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しおりを挟むバシリと書類をデスクの上に投げつけられたことに反射的に身を竦ませると、こちらを見ていた隣の課の主任である内藤がにやりと顔を歪ませたのが見えた。
「どうしてできないのか聞いているんだ!」
大きな声にビクッと肩をすぼめながら、他課からの書類の処理には依頼書が必要なことと持ち込まれた書類は自分にはまだ手に余ることだと伝えたけれど、主任は引く気配を見せない。
「社会人だと言うのに、わからないから出来ませんと言い訳するのか!?」
「で、ですが……」
普段ならば指導役の小林や他の先輩にも相談もするのだが、会社の創立イベントの打ち合わせで電話番である僕以外は出払っていた。
「早く済ませろ」
苛立ったような様子のおかしさに突きつけられた書類に目をやる。
「あの、午後からでしたら先輩たちも戻ってくるので」
「それじゃあ遅いって言ってるんだ!」
張り上げられた大声に怯むと、どうしてだか主任がニヤニヤと笑って……
それが気持ち悪くて、慌てて携帯電話を取り出して小林の履歴を探す。
「今すぐ電話をして確認を取りますか っ」
どん と突き飛ばされてよろけた。
デスクに腕がぶつかって鈍い痛みがしたけれど、そんなことよりも手を上げる行為が恐ろしくてぎゅっと心臓が縮み上がる。
ぶつけた腕を押さえながら主任に視線を戻すと、あの笑顔が圧しかかるように近づいてきていた。
「ゃ……でん、でんわ……」
突き飛ばされた拍子に飛んで行った携帯電話を探そうとするけれど、動転してしまっているのかおろおろと辺りを見回すことしかできない。
「ほら、俺の言うとおりに……」
伸ばされた腕に思わず硬く目を瞑ったが、「何してんですか?」と言う呑気な声にそろりと目を開く。
「あー内藤主任またこれですか? ほら、依頼書は? あと抜けも多いしムリムリ! 返却でっす。新人だったら受け付けるかもーって思ったんでしょうけどダメですよ、俺がこいつの教育係なんで」
軽いパシッって音がして、主任が呻く声がする。
「脅せばなんでもいけるって思うの良くないですよ? そんなだから総務から総スカン食らってこうやってコソコソする羽目になるんでしょうが」
「な……」
「あ、もうじきうちの課長も戻ってきますし、ちょっとお話します? ちゃんと俺も立ち会いますからみっちり話し合いましょうよ」
「なに言って」
「俺だけでも言い返せないのに課長とタッグ組んだら、内藤主任明日から会社これなくなっちゃいますけどいいんです? それでなくても家にも居場所なくな 」
まだ続けようとした言葉を遮るかのように、主任が書類を奪い取った。
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