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しおりを挟む「あー……」
手の甲で触れると、熱い感触が返る。
彼の気遣いに嬉しく思いながら有り難く受け取って、それを目元に当てた。
「あはは みっともないですね」
反応に困る言葉だとわかるのに口から出してしまった。
「それだけ一生懸命なんだよ!」
一生懸命?
出張から帰った足でそのまま来たから、仕事で失敗したようにでも見えたんだろうか?
仕事での失敗だったら、良かったのにと思うのは社会人として失格だ。
「今日はアルコールは止めて、こちらはいかがでしょうか?」
目の前に出されたのは、
「ココア?」
「甘さは控えめで作っています、お好みでどうぞ」
そう言って添えてくれたのは、可愛らしいピンクと白のハート型のマシュマロだった。
「何でもあるんですね」
ココアやマシュマロが普通に常備されているのかは知らなかったが、こうやって出されるのは初めてだ。
「たまたまですよ」
柔らかく微笑まれ、こちらも小さく笑いが作れた。
深いチョコレート色の液体がカップの中で光を映して揺れる。
ほろ苦さと、甘みと、
両手で持ったカップの温もりに涙を誘われそうになる。
軋む体は、まだ節々が悲鳴を上げていて、酷いことをされたのに残る熱が思考を正常に戻してくれない。
ひやりとこちらを見下ろす目も、
力強く乱暴な手も、
それでも抱かれている間は嬉しいと思ったのも、
切り替えができないほどまだ生々しく僕の中に残っていて、気を緩ませるとそのことに引きずられてしまいそうだった。
熱に浮かされた嬉しさと、現実に戻った際の落差に心が抉られる思いがする。
「 ────三船、来てたん だな 」
呼ばれて振り返りかけたが慌てて顔を伏せた。
「おい!」と鋭い声に飛び上がったけれど、小さく首を振るとそれ以上声を荒げることなく、隣に座る気配がした。
尋ねようか、どうしようか、そう言った雰囲気がひしひしと伝わってきて、いたたまれなさに負けてそろりと顔を上げる。
「 はは すみません」
「なんで謝ってんだよ! 何があったんだ?」
何が?
生でヤられて、ナカに出されて、気を失うまで攻められた。
挙げ句、酷い面で仕事も満足にできなかった。
そんなこと、言えるはずがない!
「ぅ ────っ、ぅ」
ぽた……と雫が手の甲に落ちる。
「泣くなって 」
肩がぐっと引き寄せられ、小林の方へと傾いだ。
「すみません なんか、情けなくて 」
「仕事のことか?」
ぐっと言葉が詰まって、苦しさに体を折る。
「仕事じゃ言えないこともあるよな」
小林はそれ以上理由を尋ねることはせず、辛抱強く僕の背中を撫で続けてくれた。
ず……と鼻を啜る。
「 なぁ、慰めさせて欲しんだけど」
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