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しおりを挟む今日は星が綺麗に見える と、微かに光る小さな粒を見上げて思う。
空気が澄んで世界が綺麗に見えるのは、気温の関係とか空に塵が少ないとかそんな話じゃなくて興奮しているからだ。
「養子縁組になるんですかね? 日本だと」
「そうだなぁ 思い切ったなぁ 」
小林も少し興奮気味のようで、いつものきつい顔が緩んでいる。
「なぁ三船」
「はい?」
「そこの街灯まででいいから、手を繋いでくれないかな?」
え!? と思わず辺りを見回して人目がないのを確認する。
突然何をと返す前に、ぎゅっと手を握られた。
「なんか温もりが欲しくて」
そう呻くように言う小林先輩の耳は赤い。
わからないでは、ない。
今日の雰囲気に当てられてと言うか……多分、そんな感じで興奮しちゃって仕方がないんだろう。
だから、ちょっと力を込めて握り返して、「そこまでですよ」と歩き出した。
「なぁ 」
「はい?」
「恋人、いないの?」
「あはは はい」
街灯同士の距離なんてそんなに広くなくて……
あっと言う間に約束の街灯に到着したので、小林がしっかり握っている手を引っ張ろうとした。
でも、手の力は一向に緩んでくれない。
「もうちょっとだけ、繋いでてもらえないかな?」
この時間、この辺りに人気はない。
「 じゃあ、次の明かりまで」
「ん 」と頷く意外な素直さに、なんとなく弾んだ気分で歩みを進める。
「気になる奴とか、いないのか?」
そう問われて浮かぶ人がいることはいるけれど、それは言えない名前だ。
「 それ、は 」
歯切れの悪い言い方をしたせいか、こちらを振り返って心配そうに覗き込んでくる。
「どうした?」
「いない わけじゃ、ないんですけど 」
あんなに抱かれているのに、佐伯とはこうやって手を繋いで歩く機会が訪れることはないんだと、返事ができないまま三つ目の街灯の辺りで気が付いた。
「 なんか、悩みごとか?」
悩みごと と言うより、ない物ねだり。
「いえ、 何でもないです。なんか、手を繋ぐのって照れくさくて 」
誰かと手を繋いで歩くなんて小学校の行事以来だ。
ちょっと控えめな力の込め方が初々しくて、しっかり握られるよりも気恥ずかしい。
「そっか、照れくさいって思ってもらえて、嬉しい」
「先輩?」
夜の帳が降りたそこは色彩が暗く沈んでしまっていて……
顔色が、赤い?
一瞬前に街灯を過ぎてしまったせいか目が慣れず、よく見えない小林の顔を見上げた。
きつい三白眼が僕を見下ろす。
「 せ、ぱ ?」
睨まれているのかなとひやりとしたけれど、そうじゃない。
こちらを真剣に見てくれているんだ。
「あの、さ。付き合ってくれ」
「どこにですか?」と言う野暮ったい答えは寸でで飲み込めた。
だからと言って代わりの言葉が思い浮かばず、「え」とか「あ」の短い言葉にもならない音が口から洩れた。
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