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しおりを挟む叫び出したいことを吐き出せなくて……
「苦 し 」
小林は譫言のように繰り返す僕を辛抱強く抱き締め続けてくれた。
さんざん言えなかった言葉を吐き出して一度冷静になってしまえば、他人の腕の中で駄々をこねて泣いているのが恥ずかしくて……
もぞもぞと体を動かして身を引こうとした。
「なんだ。もういいのか?」
「え、と あの、落ち着きました」
かぁっと赤くなってしまった顔を小林から逸らすが、回り込まれて逃げることができずにじぃっと顔を見られる。
「赤いな、擦りすぎたか?」
「や、平気です、平気」
実際に赤いのは恥ずかしかったからで、軽く押さえるようにして拭いてくれていたので肌が痛むことはなかった。
乱暴そうで、思いの外優しい手つきが面映ゆくて。
腕を突っぱねて距離を取る。
「なぁ」
「はい?」
「痛くないとダメとか?」
は? と間抜けに返せば小林は顔を赤くして俯いてしまった。噛み砕いて話そうと言葉を選んでいるのを見ていてやっと意味に気がついた。
SMの趣味があるのかと問われているのだと、握った手に汗をかくのを感じる。
「ち、違います!」
大慌てで手を振るが、どこまで説得力があるのか……
「そか、ほっとした あのさ、その相手を切って、俺と付き合わない?」
ぽかんとなったのが自分でもわかる。
小林が打たれ強く立ち直りも早い人だとは思ってはいたけれど、他の男の痕跡のある人間に告白できる人だとは思わなかった。
「 え、だって 僕 」
「別に俺だって童貞ってわけじゃないし」
目つきのせいか、ぶすっと膨れると怒っているようにも見えて。
でも耳まで赤いのは怒りじゃない証拠だろう。
「順番は 飛ばさないように、出来るだけ 頑張るから」
逃げ道を作るのが年不相応に幼い感じに思えて、小さく微笑んで困り顔の小林を見上げる。
「あー……嬉しくなれるようなこと、いっぱい考えるから 」
頬を掴まれて、むにむにと揉まれるとなんだかからかわれているようで……
「柔い……」
「や、やめてくださいよ 」
「キスしたいんだけど、デートしてからだっけ?」
「まず 付き合ってから……だし、まだちゃんと返事も 」
口の中で呟く言葉を小林は聞いてくれたらしい。
こくこくと頷くと目の前で片膝をつき、僕の手を取る。
「わかった。じゃあちゃんとする」
「えっ!? ちゃんとするのは僕で……」
何事かとびっくりする僕を置いて、
「幸せにします! 一緒に笑って過ごせるように努力します! 三船を泣かさないと誓います。俺の元に来てください!」
宣言と共に指先にちゅっと口つけされて、頬が赤くなるのを感じた。
今、何をされたのだろうかと戸惑っていると、怪訝そうにそろそろと顔を覗き込まれた。
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