放課後教室

裏切り

8

「オレ…どうなってんだ？」 

　体が思う通りにならず、するりと違う意識に乗っ取られるようなその感覚に震えが起きる。 

「っ…」 

　威の顔が見たい…と思い、扉へと寄る。 
　耳を当てた扉の板からはまだ三人の騒ぐ声が聞こえており、葉人はノブに掛けた手を引いた。 


　楽しそうにしている… 


　聞こえてくる声は本当に楽しそうだった。 
　葉人と二人でいる時の、物思いに沈んだようなそんな声ではなかった。 

「オレなんかが…邪魔……しちゃ悪いよな…」 

　汚れた自分があの輪の中に入るのが酷く躊躇われた。 

　威の楽しい時間を自分が奪い取ってしまうような気がして、葉人は抱えた恐怖をそのままに一人すごすごと布団へと戻る。 







　手を開き、手を閉じる。 

　自分の意思の通りに動く手に違和感はない。 

「……」 

　思い過ごしだと、言い聞かせる。 



　ヴヴヴ…… 



　メールの着信を告げる振動に顔を上げた。 

『住所』 

　その一言と、ここから少し離れた住所とアパートの名前が書かれていた。 
「…先輩らしい…な」 

　それ以外の文が書かれていないのが少しさびしくて、葉人は『ありがとうございます』と返信に打ち込んだ。 

「………」 

　それから、一言付け足そうとして指が固まった。 

「…」 

　壁の向こうから笑い声が響く。 

「……寂しい…」 

　一言そう呟き、結局何も書かずに『ありがとうございます』の一言だけを送信した。