている印象の顔がこわばっているようで……オレはなんとなくまずいことをしてしまったのだと言うことを理解した。
ぱちゃん と水を跳ねながらルーは小川の中央へと躊躇なく入って行く。
「危なくない⁉︎」
「ここらは大丈夫だよ」
そう言うとルーは古い皿をそっと小川の底にくぐらせる。
少しくるくると回すようにしてからさっと引き上げて、目を細めてその中に残る砂粒を見つめていた。
あの老人が話していた5日後のことを聞いたルーは、少し考え込んだ後にオレの手を引いてここまで連れてきてくれたのだった。
何をするのかと尋ねてはみたが、見た方が早いからと実践してみせてくれているのがコレだ。
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