棘の鳥籠

Kokonuca.

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「邪魔を  したんですね、申し訳ありません   」
「   世話係のことでも考えていたのか?」

 半分だけだけれど、言い当てられて頬に赤みが差すのがわかる。
 咄嗟に頬を隠そうと手を上げたが、それは掴まれて叶わなかった。

 力で勝てるとは思わなかったが、それでも手を振り払おうと力を込める。

「 っ!先輩は関係ないです!」
「こちらを向いて言え」

 強い指先に顎を捕られると、皮膚が薄いせいか骨に響くような痛みがする。

「 かん  け、ないです」

 ぎゅうっと力を籠められると、このまま顎が割れてしまうんじゃないかと震えてしまって……
 突き放すようにベッドに押し倒されて仰向けに転がると、冷たい目がこちらを見下ろしてくる。

 光の反射の具合でハシバミ色に見える瞳をぼんやりと眺めていると、男らしい手がこめかみを撫でた。

「いつも泣くんだな」

 涙を拭われたのだと気づいた。
 親指を濡らすそれに舌を這わせる姿に、自然と顔が歪む。

「    部長」

 呼んではみたが、返事はない。
 代わりに濡れた指が僕の胸の頂を掠めた。

「 っ、部長」

 上がりそうになった言葉を飲み込んで、もう一度呼びかける。

「なんだ」

 指先で捏ねられて赤い粒が固くなる。直結しているかのように下腹部の熱に、息が跳ねた。

 目を遣らなくても、体が感じ始めたのが分かった。

「 僕達の関係って   何なんでしょうか ?」

 この状況で、酷く滑稽な質問だった。
 あられもない恰好で男の愛撫を受けている人間が、ずいぶんと間の抜けた聞き方だ。

 ざらりとした掌に、胸から脇にかけて撫でられてぞわぞわと鳥肌が立つ。

 手が脇から尻へ、腿を伝って滑り降りる。

 その感触に震えて、立ち上がった先端から透明な雫が滴る。
 自分では何の反応もなかったソコの淫らな猛りに、顔が赤く染まるのが分かった。

「こんなにされておいて、今更聞くのか」

 歪む唇からはそれ以上の言葉は出ない。
 もう少し、明確な言葉が欲しくて開こうとした口は、起立してしまった芯を握られて閉じる他なかった。

 この関係が妻子ある佐伯との不倫だと言うことも、
 世間で言うところの愛人だのだと言うことも分かる。

  それ以外の何かが、あればと……思ったのだけれど……







 会社の資料室が清潔に、かつ見やすくなったと噂に聞いた。

「ちょっと休憩してきます」

 以前に奮闘していた小林の姿を思い出し、休憩時間にコーヒーを買って資料室に向かってみた。
 スチール棚と冊子の並ぶそこはやっぱり電気が灯っていても薄暗い感が拭えない。

 奥までは棚がいっぱいで見渡せないので、入り口の辺りから声をかけた。

「お疲れ様です! 先輩? まだいたりします?」
「  おー、いるぞ」

 総務の方に先に顔を出すか、こちらを覗くか迷ったけれど、人気のないこちらを選んで正解だったようだ。



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