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しおりを挟む薄い、筋肉のない胸と腹に飛んだ精液から熱が消える頃、ずっと重なったままだった唇がゆっくりと離れる。
擦り合わせすぎて、少し引っ張られるような感覚がした。
硬質で小さな光を落とす目が、まだ息の整わない僕の上を彷徨って、一度閉じられる。
「 っ、部 長……」
しゃくりあげる僕に再び目をやり、サイドテーブルの上のティッシュを取って渡してくる。
「……」
「あり がとう、ございます 」
体を起こせば、どちらのモノともわからない精液が重力に沿って流れ落ち、濡れた軌跡だけを残す。
急速に冷めてしまった体の熱は、思考を取り戻させるのには十分だったようで、
「 酔っていたようだ」
常套句。
けれど、佐伯には似合わないと思った。
「 」
「然るべき手段をとってくれて構わない」
僕の体の上を彷徨う視線に促されて、慌ててティッシュで液体を拭い取ると小さく首を振る。
「相応の償いは 」
「 僕が、酔って い、 いたんです」
弄られてじんじんと痺れを訴える胸や乱された下半身を隠し、痕跡をすべて隠してから頭を下げた。
「僕が 酔って、ぶ 部長を、誘惑、したんです」
つまらない言葉に耳が赤くなる。
誘惑なんてものは誘って釣られたくなる魅力のある人間が使う言葉だ。
「何を言っている」
「部長も、酔って……ま、間違えた、だけです」
何が間違えだったのかなんてのは、何でもいい。
男と女の体を間違えるなんてことはないし、間違えていないと言うのも百も承知だ。
「それだけです」
はっきり言えるなんて思わなかったが、会話の打ち切りの言葉としては大きかった。
佐伯は何も答えず、サイドテーブルの上の缶ビールを取って口をつける。
その際に、小さくカチンと響いた金属音の正体を知っている。
佐伯が家庭を持っているのを知っている。
佐伯が女性を愛せるのを知っている。
佐伯が僕のことなんかなんとも思っていないのも知っている。
佐伯が、僕にしたことが間違いだったことも、ちゃんと知っているんだ。
「 す みません。こちらの、ベッドを借ります」
手を突いた部分は、僕の汗で湿気っている。
それに気づかないようにして、冷たいベッドに頭まで潜り込む。
背を向けた方から、また金属音が小さく聞こえた。
田舎で生まれ育って、どう言った相手に性欲を感じるのかがはっきりした時、友人たちとうまく接することができなくなったし、家族たちともぎくしゃくとした。
男が好きだとバレて白い目で見られるのだけは嫌だったから、人とは距離を置いた。
そして大人しくて女に奥手だ……と言う周りの認識を、ただ肯定するだけで学生時代を過ごして……
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