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しおりを挟む「今晩どうだ?」
食事? 酒? でもと言うようなジェスチャーに頷いて見せようとした時、部署の扉が開いてコツコツと足音が近づいてきた。
佐伯の登場に二人して固まると、冷ややかな視線がこちらを見つめる。
「今晩は残業をしてもらう」
「え? そんなこと一言も……」
抗議に上げた言葉も、冷たく見下ろされてしまえば口の中で行き場を失って消え、見上げていられず顔を伏した。
「三船の世話係だったな」
「指導係です」
「三船はこちらの基本的な業務を早急に覚える必要があってな。定時で帰れるのはまだ当分先だ」
親切心からそう言ってくれているはずなのに、心の小さな部分が納得できずにいるせいか素直に頷くことができず、ぐずぐずと小林と佐伯の顔を交互に見てしまう。
ちょっと眉を八の字にした小林は、僕のことを心配してくれているんだろうと分かる。
けれど佐伯はただ……ただ……
睨みつけられて体が動かない。
「で、ではまた改めて誘うことにします」
「ああ。そうしてくれ」
すまないなともう一度繰り返したが、謝罪の雰囲気ではなかった。
「せ、先輩! 荷物ありがとうございました!」
部長の威圧感に負けて段ボールを持ったまま帰ろうとした小林に駆け寄ってその腕から荷物を受け取る。
「すま 忘れてた、じゃあな」
また連絡する……と言うような言葉を口の中でもごもごと呟いてエレベーターの中に消えていった。
なんだか鬼か幽霊にでもあったかのような風に、そろそろと隣に立つ佐伯を見上げる。
にやり……と右側の唇が歪んでいるのを見て、初めて見たと言う思いとこんな笑い方をするんだと、新発見をした気分で目を見開いた。
「あれは、お前を泣かしていた奴だな」
「え⁉」
こちらを見下ろした佐伯の表情はもう笑ってはなかったが、より精悍さが際立つようで自然と顔が赤くなる。
「小林先輩はむしろ僕を助けてくれたんです、だから……」
赤みを知られないように顔を伏せると、「そうか」とポツリと返された。
「め、面倒見のいい人です」
「……そのようだな」
手の中の段ボールに視線が向けられている。
本来なら内示があるはずなので片付けも準備もできただろうに、急に連れ出されてデスク回りを片付けることもできなかった。
「行くぞ」
促され、小林が乗り込んだエレベーターにちらりと視線を遣ってから慌てて後を追いかけた。
佐伯の考えていることがわからず、傍に居ると困惑するばかりだ。
喜怒哀楽はあるとは思うけれど、しばらく下について共に行動してもその差が良くわからない。
それに、隙が無くて人間味を感じない。
そう言う方がしっくりくる人だった。
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