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しおりを挟む「お、おはようございます」
「ん。おはよ」
眠そうに眼を擦りながら新聞を読む小林の前には、きちんとした朝食が並んでいた。
「朝は何がいいかわからんかったから、適当にしといた」
サンドイッチ、ベーコンエッグ、コーヒーの匂いもする。
新聞を畳みながらあくびを噛み殺すのを見ると、あまり寝てないんじゃないだろうか?
「すみません……手伝いもせずに……」
「気持ちよさそうに寝てたからさ、できるだけ寝かしといてやろうかなって。やっぱ回復には睡眠が一番!」
顔を洗ってこいと言われて覗き込んだ鏡に映る自分は、しっかり眠れたし、昨夜泣いて過ごさなかったせいか腫れてもいないし、赤くもない。
小林が提案してくれたことでこんなにも浮上してるんだから、現金だな と頬を抓ってぼやいた。
報告書に目を通し、誤字脱字やおかしい箇所がないか最終確認をしてから送信した。
あまりにも呆気なく終わってしまった仕事に、平日のこんな時間に私服でいることが悪いことのように思えて……
「会社 行きたい、な 」
その理由が仕事がしたい ならワーカホリックだけれど、あの横顔を思い出してしまうのは……
けれどその横顔の本人に休めと言われたのだから、無理に行っても冷たく睨まれるだけだ。
それに、本当に少しだけだけれど、小林を受け入れることができたら、幸せなんじゃないかなって思う自分もいて。
次回の出張に誘われたとして、僕は同行するんだろうか?
同行したとして、準備をしてその部屋の戸を叩くのか?
今まではしなくてはいけない使命のようなものを感じていたけれど、断ることができたなら小林の元へ行けるような気がした。
「みーつけた。待った?」
「いえ、全然 」
と言いたいところだけれど、目安にしていた時間は大幅に過ぎている。
「トラブルありました?」
自分がいない間に何か会社で起こったのだろうかと、そわそわと落ち着かなげに尋ねる。
「仕事人間だなぁ! いやちょっと……早退の理由でごたついてさ」
「理由? 無理しないでくださいよ! 出かけるのはいつでもいいんだし! 会社での立場が悪くなります!!」
そう怒鳴ると、僕に怒られたことが新鮮だったのか小林の瞳がキラキラと輝く。
「心配? 心配してくれてる!」
「しますって! 普通に!! で、なんて早退してきたんですか?」
ちょっといたずらが見つかった子供の顔でごまかすように笑ったので、厳しい顔をして首を横に振った。
「んー……祖母が危篤ってことになってる」
「何回目の危篤ですか?」
「えっと 」
指折り数えて思い出そうとする顔に思わず笑った。
「バレますよ!」
「設定では病弱なんだ。次は祖父にするから大丈夫、まだ2回しか葬式やってない」
「それは絶対ダメな奴!」
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