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しおりを挟む「興味あるとこないか?」
「え 最近は、お城、とか?」
「しっぶいな! じーさんかよ」
「改装されたってニュースで見たから!」
渋いと言われて慌てて言い繕うも、小林の笑いは止まらない。
「えーじゃあ、そこ行くか」
「ええ!?」
「土日使って」
それは……泊りがけで行こうと言う意味で間違いないんだろう。
ノーマルな者同士の、友達としての旅行ならば問題はないと言うことも同時にわかる。
「いろんなとこ回って、泊りがけで行ったら楽しい と、思うんだけど、どうかな?」
言葉が詰まって、手の中のコーヒーが音を立てる。
じっとりとした汗が掌を湿らせて、どう返事をすればいいのか考えているはずなのに頭の中は真っ白だ。
「────ここは、飲食禁止のはずだが」
平坦な声なのに飛び上がった。
その拍子に缶から零れそうになったコーヒーを追う目がひやりとしていて、「お疲れ様です」の言葉が喉につっかえた。
僕が動けないのを察したのか、小林が横目で見てから頭を下げる。
「佐伯部長!すみませんっ直ぐに出ていきます!」
「 」
「三船! 行くぞ!」
立ち竦んで動けない僕の手を小林が引っ張った。
温かくて力強い手に釣られて立ち上がり、引きずられるようにして佐伯とすれ違う。辛うじて会釈はできたけれど、僕達を見る目に言葉は何も出なかった。
「 びっくりした!なんであんなとこにくるんだよ」
前を行く小林はそう毒づくのだけれど、以前にもあそこで佐伯を見かけたこともあるので、まったく来ないと言うこともないはず。
タイミングが悪かったと、言ってしまえばそれだけなのだが……
「やっぱ、めちゃくちゃビビる!」
休憩所の奥にある窓ガラスの傍まで行き、ほっと一息吐く。
「 あ、先輩っ手を……」
ぎゅっと握られたままの手を見つけて休憩所をさっと見渡す。
幸い他に誰もおらず、手を繋いでいるのを咎めそうな人はいなかった。
「あのさ、誰か来るまで繋がせてもらっててもいいかな?」
「あの 」
お互い緊張しているのか、繋いだ手は汗ばんでいて……
でも、手を握っていてもらえるのがくすぐったくて、小さく頷いた。
「 で、その、さっきの話の続きなんだけど」
「あ、あの、やっぱり、ちょっと 」
「や、泊りがけでって言っても、下心は……ちょっとだけ」
人差し指と親指の隙間は存外広い。
「それに……以前に言ったように気になってる人も、いて 」
「それ、俺 じゃあなさそうだな」
「ノンケの人なんで」
「あー……ノンケ相手じゃ望み薄だな」
ぽろっと返された言葉はノーマルな男性に惚れたゲイに向けての常套句だけれど、思いの外ずしりと心に重くのしかかる。
恋愛と言う前に立ちはだかっていたハードルを再認識させられて、じっとりと小林を睨んだ。
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