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しおりを挟む「いや……怖い思いした奴に言う言葉じゃなかった」
そう言うとちらりとこちらを窺うように見てくる。
三白眼気味の決して優しい目つきではないのに、どうしてだかほっとする視線だった。
「あの人いつも無茶ぶりしてくる人だからさ、電話くれてよかったよ」
「あ、ありがとうございました」
小林は打ち合わせの会議室からここまで走ってきてくれたんだと思い出してお礼を口にすると、小林は照れたように頭を掻く。
「無茶ぶり以外何もされてないか?」
「あ 」
そう言えば と突き飛ばされてぶつけた腕を思い出して、スーツの袖をめくる。
元々、皮膚が薄いと言うのか弱いと言うのか、ちょっとしたことで赤くなりやすい体質なせいでぶつけた部分は赤くなってしまっていた。
「おい、これ! 内藤にか!?」
「や、違います! そんな酷いものじゃなくて……そう言う体質って言うか……」
慌てて首を振ろうとした時、二人だけだったオフィスにかちゃりと小さな音が響いた。
はっとそちらを見ると入ってきた人物は意外な人で……
入社して、ここでその姿を見るのは初めてだった。
総務にいる上司たちとは明らかに纏う雰囲気の違いに、緩んでいた空気が強く引き絞られるような気配が漂う。
「佐伯部長、お疲れ様です。何か御用ですか?」
さっと頭を下げた小林に倣って頭を下げると、その拍子に目の縁に溜まっていた涙がぽたぽたと床に落ちてシミを作る。
しまったと思って慌てて拭ったが、逆にそれは不自然な動きだった。
「 何か問題があったのか?」
静かなオフィスに冷たい声が響いて、しかたなく顔を上げる。
縁に溜まっていた涙は先ほどの礼で消えていたけれど、目の赤みはどうしようもなくて……
泣いていたのが丸わかりの状態だった。
「なん、なんでもありません」
はっきりと返すが佐伯の視線は僕から離れない。
息が詰まるような気まずい雰囲気に俯くと、「それは?」と声をかけられた。
それの指すのは僕の腕のことだ。
「これは……ぶつかっただけです」
「……ぶつけた? 新人だろう? 指導係は?」
「私です、ただいま対処中でした」
小林がはっきりと返すと、鋭い両目が軽く細められて……
わずかな沈黙の後、「医務室へ。しっかり指導するように」とだけ告げ、綺麗に磨かれた艶のある靴を翻してオフィスを出ていく。
足音が扉の向こうで遠ざかってしまうまで、小林と息を詰めてお互いの気配を窺っていた。
「────っ はぁっ!」
最初に小林が大袈裟に息を吐く。
それを聞いてから、崩れ落ちるようにデスクへと突っ伏する。
「わっ、何やってんだよ!」
「や……だって 」
緊張が解けたからか、内藤相手とは全然違う緊張感に疲れた体は言うことを聞いてくれない。
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