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III 豪奢な檻の中
7※
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※無理矢理、言葉責め、玩具
目が覚めたとき、章介は見知らぬ部屋にいた。
何か昔の夢を見ていたような気がする。
そこは部屋、というよりも牢屋と表現するのが正しい部屋だった。
十畳ほどの狭い部屋の壁と床は石造りで、窓は高い天井近くに二箇所、小さな格子付きのものがあるだけ。
家具といえば寝かされていた簡素なベッド、小さな木のテーブルと椅子があるだけだった。
辺りはしんとして僅かな風の音しか聞こえてこない。窓から日が差していないところを見ると、夜のようだった。
章介は立ち上がり、唯一の光源であるランタンをサイドテーブルから取って部屋を隅々まで調べた。
ベッドは部屋の左奥に縦に置かれ、反対側の壁には木の戸棚とガラス張りのシャワー室がある。
ベッド側の壁の扉はトイレだった。
部屋の広さは十五畳ほどで、壁も床も天井も石造りでまるで中世の牢屋のようだ。天井からはランプがぶら下がっていた。
部屋の中にはそれだけだ。出入り口と思しき両開きの扉は今まで見たことのないような彫り込みのある石扉で、当然開かなかった。
章介は混乱しながら部屋の中央に戻り、戸棚を開けてみた。すると、見たことのないクラッカーらしきものが一箱とコップ、ペットボトル水が入っている。
クラッカーの包装はすべて英語で書かれていて、なんと書いてあるかわからない。ペットボトル水のラベルも同様だった。輸入物らしい。
一応、賞味期限だけは確認できたのでペットボトルの口を開けて飲む。喉がカラカラだった。
車内で飲んだシャンパンにはやはり睡眠薬が盛られていたのだろう。飲んだ後の記憶がない。
腹も空いているところをみると、一昼夜眠っていたらしい。
章介は逡巡してからクラッカーに手をつけた。
パサパサしていて全然おいしくないが、生理的欲求で次々手が伸びる。
結局、三分の二ほどを平らげてから箱を棚に戻し、用を足した。
そして、今の状況を考える。
ここがどこかは知らないが、車の音がまったくしないことを考えると、街からは遠く離れているようだ。北関東の田舎の方だろうか。もしかしたら関東ではない可能性もある。
ここがどこかを確認するのが先決だ。だが、窓の位置は高すぎて章介でも外を確認できない。
ベッドに乗っても無理だった。
まあ仕方がない。穂波からうまく聞き出すほかないだろう。
作戦を練っていると、やがて重々しい音を立てて扉が開き、穂波が入ってきた。
最後に記憶していたのとは違うポロシャツにチノパン姿だ。やはり、一日寝ていたようだった。
穂波は章介を認めると少し口角を上げた。
「ああ、起きたんだね。よかった」
「……ここはどこだ?」
「僕たちの家だよ。もっとも、ここは離れだけどね」
穂波はベッドに腰掛けていた章介のそばにくると、隣に座って手を取った。
そして、手の甲を撫で始める。ゾッとしたが、耐えた。
「場所は?」
「ヒース、とでも言っておこうか」
章介の問いに、穂波はこちらを向いて笑った。
うろ覚えだが、ヒースは確かシェイクスピアの戯曲に出てきたヨーロッパのどこかの場所だ。
嫌な予感に、急に汗が噴き出してくる。
「……日本だよな?」
「違うよ。お妃さまにはヨーロッパの方がふさわしいだろ?」
「ヨーロッパの、どこなんだ?」
先程潤した口がまたカラカラに乾いてくる。
伸びてきた手が髪を撫で始めたが、気にしている場合ではなかった。
「だから、ヒースだよ」
「スコットランドか?」
ヒースという地名が出てくる戯曲の主人公は、確かスコットランドの将軍だったはずだ。信が好きでよく話していたので覚えている。
それであたりをつけて聞いてみると、穂波はどうでもよさそうに答えた。
「まあいいじゃない、そんなことは。それより久しぶりなんだからゆっくり味わわせてよ」
反応を見るに当たらずとも遠からず、という感じだ。
「待てって……! 聞いてないぞ」
「君はこれからここでずーっと暮らすんだよ。愛する夫と一緒にずっと、ずぅっとね。あぁ、安心して、お仕置きが終わったらこの部屋からは出してあげるから。家はちゃんと準備してあるよ。インテリアもこだわったんだ、一流のデザイナーにお願いしてね」
「やめろ、どけっ!」
自分を組み敷こうとする穂波に抵抗する。しかし、薬が残っているのかいまいち力が出ず、あっさり押し倒された。
勝ち誇った表情で見下ろしてくる穂波に、頭に血が上る。こんなクズに目をつけられた自分の不運が呪わしくて仕方なかった。
「さぁ、服脱ごうね。綺麗な体を見せて。どんな絵画より美しいよ。ああ、そうだ、今度絵師に描いてもらおう。本当は二十代の頃から……いや、十代の頃から記録しておきたかったけどまあ仕方ないか。でも全く問題ない。ほら、全然変わってない。顔もだけど、体も本当に変わらないね」
「嫌だっつってんだろ、この変態がっ!」
「ははっ、褒め言葉だよありがとう。いいね、活きのよさは健在だ。それでエロい身体してんだからなぁ、たまらないよ。この日をどれだけ待ちわびたか……夢みたいだ」
「お前はっ、おかしいっ……!」
服を脱がされ、絶望が体を侵食してゆく。穂波に味わわされた屈辱の数々が脳裏に蘇り、当時どれだけ惨めだったかを思い出した。
こんな奴にヤられるぐらいだったら死にたい。一瞬そういった考えが頭をよぎったが、瑞貴のことを考えたらそんなことはできなかった。
遺してゆけるわけがない。あれほど自分を愛してくれた男を。
生きて帰らねばならない。あの子のところへ、必ず。
「おっぱいもあるねぇ。筋トレしてる?」
「死ね!」
体を、穂波の舌が這ってゆく。上に乗られて、両手を押さえつけられて、何もできない。
無力感に全身が支配されてゆく。
「ここもご無沙汰だろう? ちゃんと舐めて育ててあげるからね」
「やめろっ」
穂波が舌で胸をいじりだす。濡れた感触と下品な音に鳥肌が立った。
そのままそこを執拗に舐めるしゃぶる相手に耐えきれず、章介は叫んだ。
「もういいからさっさと突っ込めっ。クソまみれになるだろうがなっ」
「あんま煽らないでよ。僕だってギリギリなんだから。久しぶりだし体慣らしてやろうかと思って優しくしてるんだよ? それにほら、ここもこんなに悦んでる。長い間放置しちゃってごめんねえ」
「黙れ! 気色悪いんだよっ」
「気持ちいい、の間違いだろ? こんなに勃って……」
そう言って穂波が胸を指ではじく。刺激に、永遠に眠らせておきたかった腰への快楽回路が目覚めはじめるのがわかった。
それに深く絶望する。穂波と出会ってから作り変えられた体が、あの頃どれだけ惨めだったか。
反応を嗤われてどれだけの屈辱を味わったか。
忌まわしい記憶が次々脳裏に蘇る。
「十年たっても忘れていないとは、優秀優秀」
「嫌だ、やめろっ……! さっさと突っ込めって言ってんだろ!」
「ダメだよ。今君はいわゆるセカンドバージンなんだから、そんなことしたら怪我するよ。しっかりほぐしてあげないとねぇ。僕はみっともなくがっつく猿じゃないんだ」
むしろそうであった方がどれほどよかったか、と章介は内心忸怩たる思いを抱いた。
自分の欲望を満たすことしか頭にない相手の方が、快楽で支配し徹底的に辱めてくる穂波より遥かにマシだった。
「はっ……」
「時間制限がないってのはいい。いつまででもこうしていられるからね」
「お前は……頭がおかしい……」
胸への執拗な刺激に、腰が疼きだす。抵抗に疲れた章介は体の力を抜いた。
どうせ、抵抗しようがしまいが変わらない。自分はここから出られず、穂波のいいようにされる。
ならば、抵抗の意味も大してない。むしろ、相手を喜ばせるだけだろう。
章介は降り注ぐ下品な言葉の連続と、意志を裏切るだらしない身体に耐えながら、時が去るのをひたすら待った。
穂波は、仕置き、と宣言した通り、章介を徹底的にいたぶった。
腸内洗浄と称して目の前で排泄させ、自慰させ、快楽責めにし、何度も何度も性交を強いた。
意識を飛ばしかけても失神はできずに地獄は続いた。
薬も入っていないので意識が明瞭な中で、すべてを受け止めねばならなかった。
最後の方は思わず泣きを入れそうになるほど耐えがたかったが、何とか堪えて朝を迎えた。
そして、気を失うようにして眠りについた。
章介の、新たなる苦難の日々はここから始まった
◇
目覚めると、昼だった。天井近くの細長い窓から日が差している。
章介は体の節々の痛みと後孔の鈍痛に呻きながら起きて、布団を整えた。
それから、トイレを済ませ、顔を洗ってそばに置かれていたタオルで拭いた。
目を開けると、鏡の中の自分と目が合う。
一晩で人相が様変わりし、顔が紙のように白い。そして目はうつろだった。
章介は鏡から目を背け、ベッドに戻った。そこしか座るところがないのだ。
そして、頭を抱える。
「これからどうなるんだ……」
そもそも、ここがどこなのかさえわからない。
穂波の言葉がハッタリで日本国内にいる可能性の方が高いが、というよりそう信じたいが、もし外国にいたらもうどうすればいいかわからない。
パスポートもない、金もない、英語も喋れない、こんなていたらくで帰国できるのか。
穂波を懐柔して逃げ出したとして、その先はどうするのか。そもそもあのイカれた男を懐柔できるのか。
絶望とパニックで呼吸が浅くなる。
このまま、こんな部屋で慰みものにならなければいけないのか。
やっとの思いで玉東という地獄から抜け出したというのに、なぜまたこんな目に遭うのか。
「っ、ちくしょうっ! 俺がいったい何したってんだよ!」
そばの壁を拳で叩いて項垂れる。
そのまましばらくぼんやりしていると、扉の開く音がした。
それに、反射的に身構える。
「おはよう~。起きてたんだね。朝ごはん持ってきたよ」
上下白っぽい服を着た穂波が持ってきた膳をベッド脇のテーブルに置いた。
そこには、ドロドロの粥状の何かと水がのっているだけだった
「これはなんだ」
「オートミールだよ。食物繊維たっぷりだからお腹がキレイになるよ。僕、ゴムは好きじゃないんだ。だからお尻は綺麗にしておいてね」
促されてスプーンを手に取り、口をつけてみたが食べられたものではなかった。
段ボールみたいな味しかしない。
「……こんなの食えない」
「ああ、そう。じゃあ下げるね。でも言っておくけど昼も夜もこれだよ。明日の朝も昼も夜も、あさっても。言ったよね、反省するまでお仕置きだって」
「………」
「じゃあ、僕はちょっと買い物に出てくるから、いい子にしてるんだよ」
そう言って食器を下げようとした穂波を引き止める。
「待て。……やっぱり食う」
「じゃあ置いていくね。お昼には戻るから」
頷くと、穂波は章介の額にキスをしてから出ていった。
章介は額を手でこすってから、しばし粥と睨めっこし、腹を括って中身を水で流し込んだ。
昨日から今日にかけて、章介は大量に発汗している。
こういう場合、水と一緒に電解質も補給しないと体調不良になることを知っていた。
「はあ……」
吐き気を催す朝食を済ませ、ため息を吐く。そして、ベッドに横になった。
普段ならば昼間横になることはない。章介は昼寝もしないタチだった。
しかし、穂波に拉致されてからの想定外の出来事の連続のせいで、心身共に疲れ切っていた。
それに、認めたくはないが後ろもしっかり痛い。傷付いてはいないはずだが、しつこくいじられたせいだ。
情けない、あまりにも情けない。男として全否定されたような気分だった。
もうすべて忘れたくて瞼を閉じる。しかし眠れない。体も心も疲れ切っているのに、この過酷な現実から解放してくれない。
こんな日々が続くのか。この先ずっと?
だとしたら耐えられない。
もし一生ここから抜け出せないのなら死にたい。そこしか出口がないのなら。
「助けてくれ……誰か……」
呼びかけに応える者は誰もいなかった。
◇
それから一週間に渡って章介はなぶられ続けた。人格を丸ごと否定され、ただ穂波の玩具として扱われる日々。
毎日が地獄で、何度か思い詰めることもあったが、結局いつも断念した。
あまりにも疲れ切って死ぬ気力さえなかったのと、いつか帰れるのならばその元に帰らなければならない相手がいたからだ。
怒涛の一週間に耐えた章介はそこでふと、やるべきことがあるのに気づいた。瑞貴と信の安否確認だ。
穂波は完全に正気を失っている。章介と仲の良かった人間に危害を加えようとしても不思議ではない。
そこで章介は、幽閉されて一週間が経つ頃、タイミングを見計らってそのことを口にした。
「聞きたいことがある」
「はぁ……君は最高だよ。ほら、ヒクヒクしてるのわかる? もっともっとって玩具を咥え込んでる。欲しい? まだ欲しいの?」
「おい、聞いてるか?」
一度交わったあとも玩具を使ってしつこく章介を愛撫していた穂波を振り返り、強めの口調で言う。
背後から章介を抱き抱えるようにして座っていた相手は手を止めることなく、面倒くさそうになに、と問い返した。
「俺以外の奴には手出してないよな?」
「……何で? 気になる人でもいるの?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
「まあ、お仕置きが必要かなとは思ってるんだよねぇ。実行犯の女狐には」
「実行犯?」
訳がわからずに聞くと、ペニスを強く握られた。
「ぐあっ……!」
「それは君が一番よくわかっているはずだよ」
「言ってる意味がっ……!」
激しく手を動かされ、ビリビリ電流が背筋を走る。
同時に胸も刺激されて漏れ出そうになる声を抑えていると、さらに尻に入った玩具を強く内部に押し付けられ、体が震えた。
「はっ……あ!」
「嘘つきにはお仕置きしなきゃ。ココね。ほうら、前立腺ゴリゴリしちゃうよ」
「ああ! あ……やめ……!」
「エロい体。お妃様はエッチ大好きだもんなあ」
「さっきから、何の話をしてるんだ……っ。嘘とかなんとか……はっ……」
ごりごりと玩具の突起が前立腺を抉る。穂波はそこを責めるのが好きだった。メスイキしろとか訳の分からないことを言われ、失神するまで責められたこともある。
そうやって執拗に開発されたそこは完全な性感帯になっていた。
それを忘れて、忘れたままでいたかったのに再びやってきた悪魔により思い出させられている。状況はこれ以上ないほど最悪だった。
「まだシラ切るつもり? イケナイ子だなあ。もっとお仕置きが必要だね」
「んっ……だから嘘ってなんなんだよ! 俺はそんなことっ……ひあっ」
そこで玩具が引き抜かれ、うつ伏せにされ、尻だけ上げた体勢にさせられる。穂波は息を荒くして尻たぶを押し開き、そこを視姦した。
「はぁはぁ、物欲しそうにヒクついて……いやらしいアナだ」
そう言って息を吹きかけ、次の瞬間尻にむしゃぶりつく。
「あっ……!」
穴の周りを思い切り舐められ、章介は思わず呻いた。濡れた感覚に背筋がゾクゾクして腰が揺れる。
話の続きがしたい章介が呼び掛けても穂波は反応せず、尻を揉みながらそこを舐め続ける。
そのもどかしい刺激にシーツをつかみ、腰を揺らした。もう二時間以上責められ続けて理性で体の反応を止められない。
穂波が下品な音を立ててそこを舐めたり吸い上げたりし続けているうち、散々いじられて敏感になったそこがだらしなく開き、舌を招じ入れた。
「うっ……」
舌が中に入ってきて入り口付近をほじくり出す。ビリビリと電流のような快楽が腰を直撃し、性器の先からたらりと雫が零れ落ちる。それがシーツに新たな染みを作った。
じゅぽ、じゅぽ、と水音を立てながら舌が後ろを突き、そのたびに腰が痺れて新たな先走りが流れ落ちる。
章介はシーツに突っ伏しながら荒い息を吐いた。
穂波はそうやってしばらく章介を嬲った後、舌を引き抜いた。
「んっ……」
排出の感覚に背筋が震える。
「もうとろっとろだねぇココ」
穂波は満足げにそう言って今度は指を突き入れた。
「んうっ……!」
そうして中のしこりを二本の指ではさんでやわやわと揉む。直接的な刺激に背筋が弓形に反った。そして意図せずしてもっと穂波に尻を突き出す格好となる。
「ふふっ、おねだり? いいよほらイけ」
そして指を三本に増やし、ズボズボと後孔で出し入れし、しこりを抉り込む。
「あっ、あぁっ、あぁっーーーっ!」
ひときわ強く突かれた瞬間、頭が真っ白になり前が爆ぜた。後孔が収縮し、穂波の指を締め付けながら絶頂する。だが穂波の手は止まらなかった。イっている最中なのにゴリゴリとしこりを抉り続ける。
「あっ、やめっ! おいふざけんなっ、もうやめっ……あぁっ!」
イっている最中にダメ押しのように刺激され、何も考えられなくなる。体は意に反してビクビクと震え、シーツに白濁を撒き散らした。
「はあ、はあ、はあ……」
そこでようやく指が抜けていく。虚脱感に襲われぐったりとベッドに伏せると仰向けにされ、穂波が覆いかぶさってきた。
「もう無理だって……」
弱々しく押しのけようとする章介の腕をシーツに押し付け、穂波はキスをした。それと同時に充血した後孔に指とは比べ物にならない質量のものが入ってくる。
「んーーー!」
そうして敏感になった内壁を擦り始めた。
「んっ……あっ……」
定期的なリズムで楔が打ち込まれる。奥を強く抉られてビクビクと体が痙攣した。
刺激のたびに軽く達し、触られていないのにも関わらず前はもうびちょびちょだった。
「くっ……はぁ……クソッ……!」
「嘘つきですって、言いなっ。あの女狐に頼んで僕を刑務所にぶち込んだって認めろよ。言わないと、もっと酷いよ」
そこでようやく先程の話が再開される。どうやら穂波は章介のせいで逮捕されたと思っているようだ。
約十二年前、穂波は脱税で逮捕された。
どうやらその告発をしたのが章介と信だと勘違いしているらしい。
だがそんなことをした覚えはなかった。
「だから女狐って誰だよ!?」
「菊野だよ。あの性悪……」
菊野は信が店にいた頃使っていた源氏名だ。
「はぁ? 何で信が出てくるんだ」
「君が頼んだんだろ?」
「だから知らねえっつってんだろ!」
途端にペニスを強く扱きたてられて悲鳴を上げる。
過ぎた痛みと快楽の狭間で頭が真っ白になった。
もう何が何だかわからない。
「あの女狐に、頼んだだろ? 僕を逮捕させろってっ……!」
「そんなことしてねえ! 捕まったのはっ、はっ、自業自得だろ? てめえの罪の責任を、ひとになすりつけんな! ああっ!」
わかっている。こんな口を利けばどうなるか。
しかし、もう我慢ならなかった。
「ずいぶんな言いようだなあ。自分がやったこと棚にあげて」
「だから、やってねえっ! ああっ!」
全く身に覚えがない。そもそも当時は穂波がそんな悪事を働いていることさえ知らなかったのだ。
「はっ……じゃあ、アイツとその客が勝手にやったとでも? なんのために? もしかして……やっぱりアイツとデキてたの?」
「んなワケねえだろっ、信とはそんなんじゃない」
「そうなったら話は別だ……アイツは始末しないと……」
穂波は憎しみと怒りと嫉妬に満ちた目でブツブツと呟いた。
それに慌てて言う。
「だから違うって。何もない。信が好きだったのは秋二って奴だ」
「秋二……?」
「立花。信の禿だった子だ。すごく可愛がってた。成就はしなかったみたいだけどな」
穂波は動きを止めて、少し思案するような素振りを見せた。
「本当に、一回もない?」
「ない」
即答する。
「……じゃあ、アイツはただの友達のために裏から手回して僕をハメたってわけ? そんなことする?」
「さっきからそういう話をしているが、確かなのか? 普通に捜査されてただけじゃないのか?」
「フン、ありえないね。あの程度のごまかしはどこもやってる。それに完全に違法ってわけでもない。グレーゾーンの金だったんだよ。それを難癖つけて、うちに限って告発されたのは大きな力が働いたからだ。あの女狐にはそういう客が大勢いた」
「証拠はないんだろ? 遺産争いをしてる兄弟がやったかもしれない」
「穂波はクズだけど、そういうことはしないよ。……本当に頼んでないんだね?」
「ああ。信もやってない。だから頼む。あいつらには手を出さないでくれ」
穂波は章介の性器をいじりながらしばし思案していたが、やがて頷いた。
「……いいよ。ただし、章介が妻としての務めをきちんと果たしてくれたらね」
「……わかった」
穂波は一瞬沈黙してから再び動き始めた。
快楽がせりあがってきて、脳を侵食してゆく。
まもなく、章介は何も考えられなくなった。
目が覚めたとき、章介は見知らぬ部屋にいた。
何か昔の夢を見ていたような気がする。
そこは部屋、というよりも牢屋と表現するのが正しい部屋だった。
十畳ほどの狭い部屋の壁と床は石造りで、窓は高い天井近くに二箇所、小さな格子付きのものがあるだけ。
家具といえば寝かされていた簡素なベッド、小さな木のテーブルと椅子があるだけだった。
辺りはしんとして僅かな風の音しか聞こえてこない。窓から日が差していないところを見ると、夜のようだった。
章介は立ち上がり、唯一の光源であるランタンをサイドテーブルから取って部屋を隅々まで調べた。
ベッドは部屋の左奥に縦に置かれ、反対側の壁には木の戸棚とガラス張りのシャワー室がある。
ベッド側の壁の扉はトイレだった。
部屋の広さは十五畳ほどで、壁も床も天井も石造りでまるで中世の牢屋のようだ。天井からはランプがぶら下がっていた。
部屋の中にはそれだけだ。出入り口と思しき両開きの扉は今まで見たことのないような彫り込みのある石扉で、当然開かなかった。
章介は混乱しながら部屋の中央に戻り、戸棚を開けてみた。すると、見たことのないクラッカーらしきものが一箱とコップ、ペットボトル水が入っている。
クラッカーの包装はすべて英語で書かれていて、なんと書いてあるかわからない。ペットボトル水のラベルも同様だった。輸入物らしい。
一応、賞味期限だけは確認できたのでペットボトルの口を開けて飲む。喉がカラカラだった。
車内で飲んだシャンパンにはやはり睡眠薬が盛られていたのだろう。飲んだ後の記憶がない。
腹も空いているところをみると、一昼夜眠っていたらしい。
章介は逡巡してからクラッカーに手をつけた。
パサパサしていて全然おいしくないが、生理的欲求で次々手が伸びる。
結局、三分の二ほどを平らげてから箱を棚に戻し、用を足した。
そして、今の状況を考える。
ここがどこかは知らないが、車の音がまったくしないことを考えると、街からは遠く離れているようだ。北関東の田舎の方だろうか。もしかしたら関東ではない可能性もある。
ここがどこかを確認するのが先決だ。だが、窓の位置は高すぎて章介でも外を確認できない。
ベッドに乗っても無理だった。
まあ仕方がない。穂波からうまく聞き出すほかないだろう。
作戦を練っていると、やがて重々しい音を立てて扉が開き、穂波が入ってきた。
最後に記憶していたのとは違うポロシャツにチノパン姿だ。やはり、一日寝ていたようだった。
穂波は章介を認めると少し口角を上げた。
「ああ、起きたんだね。よかった」
「……ここはどこだ?」
「僕たちの家だよ。もっとも、ここは離れだけどね」
穂波はベッドに腰掛けていた章介のそばにくると、隣に座って手を取った。
そして、手の甲を撫で始める。ゾッとしたが、耐えた。
「場所は?」
「ヒース、とでも言っておこうか」
章介の問いに、穂波はこちらを向いて笑った。
うろ覚えだが、ヒースは確かシェイクスピアの戯曲に出てきたヨーロッパのどこかの場所だ。
嫌な予感に、急に汗が噴き出してくる。
「……日本だよな?」
「違うよ。お妃さまにはヨーロッパの方がふさわしいだろ?」
「ヨーロッパの、どこなんだ?」
先程潤した口がまたカラカラに乾いてくる。
伸びてきた手が髪を撫で始めたが、気にしている場合ではなかった。
「だから、ヒースだよ」
「スコットランドか?」
ヒースという地名が出てくる戯曲の主人公は、確かスコットランドの将軍だったはずだ。信が好きでよく話していたので覚えている。
それであたりをつけて聞いてみると、穂波はどうでもよさそうに答えた。
「まあいいじゃない、そんなことは。それより久しぶりなんだからゆっくり味わわせてよ」
反応を見るに当たらずとも遠からず、という感じだ。
「待てって……! 聞いてないぞ」
「君はこれからここでずーっと暮らすんだよ。愛する夫と一緒にずっと、ずぅっとね。あぁ、安心して、お仕置きが終わったらこの部屋からは出してあげるから。家はちゃんと準備してあるよ。インテリアもこだわったんだ、一流のデザイナーにお願いしてね」
「やめろ、どけっ!」
自分を組み敷こうとする穂波に抵抗する。しかし、薬が残っているのかいまいち力が出ず、あっさり押し倒された。
勝ち誇った表情で見下ろしてくる穂波に、頭に血が上る。こんなクズに目をつけられた自分の不運が呪わしくて仕方なかった。
「さぁ、服脱ごうね。綺麗な体を見せて。どんな絵画より美しいよ。ああ、そうだ、今度絵師に描いてもらおう。本当は二十代の頃から……いや、十代の頃から記録しておきたかったけどまあ仕方ないか。でも全く問題ない。ほら、全然変わってない。顔もだけど、体も本当に変わらないね」
「嫌だっつってんだろ、この変態がっ!」
「ははっ、褒め言葉だよありがとう。いいね、活きのよさは健在だ。それでエロい身体してんだからなぁ、たまらないよ。この日をどれだけ待ちわびたか……夢みたいだ」
「お前はっ、おかしいっ……!」
服を脱がされ、絶望が体を侵食してゆく。穂波に味わわされた屈辱の数々が脳裏に蘇り、当時どれだけ惨めだったかを思い出した。
こんな奴にヤられるぐらいだったら死にたい。一瞬そういった考えが頭をよぎったが、瑞貴のことを考えたらそんなことはできなかった。
遺してゆけるわけがない。あれほど自分を愛してくれた男を。
生きて帰らねばならない。あの子のところへ、必ず。
「おっぱいもあるねぇ。筋トレしてる?」
「死ね!」
体を、穂波の舌が這ってゆく。上に乗られて、両手を押さえつけられて、何もできない。
無力感に全身が支配されてゆく。
「ここもご無沙汰だろう? ちゃんと舐めて育ててあげるからね」
「やめろっ」
穂波が舌で胸をいじりだす。濡れた感触と下品な音に鳥肌が立った。
そのままそこを執拗に舐めるしゃぶる相手に耐えきれず、章介は叫んだ。
「もういいからさっさと突っ込めっ。クソまみれになるだろうがなっ」
「あんま煽らないでよ。僕だってギリギリなんだから。久しぶりだし体慣らしてやろうかと思って優しくしてるんだよ? それにほら、ここもこんなに悦んでる。長い間放置しちゃってごめんねえ」
「黙れ! 気色悪いんだよっ」
「気持ちいい、の間違いだろ? こんなに勃って……」
そう言って穂波が胸を指ではじく。刺激に、永遠に眠らせておきたかった腰への快楽回路が目覚めはじめるのがわかった。
それに深く絶望する。穂波と出会ってから作り変えられた体が、あの頃どれだけ惨めだったか。
反応を嗤われてどれだけの屈辱を味わったか。
忌まわしい記憶が次々脳裏に蘇る。
「十年たっても忘れていないとは、優秀優秀」
「嫌だ、やめろっ……! さっさと突っ込めって言ってんだろ!」
「ダメだよ。今君はいわゆるセカンドバージンなんだから、そんなことしたら怪我するよ。しっかりほぐしてあげないとねぇ。僕はみっともなくがっつく猿じゃないんだ」
むしろそうであった方がどれほどよかったか、と章介は内心忸怩たる思いを抱いた。
自分の欲望を満たすことしか頭にない相手の方が、快楽で支配し徹底的に辱めてくる穂波より遥かにマシだった。
「はっ……」
「時間制限がないってのはいい。いつまででもこうしていられるからね」
「お前は……頭がおかしい……」
胸への執拗な刺激に、腰が疼きだす。抵抗に疲れた章介は体の力を抜いた。
どうせ、抵抗しようがしまいが変わらない。自分はここから出られず、穂波のいいようにされる。
ならば、抵抗の意味も大してない。むしろ、相手を喜ばせるだけだろう。
章介は降り注ぐ下品な言葉の連続と、意志を裏切るだらしない身体に耐えながら、時が去るのをひたすら待った。
穂波は、仕置き、と宣言した通り、章介を徹底的にいたぶった。
腸内洗浄と称して目の前で排泄させ、自慰させ、快楽責めにし、何度も何度も性交を強いた。
意識を飛ばしかけても失神はできずに地獄は続いた。
薬も入っていないので意識が明瞭な中で、すべてを受け止めねばならなかった。
最後の方は思わず泣きを入れそうになるほど耐えがたかったが、何とか堪えて朝を迎えた。
そして、気を失うようにして眠りについた。
章介の、新たなる苦難の日々はここから始まった
◇
目覚めると、昼だった。天井近くの細長い窓から日が差している。
章介は体の節々の痛みと後孔の鈍痛に呻きながら起きて、布団を整えた。
それから、トイレを済ませ、顔を洗ってそばに置かれていたタオルで拭いた。
目を開けると、鏡の中の自分と目が合う。
一晩で人相が様変わりし、顔が紙のように白い。そして目はうつろだった。
章介は鏡から目を背け、ベッドに戻った。そこしか座るところがないのだ。
そして、頭を抱える。
「これからどうなるんだ……」
そもそも、ここがどこなのかさえわからない。
穂波の言葉がハッタリで日本国内にいる可能性の方が高いが、というよりそう信じたいが、もし外国にいたらもうどうすればいいかわからない。
パスポートもない、金もない、英語も喋れない、こんなていたらくで帰国できるのか。
穂波を懐柔して逃げ出したとして、その先はどうするのか。そもそもあのイカれた男を懐柔できるのか。
絶望とパニックで呼吸が浅くなる。
このまま、こんな部屋で慰みものにならなければいけないのか。
やっとの思いで玉東という地獄から抜け出したというのに、なぜまたこんな目に遭うのか。
「っ、ちくしょうっ! 俺がいったい何したってんだよ!」
そばの壁を拳で叩いて項垂れる。
そのまましばらくぼんやりしていると、扉の開く音がした。
それに、反射的に身構える。
「おはよう~。起きてたんだね。朝ごはん持ってきたよ」
上下白っぽい服を着た穂波が持ってきた膳をベッド脇のテーブルに置いた。
そこには、ドロドロの粥状の何かと水がのっているだけだった
「これはなんだ」
「オートミールだよ。食物繊維たっぷりだからお腹がキレイになるよ。僕、ゴムは好きじゃないんだ。だからお尻は綺麗にしておいてね」
促されてスプーンを手に取り、口をつけてみたが食べられたものではなかった。
段ボールみたいな味しかしない。
「……こんなの食えない」
「ああ、そう。じゃあ下げるね。でも言っておくけど昼も夜もこれだよ。明日の朝も昼も夜も、あさっても。言ったよね、反省するまでお仕置きだって」
「………」
「じゃあ、僕はちょっと買い物に出てくるから、いい子にしてるんだよ」
そう言って食器を下げようとした穂波を引き止める。
「待て。……やっぱり食う」
「じゃあ置いていくね。お昼には戻るから」
頷くと、穂波は章介の額にキスをしてから出ていった。
章介は額を手でこすってから、しばし粥と睨めっこし、腹を括って中身を水で流し込んだ。
昨日から今日にかけて、章介は大量に発汗している。
こういう場合、水と一緒に電解質も補給しないと体調不良になることを知っていた。
「はあ……」
吐き気を催す朝食を済ませ、ため息を吐く。そして、ベッドに横になった。
普段ならば昼間横になることはない。章介は昼寝もしないタチだった。
しかし、穂波に拉致されてからの想定外の出来事の連続のせいで、心身共に疲れ切っていた。
それに、認めたくはないが後ろもしっかり痛い。傷付いてはいないはずだが、しつこくいじられたせいだ。
情けない、あまりにも情けない。男として全否定されたような気分だった。
もうすべて忘れたくて瞼を閉じる。しかし眠れない。体も心も疲れ切っているのに、この過酷な現実から解放してくれない。
こんな日々が続くのか。この先ずっと?
だとしたら耐えられない。
もし一生ここから抜け出せないのなら死にたい。そこしか出口がないのなら。
「助けてくれ……誰か……」
呼びかけに応える者は誰もいなかった。
◇
それから一週間に渡って章介はなぶられ続けた。人格を丸ごと否定され、ただ穂波の玩具として扱われる日々。
毎日が地獄で、何度か思い詰めることもあったが、結局いつも断念した。
あまりにも疲れ切って死ぬ気力さえなかったのと、いつか帰れるのならばその元に帰らなければならない相手がいたからだ。
怒涛の一週間に耐えた章介はそこでふと、やるべきことがあるのに気づいた。瑞貴と信の安否確認だ。
穂波は完全に正気を失っている。章介と仲の良かった人間に危害を加えようとしても不思議ではない。
そこで章介は、幽閉されて一週間が経つ頃、タイミングを見計らってそのことを口にした。
「聞きたいことがある」
「はぁ……君は最高だよ。ほら、ヒクヒクしてるのわかる? もっともっとって玩具を咥え込んでる。欲しい? まだ欲しいの?」
「おい、聞いてるか?」
一度交わったあとも玩具を使ってしつこく章介を愛撫していた穂波を振り返り、強めの口調で言う。
背後から章介を抱き抱えるようにして座っていた相手は手を止めることなく、面倒くさそうになに、と問い返した。
「俺以外の奴には手出してないよな?」
「……何で? 気になる人でもいるの?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
「まあ、お仕置きが必要かなとは思ってるんだよねぇ。実行犯の女狐には」
「実行犯?」
訳がわからずに聞くと、ペニスを強く握られた。
「ぐあっ……!」
「それは君が一番よくわかっているはずだよ」
「言ってる意味がっ……!」
激しく手を動かされ、ビリビリ電流が背筋を走る。
同時に胸も刺激されて漏れ出そうになる声を抑えていると、さらに尻に入った玩具を強く内部に押し付けられ、体が震えた。
「はっ……あ!」
「嘘つきにはお仕置きしなきゃ。ココね。ほうら、前立腺ゴリゴリしちゃうよ」
「ああ! あ……やめ……!」
「エロい体。お妃様はエッチ大好きだもんなあ」
「さっきから、何の話をしてるんだ……っ。嘘とかなんとか……はっ……」
ごりごりと玩具の突起が前立腺を抉る。穂波はそこを責めるのが好きだった。メスイキしろとか訳の分からないことを言われ、失神するまで責められたこともある。
そうやって執拗に開発されたそこは完全な性感帯になっていた。
それを忘れて、忘れたままでいたかったのに再びやってきた悪魔により思い出させられている。状況はこれ以上ないほど最悪だった。
「まだシラ切るつもり? イケナイ子だなあ。もっとお仕置きが必要だね」
「んっ……だから嘘ってなんなんだよ! 俺はそんなことっ……ひあっ」
そこで玩具が引き抜かれ、うつ伏せにされ、尻だけ上げた体勢にさせられる。穂波は息を荒くして尻たぶを押し開き、そこを視姦した。
「はぁはぁ、物欲しそうにヒクついて……いやらしいアナだ」
そう言って息を吹きかけ、次の瞬間尻にむしゃぶりつく。
「あっ……!」
穴の周りを思い切り舐められ、章介は思わず呻いた。濡れた感覚に背筋がゾクゾクして腰が揺れる。
話の続きがしたい章介が呼び掛けても穂波は反応せず、尻を揉みながらそこを舐め続ける。
そのもどかしい刺激にシーツをつかみ、腰を揺らした。もう二時間以上責められ続けて理性で体の反応を止められない。
穂波が下品な音を立ててそこを舐めたり吸い上げたりし続けているうち、散々いじられて敏感になったそこがだらしなく開き、舌を招じ入れた。
「うっ……」
舌が中に入ってきて入り口付近をほじくり出す。ビリビリと電流のような快楽が腰を直撃し、性器の先からたらりと雫が零れ落ちる。それがシーツに新たな染みを作った。
じゅぽ、じゅぽ、と水音を立てながら舌が後ろを突き、そのたびに腰が痺れて新たな先走りが流れ落ちる。
章介はシーツに突っ伏しながら荒い息を吐いた。
穂波はそうやってしばらく章介を嬲った後、舌を引き抜いた。
「んっ……」
排出の感覚に背筋が震える。
「もうとろっとろだねぇココ」
穂波は満足げにそう言って今度は指を突き入れた。
「んうっ……!」
そうして中のしこりを二本の指ではさんでやわやわと揉む。直接的な刺激に背筋が弓形に反った。そして意図せずしてもっと穂波に尻を突き出す格好となる。
「ふふっ、おねだり? いいよほらイけ」
そして指を三本に増やし、ズボズボと後孔で出し入れし、しこりを抉り込む。
「あっ、あぁっ、あぁっーーーっ!」
ひときわ強く突かれた瞬間、頭が真っ白になり前が爆ぜた。後孔が収縮し、穂波の指を締め付けながら絶頂する。だが穂波の手は止まらなかった。イっている最中なのにゴリゴリとしこりを抉り続ける。
「あっ、やめっ! おいふざけんなっ、もうやめっ……あぁっ!」
イっている最中にダメ押しのように刺激され、何も考えられなくなる。体は意に反してビクビクと震え、シーツに白濁を撒き散らした。
「はあ、はあ、はあ……」
そこでようやく指が抜けていく。虚脱感に襲われぐったりとベッドに伏せると仰向けにされ、穂波が覆いかぶさってきた。
「もう無理だって……」
弱々しく押しのけようとする章介の腕をシーツに押し付け、穂波はキスをした。それと同時に充血した後孔に指とは比べ物にならない質量のものが入ってくる。
「んーーー!」
そうして敏感になった内壁を擦り始めた。
「んっ……あっ……」
定期的なリズムで楔が打ち込まれる。奥を強く抉られてビクビクと体が痙攣した。
刺激のたびに軽く達し、触られていないのにも関わらず前はもうびちょびちょだった。
「くっ……はぁ……クソッ……!」
「嘘つきですって、言いなっ。あの女狐に頼んで僕を刑務所にぶち込んだって認めろよ。言わないと、もっと酷いよ」
そこでようやく先程の話が再開される。どうやら穂波は章介のせいで逮捕されたと思っているようだ。
約十二年前、穂波は脱税で逮捕された。
どうやらその告発をしたのが章介と信だと勘違いしているらしい。
だがそんなことをした覚えはなかった。
「だから女狐って誰だよ!?」
「菊野だよ。あの性悪……」
菊野は信が店にいた頃使っていた源氏名だ。
「はぁ? 何で信が出てくるんだ」
「君が頼んだんだろ?」
「だから知らねえっつってんだろ!」
途端にペニスを強く扱きたてられて悲鳴を上げる。
過ぎた痛みと快楽の狭間で頭が真っ白になった。
もう何が何だかわからない。
「あの女狐に、頼んだだろ? 僕を逮捕させろってっ……!」
「そんなことしてねえ! 捕まったのはっ、はっ、自業自得だろ? てめえの罪の責任を、ひとになすりつけんな! ああっ!」
わかっている。こんな口を利けばどうなるか。
しかし、もう我慢ならなかった。
「ずいぶんな言いようだなあ。自分がやったこと棚にあげて」
「だから、やってねえっ! ああっ!」
全く身に覚えがない。そもそも当時は穂波がそんな悪事を働いていることさえ知らなかったのだ。
「はっ……じゃあ、アイツとその客が勝手にやったとでも? なんのために? もしかして……やっぱりアイツとデキてたの?」
「んなワケねえだろっ、信とはそんなんじゃない」
「そうなったら話は別だ……アイツは始末しないと……」
穂波は憎しみと怒りと嫉妬に満ちた目でブツブツと呟いた。
それに慌てて言う。
「だから違うって。何もない。信が好きだったのは秋二って奴だ」
「秋二……?」
「立花。信の禿だった子だ。すごく可愛がってた。成就はしなかったみたいだけどな」
穂波は動きを止めて、少し思案するような素振りを見せた。
「本当に、一回もない?」
「ない」
即答する。
「……じゃあ、アイツはただの友達のために裏から手回して僕をハメたってわけ? そんなことする?」
「さっきからそういう話をしているが、確かなのか? 普通に捜査されてただけじゃないのか?」
「フン、ありえないね。あの程度のごまかしはどこもやってる。それに完全に違法ってわけでもない。グレーゾーンの金だったんだよ。それを難癖つけて、うちに限って告発されたのは大きな力が働いたからだ。あの女狐にはそういう客が大勢いた」
「証拠はないんだろ? 遺産争いをしてる兄弟がやったかもしれない」
「穂波はクズだけど、そういうことはしないよ。……本当に頼んでないんだね?」
「ああ。信もやってない。だから頼む。あいつらには手を出さないでくれ」
穂波は章介の性器をいじりながらしばし思案していたが、やがて頷いた。
「……いいよ。ただし、章介が妻としての務めをきちんと果たしてくれたらね」
「……わかった」
穂波は一瞬沈黙してから再び動き始めた。
快楽がせりあがってきて、脳を侵食してゆく。
まもなく、章介は何も考えられなくなった。
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