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第一章 人生そんなに甘くない

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「   この度は、父が  ごめんなさいっ」

 葬儀場でオレに土下座する少女はオレと年がそう変わらないように見えたのに、顔は色が悪く目はクマで縁取られ……くたびれた様子はオレよりはるかに年上に見えるほどくたびれていた。

 母を轢いた男性は、奥さんが出ていった際に残して借金と生活費を稼ぐために会社勤めの後に副業を幾つも掛け持ちにしていたらしい。
 娘の進学のための費用も重なって、それこそ身を粉にする働き具合だったそうだ。

 そんな中、疲れがピークに達した運転中の一瞬の不注意だった と説明を受けた。

「ごめんなさいっ あ、謝ることしかできませんが  っも、もうし  申し訳ございませんっ   」
 
 いまだに母が死んだ実感を持てなかったオレは、その少女の謝罪を夢の中にいるような心地でぼんやりと聞いていて……

 本来なら、母を殺したと罵声の一つでも言うべきだったんだろうけど、でも腕の中の満面の笑みでこちらを見ている母の顔を見ていると不思議と怒りは湧かなかった。
 ただ、母は死んだのではなく異世界転生したのだと、その言葉ばかりが胸の中に蘇ってきて……

 だから、その時オレにできたのは少女の肩に手を置いて顔をあげさせ、たまたま持っていたポケットティッシュで涙を拭いてあげることぐらいだった。




 大学費用や大学生活の費用は母が残してくれていた金で何とかなったが、卒業したらそうはいかない。
 特別頭がいいわけでも運動ができるわけでもないオレにできることは、ただただ真面目に就職活動に励んで手堅く生活することだ。

 とにかく目指すは、給料!
 
 ……と、言うのもまぁ……オレには彼女がいるからだ。
 あの母の葬式でオレに土下座した彼女は、その後何くれとオレの周りをちょろちょろして……なんだかんだと打ち解けて、週に最低二回はオレのアパートに来てくれる仲だ。

 家事の苦手なオレの代わりに部屋に来ては溜まった洗濯物をして、洗い物をして、オレの好みを聞いて食事を作ってくれて、それを食べながら他愛無い話をして……そして母さんに手を合わせて帰っていく。
 父親のしてしまったことに委縮して憔悴しきっていた彼女がやっと明るい笑顔を見せてくれるようになって、オレはある一つのことを心に決めた。

 就職がうまくいったら彼女にプロポーズしよう と。

 とは言え、その就職が難航していて……今日も面接を受けた会社から送られてきたお祈りメールを見つめながら帰路につく羽目になっていた。

 高望みしすぎなのか?
 いやでも、彼女と……そしてもし授かるなら彼女との子供を養っていこうと考えたら最低ラインと言うものがある。


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