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しおりを挟む何か言いたげに鼻息を荒げるも、小林に間に入られて言い返すこともできないまますごすごと背を向けていってしまった。
「…………」
「もう電話切っていいぞ」
そう言うと小林がはぁと盛大に息を吐いて椅子へと倒れ込む。
キャスターつきの椅子がその拍子にフロアを転がったが、それを咎める人はいない。
「はぁ」
もう一度溜息を吐くと、小林はネクタイを緩めて体を伸ばした。
荒く上下する胸は激しい運動をした後に見えて……
「は……走ってきたんですか?」
「電話かけたのお前だろ?」
そう言って小林はまだ通話中の携帯電話を振って見せる。
「あ! 電話……」
決していいとは言えない目つきの小林に睨まれて、大慌てでどこかに飛んで行った携帯電話を探す。
床には絨毯が敷かれているから遠くに滑っていくとは考えにくい。
「デスクの下は?」
「あ、見てみます」
膝をついて覗き込んでみると、薄暗い中に携帯電話の明かりが見えた。
「あ! ありました! ありがとうご っ」
振り向いた瞬間ガツンと音がして、遅れて強烈な痛みが頭に加わる。
とても硬いもので殴られたかのような衝撃だったけど、なんてことはない、ただ自分が頭を上げるタイミングを間違えただけだ。
「いっ ────たぁぁっ!」
突然大きな声を上げた僕にびっくりしたのか、小林が飛び上がってこちらに何事かを尋ねてくる。
「いった……頭を……」
頭の天辺を押さえて呻く僕に小林が血相を変えて駆け寄り、傷がないかと問いかけてきた。
「ったく、どんくさいなぁ。そんなだから内藤に って、いや、おい! ちが……っなんでだよ!」
突然焦り始めた小林にきょとんと首を傾げた瞬間、ぽろりと頬の上を何かが転がって落ちる。
とっさに小林が手でキャッチした涙は、掌で形を崩して広がっていく。
「なん、な、なんなんだよ!」
涙が零れ出したのは、単純に頭をぶつけた痛みに対する生理的なものだった。
けれど小林はまるで自分に責任があるかのように慌てふためくと、デスクの上のティッシュを数枚引き抜いて丁寧な手つきで涙を拭う。
普段の態度を見るともっとぶっきらぼうに小突かれて突き放されるかと思っていたのに、予想外の優しい行動にまた目の縁に涙が盛り上がった。
「すみ、すみませ っ」
「はぁ⁉ 謝るのは俺だろうが、ちょっとこっちこい!」
ぐいっと引っ張られてデスクの下から出ると、先ほどまで自分が座っていた椅子に僕を座らせてこほんと咳ばらいをする。
「ど、どんくさいって言ったのは……悪かったよ」
「いえ……どんくさいのは、自覚ありますし」
そう返すと、小林は気まずそうにぐっと言葉を飲んだ。
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