棘の鳥籠

Kokonuca.

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 厳しい眉間の皺も、冷たい双眸も、頑固そうな唇も、力強い体だって。

 あんなに酷い抱き方だったのに、熱く求めてくれたことはこれ以上ないくらい心地いい。

 けれど、だから、苦しくて。

「ちが   っ」

 小さく首を振ると、更に雫が伝う。

「泣くほど 好きです   ────愛しているんです 」
「    」
「   だから、もう無理  」
「初めて口にしたと思ったら、拒絶 か」

 そうか   僕自身も、佐伯に対してこの言葉を口にしていなかったのか……

 今更なことに、疲れた笑いが零れる。

「もう、ご家族との電話を聞かされたりとか   聞かされたら、自分のちっぽけさで、消えてしまいたくなるんです。部長を好きだから、ぞんざいにされると、この辺りが痛くて……もう、苦しくて   」

 引っ張られても抵抗の気力が湧かず、なすがままに膝の上へと崩れ落ちた。
 厚い胸板に押し付けられ、一気に捲し立てた激情が凪ぐ気がする。

「   そうか」
「  部長は  僕の物にならないでしょう?」

 一刹那の間を置いて、唇が歪む。

「そうだな」

 わかりきった答えを改めて聞く虚しさは、心を擂り潰すようだった。

「だがお前は私の物だろう?」

 指先がいつの間にか流れ出した涙を拭い、戯れるようにそれを光に翳す。

「  う 、っ  自惚れないでください」
「辛辣だな」

 指先の涙はあっと言う間に消えて。

「そん  」
「何も言わないのだから、それでいいのだと解釈していた」

 光の消えた指先で唇をノックされたが、ぎゅっと真一文字に口を結んでそっぽを向いた。

「何も言わずに、理解しろと?」
「     」
「お前こそ、自惚れるなよ」

 ぐっと力の籠った指が咥内に入り込む、逃げる前に舌を摘ままれ引っ張られ、動けないままにだらしなく口を開ける羽目になってしまった。

「  ふ、  ぅ」

 舌を捏ねられ、返事もできない。
 端から零れた唾液を舐めとられ、体が戦慄いた。

「従順に受け入れておきながら、自己完結か」

 掴まれたままの舌をいやらしく撫でられると、体中の力が抜けるようだった。
 指が離されるのが辛くて、降ろされた手を視線で追って見詰める。

「物欲しそうだな」
「   っ  ちがっ」

 咄嗟に否定するも言葉は的を射ていて、反論らしい反論もしないまま項垂れた。
 
 物欲しいと言うなら、僕を抱いている腕が欲しい、でもこの人は家族を捨てるような人じゃない。
 理解してしまっているから、足掻こうと思うこともできない。

 首筋に柔らかな呼吸が当たるのを感じながら、言葉を見つけることができずにいた。
 

「    わかった」
 

 長い沈黙だった。

「     執着は 見せているつもりだったが 」

 頬を撫でられ、こめかみに唇が触れる頃には視界が涙でぼやけて見えなくなっていて。

 望んだ言葉だったはずなのに、
 自分から言った言葉なのに、

 了承されてしまうと心臓を鷲掴まれるようで…… 

「しまいだな」

 いつも乱暴に引き寄せるばかりだった腕が、驚くほどの優しさで僕を突き放した。

 膝から降ろされ、
 床に立たされ、

 腰から手が離れ、


 最後に手だけが繋がれる。



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