春、うらら

四輪駆動静音設計

文字の大きさ
上 下
8 / 13
混乱

処遇

しおりを挟む
新堀瑠菜が膝を骨折したというニュースは瞬く間に広まった。長い道のりを一定のペースで走らねばならない長距離選手にとって、長時間にわたって全体重を支える膝は生命線に等しい。大会への出場やファン感謝祭への出席はもちろんのこと、選手生命すら危うい状況に日本じゅうが落胆に包まれた。しかも、弱冠17歳にして日本新記録を塗り替えた期待の選手である。その実績ゆえスポンサーも多数付いているため、もし引退となった場合その損失は計り知れない。
学園側の意向により、骨折の原因は練習時の転倒であると報道されていた。学園内でもその場に居合わせた三人と理事会、一部の連合幹部を除き真相を知る者はなく、学園関係者や新堀瑠菜の入院する病院へのマスコミの接触も徹底して遮断されていた。

しかし、感謝祭を五日後に控えた日のことだった――

「理事長………っ!!!!」

スマートフォンを片手に早川なずなが飛び込んでくる。荒い呼吸と共に揺れる画面には大きく『新堀転倒はウソだった!驚愕!府中学園傷害事件』との見出しが踊っていた。どうやら今週の週刊誌のトップ記事のようだった。夏川はみるみる青ざめると、頭を抱えて机に突っ伏した。

「何だよこれ……………一体どこから……」

「各所からの電話が鳴り止まない状況です……現在は全て取材を断っていますが…」

「馬鹿野郎そんなの放っておけよ!」

夏川はバンッ、と大きな音を立てて机を叩くと、理事を招集するべく横の電話に手を伸ばした。

週刊誌やテレビでは加害生徒のイニシャルのみがモザイクのかかった顔写真と共に報じられた。しかし、新入生が突如暴れてスター選手を骨折させるという奇異な大事件に世間の好奇心は留まるところを知らず、インターネットではあっという間に個人の特定が進んだ。実名と顔写真は瞬く間にSNSや掲示板を駆け巡り、榛名うららは一躍時の人となった。

校門の前には大量のマスコミが押し寄せ、生徒たちは外出もままならなくなっていた。対応を巡って理事会が開かれたものの、なるべく大ごとにしたくないという理事長の意向により事実の公表は見送られた。その代わり、学園関係者および生徒からの万が一の情報流出を防ぐため、外出禁止令および箝口令が敷かれた。
当然、全てを隠蔽する学園側への反発の声は一気に高まる。マスコミの報道は過熱し、時にはありもしないことを捏造するメディアさえも出現した。しかし、学園側の後手後手の対応がこうした結果を導いていることは自明であった。

榛名うららの退学処分に関しては、理事会の過半数が賛成票を投じた。
強靭なフィジカルを有する陸上選手の卵が学園外で暴れることへの不安の声も世間では上がっており、彼女をそのまま学園に留め置くことは学園の信頼の失墜を意味する。何より世間に全てを知られた今、数日間の停学処分程度では事態を収拾することができないという判断によるものだった。
理事長は難色を示したが、連合幹部らの強い意向により彼女は感謝祭前日の四月十日付で退学処分となることが決定した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

眼異探偵

知人さん
ミステリー
両目で色が違うオッドアイの名探偵が 眼に備わっている特殊な能力を使って 親友を救うために難事件を 解決していく物語。 だが、1番の難事件である助手の謎を 解決しようとするが、助手の運命は...

こちら百済菜市、武者小路 名探偵事務所

流々(るる)
ミステリー
【謎解きIQが設定された日常系暗号ミステリー。作者的ライバルは、あの松〇クン!】 百済菜(くだらな)市の中心部からほど近い場所にある武者小路 名探偵事務所。 自らを「名探偵」と名乗る耕助先輩のもとで助手をしている僕は、先輩の自称フィアンセ・美咲さんから先輩との禁断の関係を疑われています。そんなつもりは全くないのにぃ! 謎ごとの読み切りとなっているため、単独の謎解きとしてもチャレンジOK! ※この物語はフィクションです。登場人物や地名など、実在のものとは関係ありません。 【主な登場人物】 鈴木 涼:武者小路 名探偵事務所で助手をしている。所長とは出身大学が同じで、生粋の百済菜っ子。 武者小路 耕助:ミステリー好きな祖父の影響を受けて探偵になった、名家の御曹司。ちょっとめんどくさい一面も。 豪徳寺 美咲:耕助とは家族ぐるみの付き合いがある良家のお嬢様。自称、耕助のフィアンセ。耕助と鈴木の仲を疑っている。 御手洗:県警捜査一課の刑事。耕助の父とは古くからの友人。 伊集院:御手洗の部下。チャラい印象だが熱血漢。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

処理中です...