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しおりを挟む「タオルこれな」
思ったよりも普通な小林に、男同士だから恥ずかしがる必要がなかったのかとほっと胸を撫で降ろす。
「着替えもいるか?」
ぴしりと畳まれたスウェットの上下を渡され、これもイメージと違うと目を白黒させた。
「ありがとうございます。風呂、広そうですね」
「んー? 普通じゃないかなぁ」
スラックスを脱ごうとして何気に小林の視線がそれを追いかけているのに気がつき、顔の向きと視線のズレを思わず半眼で睨んだ。
「先輩!」
「や 見てないよ」
そう言いつつも気づかれて開き直ったのか、視線ははっきりと足に注がれている。
「見てるじゃないですか!」
スラックスを引き上げて抗議の声を上げるも、さっと小林の顔色が変わった。
「 おい、なんだそれ」
先程までの軽い言い合いの声音じゃない。
急に冷たさを増した声にはっと怯えて後ろによろめくと、堪え切れずに尻もちをついてしまった。
厳しい顔を見せられ、胸を押されるような息苦しさに小さな震えが起こる。
「足の、そこ」
唇の傷や、目の周りの腫れにばかり気が行って、そこに何があるかなんてわからない。
恐る恐る視線を伝って足に目を遣ると、太腿の辺りに止まっていることに気が付いた。
そこは佐伯に力任せに掴み上げられた部分で、そろりとウエストのところから覗いてみると赤から紫の内出血を見せていた。
「あ 」
「泣いてた原因は 暴力、なのか?」
ワイシャツを引き寄せ、ぎゅっと体を縮めて首を振る。
「違います!」
「じゃあそれなんだよ!」
「これは 駅の階段から、落ちて」
嘘臭いとは自分が一番わかる。
「…………馬鹿にすんなよ」
絞り出された声が怖くて、握り締めた手がカタカタと震える。
「医者行くぞ、診断書取って 」
「ちがっ !」
咄嗟に小林に伸ばした腕の内側にも乱暴に掴まれた痕が赤く見えた。
慌ててそれを隠し、もう一度握り込む。
「 ご 合意です 」
「 」
「合意なんです」
「そう言うってことは、暴力だけじゃないってことだな」
血の気が下がった。
「あ……」
言い逃れのしようがなくて、じりじりと後ずさる。
「あの、 す すみませ 僕、やっぱり 帰りますっ」
脇を抜けて駆け出そうとしたけれど、小林の腕に阻まれてたたらを踏んだ。
「 ぁ、ごめ、 すみ、すみませ 」
ふ、ふ、と息が切れ、うまく言葉が出ない。
肩を掴まれたけれど、恐怖が勝って振り払ってしまった。
「 やっとどもらなくなってたのにな」
八の字になってしまった表情は同情なのか、扱いに困ってしまったのか僕には判断がつかない。
ただ やっぱり、拒否されるのが怖くて、逃げ出したくて仕方がなかった。
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