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露見
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しおりを挟む「恋人なんかじゃないっ」
子犬のようだと思っていた威の瞳に、狼のような鋭さを見たような気がして身をすくめる。
「悠哉とは…何もない。葉に似てるから、抱いた。ただそれだけの相手だ」
一番威に似つかわしくない言葉を聞いた気がして首を振る。
「何言ってんだよ…らしくない……」
「らしいって?」
問い返されて、威のイメージを思い描く。
真っ直ぐで、人当たりがよくて、誠実で、溌剌とした天真爛漫な……
「葉が勝手に思ってる俺のことか?」
思い浮かべていた言葉が、叩き潰されるような気がして額に手を当てる。
「オレは聖人君子じゃない。嫌いな奴もいるし、憎い奴だっている。好きでもない奴を抱くし、嘘だって吐く。葉とのこと想像して抜くことだって…」
「ちが…そんなの……威らしくな…い……っ」
「俺らしいってなんだっ!?」
「だ…だから……だか…ら…んっ」
重ねられた唇が傷に当たってピリッと痛みが走った。
押し付けられる唇から逃れようとすると、顎を掴まれて引き戻される。
「ん…ぅあ……っ威っやめ…」
「いやだっ」
指がシャツのボタンを引きちぎるように外し、葉人の抵抗などなんの意味もないとばかりにズボンを引きずり下ろす。
拍子に、ポケットに入れてあった携帯電話が転がっていく音がした。
「あっ…威っ!!やめろっ!」
「止めて欲しいなら理由を言え!なんであんなことされたんだ!?」
「…っ」
床に引きずり倒されながら、威の胸を押して抵抗するが、微かに眉をしかめるだけで動きは止まらない。
「葉に何があったのかもわかんないまま、あんな光景ばっかり見せられて…俺は……」
自分の上で体を震わせる威を見て、葉人はそっとその頬に手を置いた。
「威」
目の回りを赤くして、泣きそうな顔の威が葉人を見る。
はだけてしまった胸元を掻き寄せながら、一度、深く息を吐いて見つめ直す。
「……これが何かわかるか?」
体を起こしながら、葉人は掻き寄せていたシャツを大きく開いて見せた。
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