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しおりを挟む奥からのそのそとやってくる小林は、草臥れたような顔はしているが元気そうだった。
「資料室の噂聞いたので。休憩がてらコーヒーとかどうですか?」
手の中の小さな缶を振って見せると、小林は疲れていたのか「はぁ~」と長い溜息を吐いて手招く。
小林に近づきながら左右の棚を見てみれば、それぞれがファイリングし直されてきちんとファイル名も記載されている。
「頑張りましたね」
「だっろー? しかも一人だし、総務の方の仕事と並行してだぜ」
ぎりぎりと歯を食いしばられると、傍で一緒に休憩しようと言う気がどこかに飛んでいきそうな気がする。
気まずい雰囲気を変えたくて、小林の手の中に冷たいコーヒーを押し付けた。
「休憩しましょう!」
「しょうが、ねぇなぁ」
多分まだ手つかずの資料が入っているであろう段ボールの上にどっかりと腰を下ろし、美味そうにコーヒーを飲み始める。
「まだまだ未整理分もあるんですか? 全部入ります?」
「うん、でも保管期日が過ぎた日誌やらは処分対象だから、そこを捨てて……まぁなんとか」
ため息交じりな雰囲気は、まだまだ処理しきれない書類があるのだろう。
「お前は? 最近どんな?」
「最近 忙しい、です?」
ふはっと吹き出され、飛んだ雫を慌てて拭う。
「お前の感想、いつもそんな感じなんだな!あー……まぁ言えないことも多いか。出張が結構あるって聞くけど?」
「そう、ですね。 よく、行きます」
こちらを見て話しを促す小林に、出張に行く度に上司に抱かれ続けている体を見られたくなくて、膝を抱え込んで小さくなる。
これで何が隠せると言う訳ではないのだけれど、まっすぐに見つめられて酷く恥ずかしい気がした。
「えー?佐伯部長とだろ?せっかく遠出しても楽しめないな」
「 部屋は 別ですから」
ちゃぽん と缶に残ったコーヒーが音を立てる。
部屋は別だけれども……
夜になる度、佐伯の部屋の戸を叩いていると告げれば小林はどう言う反応をするかと、昏い疑問が頭を擡げる。
「なぁ、ちょっと、出かけないか?」
「え? 夕飯ですか?」
「違うって! ちょっと近場で。観光できるとこ」
にこにこと笑う顔は先程擡げた昏い考えとは真逆で……
引き戻された明るい世界に、ぱちぱちと目をしばたたかせる。
観光? と言うことは遊びに、行こうと言ってくれているんだろうか?
自分の性癖のせいで引け目があって、そうやって遊びに行けるような友達は作らなかった。
提案されたそれは、思春期から憧れていた行動の一つで。
魅力的な提案だ。
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