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しおりを挟む「なんだ」
「 部長の目って……不思議ですね」
突然の突飛な質問にも驚かず、佐伯は「ああ」と答えた。
「これか」
ぐっと目頭を押すと、光の加減が変わったからか日本人らしい色に戻る。
「母方の方に海外の血が入っているらしい」
「そうなんですか!? 確かに顔立ちも 」
「嘘だ」
「へっ!?」
思わず動きが止まった。
先程のやり取りは冗談だったんだろうかと目を瞬いて見ていると、グラスにつけられた唇の端が上がっていることに気が付く。
「えっ ええ 」
「そこまで鵜呑みにするな。逆にこちらが恥ずかしい」
珍しく見えた穏やかな表情はできるなら、もう少し早く見たかった表情だ。
く と詰まる胸に気づかないふりをして、少しでも終わりの言葉を告げるのを先延ばしにしたくて先に佐伯の話を促した。
「仕事の話だ」
「はい 」
「うちは、事業部長以上は個人秘書がつく、まだ先の話にはなるが、私の秘書に三船を推しておいた」
「 え?」
意味が分からずまた揶揄われたのかと間抜けな声が出たが、今度の話は本当のようだった。
秘書 と口の中で呟くも、どう言った職種なのかぼんやりとしか分からない。
「 秘書、とか 全然……想像ができなくて」
「基本は今行っていることと大差はない。事前に秘書課で研修と資格を…… 」
「そうじゃなくて!」
佐伯の言葉を強く遮ったのが意外だったのか、怪訝な目がこちらを見る。
「 あの、そう言うのって秘書課から選ばれるものでは」
口答えをしたからか苛立ちを含ませたような目に睨まれて、先程までの気分がどこかに飛んで行ってしまっていた。
気まずくて次の言葉を言い出さない僕に、溜め息が聞こえる。
「三船を選んだのが納得できないか」
秘書業務に出張の同行があるのだとしたら納得ができる。けれど、それだけで僕を選ぶのは納得ができなかった。
膝の上で作った拳が血の気を失って小さく震える。
「 すみません。自分には 荷が重いです」
隣の気配がはっと息を飲み、重い沈黙が落ちる。
自分のような人間が仕事を選り好みしているのが、酷く失礼なことだとは百も承知だったけれど、秘書としての能力がないのはどうしようもない。
「だって……選んだ理由が 」
辺りを見回し先に続く言葉は声に出さなかったが、口の動きで分かったらしい。佐伯が皮肉を込めたように唇を歪めるのが見えた。
「自分の体には自信があるんだな」
「 っ」
急激に頭に血が上ったせいか、視界がチカチカと点滅する。
咄嗟に顔を覆うが、耳たぶまで真っ赤になったのが分かった。
自惚れだったように聞こえたのが恥ずかしくて……
「 そ、じゃ ないです」
「そうだったな。上に倣うならそれも秘書業務だったな」
「ちが 」
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