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しおりを挟む腰が砕けて、力の籠らない腕じゃ上半身を支えきれなくて、熱い胸板の上に突っ伏する。
早い鼓動と、汗ばんだ肌。
お互いの密着した胸から伝わるのは心臓の音だけで、その大きな音は他のすべての音を駆逐してしまったらしい。
脈拍だけが聞こえる。
「ィ、イかせて お願い し 」
二人の間で潰された僕の杭がずきずきと痛む。
縋りついて懇願するも許可の声は聞こえてこない。
「お前は 本当に何を考えているのかわからん」
うんざりしたような声で紡がれる言葉の意味が分からず、表情を窺おうとしたが後頭部を押さえ込まれて叶わなかった。
密着した耳に聞こえる心音に変化はない。
「 僕 も、部長の考えていることが、わからないです 」
と と心音が跳ねたような気がしたのは、気のせいだったのか……
吐精後の脱力は何とも言い難く、起き上がるのに一苦労だった。
カチン と音を立てながら佐伯が缶ビールに口をつけるのが見える。
「風呂に行ってる間に部屋に戻るように」
生まれたての小鹿よろしく起き上がった僕に掛けられるのは、そう言う時間が終わったことを告げる退去の短い指示だった。
他に何か一言でもあるかもしれないと無駄な期待を込めてゆっくりと服を着るも、シャワーに向かう佐伯は振り返りもしなかった。
ぽつんと薄暗い部屋に残される感覚は何度経験しても慣れず、服を着る手が小さく震える。
どうして僕は、こんな想いまでして、佐伯に抱かれているんだろう?
隙間風のように心の中に吹き込んできた言葉を繰り返しそうになって、慌てて首を振った。
なぜ抱かれているかなんて、答えはわかりきっているのに。
酷い抱かれ方をしていたとしても、盗み見る横顔や微かに歪む唇、確かな熱で自分を求めてくれるのが……嬉しいからだ。
佐伯に対してどうかしていると思うのと同じくらい、どうかしていると思いつつも僕を欲してくれるのが嬉しい。
例えそれが肉欲だけの話だったとしても。
目の前で家族と話をするなんて、酷いことをされても だ。
泣き出す前に急いでサイドテーブルに放り出していたカードキーを掴み、シャワーの音を聞きながら佐伯の部屋を飛び出す。
瞬き毎にぽろ……と頬の上を転がっていく涙を止めることができず、辺りを見回して誰もいないのを確認してほっと胸を撫で下ろした。
急いで隣の部屋に向かいカードキーを差し込むが、小さなエラー音が出て赤いランプがつく。
「えっ……なんで」
もう一度試してみるがそれは変わらず、手の中でくるりとカードをひっくり返して納得した。
カードと部屋の番号が違う。
こんな簡単なミスに気づけない自分の状態に情けなさが募り、流れ続ける涙を拭って小さく鼻を鳴らす。
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