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しおりを挟むいつも整えられた髪がほんのわずかだけれど乱れているのは、初めて見た。
羨望?
憧れ?
尊敬……
……それから、少しの、欲情。
佐伯は何も言わないし、こうやって一緒の部屋に泊まれてしまうのだから気にはしないのだろうけれど……
僕にとって、男は恋愛対象だ。
どう言う風に見られるか、気にはならないのだろうか?
それとも、僕の存在は部長にとって些末なものなのか……?
自分のちっぽけさに、涙が出そうだ。
「 すみません、先に風呂に行ってもらうべきでした」
薄暗い部屋の中で浮き上がる双眸が、こちらをひたと見つめ返した。
「 目が赤いな」
佐伯の瞬きが、遅い。
「 そうだった」
何が? の問いの前に僕の視界は急回転して、腕を引っ張られた痛みとベッドに押さえつけられた衝撃で息が止まった。
灯りを背負って僕にのしかかる佐伯の顔は、影に隠れて窺うことができない。
ただ、わかるのは両目が光を反射していることだけで……
「 あそこで」
「ぶ…ちょ?」
あそこがどこを指すと明確に言われはしなかったが、僕には思い当たる場所があった。
「お前は、男に 」
「──っ」
ひやりと胸の内が冷たくなる感覚と、顔が赤くなる感覚がした。
ようやく息が吸い込めたと思ったのにうまく吐き出せなくて、続きの言葉を聞きたくなくて固く目を瞑る。
「 襲われて、」
初めて同じ性指向の仲間と会えて、はしゃいでいたんだと思う。
そして自分がそうではないので、酔っぱらった人間の悪質さに気づけなかった。
「 泣いて」
呟く声はうわ言のようだ。
「泣いて 」
「部長……どいて、く ださい」
閉じた瞼の隙に、温かい雫が溜まる。
集まって、溢れて、それがこめかみを伝い落ちるのに時間はかからなかった。
「こっちを見ろ」
命令に、歯を食いしばって首を振る。
「見るんだ」
二度目の言葉はきつく、抗う勇気が出なくて恐る恐る瞼を開けた。
ぽろぽろと、自分の意思とは関係なく涙が落ちる。
「 」
声は、聞こえなかった。
もしかしたら何か言っていたかもしれないけれど、噛みつかれるような口づけに驚いた僕の声の方が大きかった。
「────っ!!」
深く、ベッドに沈み込む。
逃げることも身じろぎも許されず、荒い息が二人の唇の間で押し潰されて……
ワイシャツを掴んで引っ張ろうが、背を拳で叩こうがびくともしない。
唇を引き結んで逃げようとするも大きな手が頬を掴み、親指が隙間を抉じ開けるように差し込まれ、逃げ場のないまま佐伯の舌を受け入れることになった。
初めての他人の舌の感触はほろ苦い酒の味で……
「 口を 開けるんだ」
銀色に光る糸が繋がる距離で囁き、ねじ込まれていた親指が歯を開けとせっつく。
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