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9. ヒート
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ヒートはその一週間後にやってきた。
一度は薬で誤魔化したが、どうも誤魔化し切れなかったようだ。
年明け間もない忙しい時期、職場には多大な迷惑をかけてしまうがこればかりはどうしようもない。
時籐は部下に片付けるべき仕事の資料やデータをメールで送ってもらい、在宅で仕事をすることにした。
これは、ヒートが来たときの習慣である。
ヒートというのは、巷でよく言われるように自我を失いセックスのことしか考えられなくなる、というようなものではない。それはオメガの性を搾取したいアルファが言い出した俗説である。
確かに猛烈にムラムラはするが、ヒート抑制剤があればアルファを求めて狂う、みたいなことにはならないのだ。
自費治療にはなるが、抑制剤を飲めば仕事も日常生活もほぼ支障ない範囲まで衝動を抑えられる。問題は薬自体の副作用で体調不良になることだが、それさえ我慢すればヒートはオメガ本人にとってさほど脅威ではなかった。
それよりも周りに対して脅威なのだ。
アルファや新ベータはヒートのオメガの近くにいると自分の意志に関係なく発情状態となってしまう。それをアルファの場合はラット、新ベータの場合はメイトと呼ぶ。
そして、建物等の遮蔽物なしでヒートのオメガの付近十メートルまで接近した場合、発情状態になる確率は、アルファがほぼ百パーセント、新ベータが約五十パーセントである。
つまり、アルファや新ベータにとってヒート中のオメガは脅威である。
そして社会の中枢にいるのは彼らである。だからヒートのオメガは家にこもっていろと言われるわけだった。
「オメガに冷たい世の中だよなぁ」
時籐はそう呟き、旅行鞄に詰めた荷物を確認する。ヒート三日目のこの日は土曜日で、弟の類に父方の祖母の家へ送ってもらう予定だった。
ヒートの時期は祖母の家で過ごすのが習慣になっている。
その際に、公共交通機関は使えないので家族に車で送迎してもらうのが常である。
二歳年下の弟、類は時籐と同じく会社勤めのサラリーマンで新ベータだ。
なので、通常であればヒート中のオメガには近寄れないが、家族なので問題ない。
アルファと新ベータは、二親等以内のオメガのヒートには反応しないのだ。
つまり親子間、きょうだい間、祖父母孫間ではヒート事故が起こらない。
おそらくは近親交配のリスクを減らすためにそうなっているのだろう。
だから、家族とはヒート中でも会えるわけだった。
その弟は、三年ほど前に結婚した。
相手は類と同じく新ベータの女性で、明るく感じの良い小柄な人だ。
二人には昨年第一子が生まれ、今は子育てで忙しい時期である。実際に赤子を育てたことのある時籐はこの時期がどれだけ大変か知っている。
だから迷惑になると思って、奥さんが子供を身籠ったという知らせを受けてから何度か送迎を断ろうとした。
少しお金はかかるが、オメガの運転手を指定してハイヤーを呼べば移動はできるからだ。
タクシーではそのようなことはできないが、タクシーの上位互換であるハイヤーならそれができる。
今後はそれを使うからいいと断ったが拒否された。
類が何を思って拒否したのかはわからない。
しかし奥さんには嫌がられているだろうなと思う。子育てで大変な時期に、ヒートの度に夫を駆り出されるのだから。
維持費をケチって車を持たずにいるが、いい加減買うべきかもしれない、と思いながら忘れ物のチェックをしていると、部屋のインターフォンが鳴った。
モニターを見ると、スカジャン姿の類がポケットに手を突っ込んで立っているのが見える。
インターフォンに出ると、類はぶっきらぼうに言った。
『俺』
「開けた」
マンションのエントランスのドアロックを解除すると、画面から類の姿が消えた。
そしてまもなく部屋のインターフォンが鳴る。
荷物を持ち、消灯してドアを開けると、類が気だるげに立っていた。
時籐より頭半分高い身長に、もてあますように長い手足。
寝癖で台無しだが、目鼻立ちは華やかで、常に比較され続けてきた時籐の劣等感をいたく刺激する容姿だ。
その上勉強、スポーツもそつなくこなす可愛げのなさで、学生時代は正直あまり好きではなかった。
また、類の方でもオメガだからと両親に何かと気にかけてもらっていた時籐をよくは思っていないらしく、兄弟仲が良いとはいえない。
時籐は大幅に遅れて来た弟に少し低い声で言った。
「今何時?」
「十二時じゃね?」
「十時っつったよな?」
「寝坊したんだよ」
「だったらメッセージぐらいよこせよ。おばあちゃんだって待ってんだから」
「飯も食わずに来たんだけど?」
類は悪びれる様子もない。
時籐はため息をつき、外に出て鍵を閉めた。
そしてマンションの廊下を歩き出しながら言う。
「もう嫌なんだったらやめていいって言ってんじゃん。タクシー使うしいいよ」
「で、親に告げ口するんだろ? それでまた俺が怒られんだよ」
「何だよそれ」
すると、類は鼻で笑った。
「いつものパターンじゃん。あんたはベータなんだからって何回言われたか。いっつも兄貴が優先でさ。ヤになるよ」
「だったらやめればいいだろ? 親にも言わないからさっさと帰れよ」
カチンときて立ち止まり、そう言ってやると、類はちらっとこちらを見たが、何も言わなかった。
そして時籐から荷物をひったくってずんずん歩き出す。
「ちょっと待てよ」
しかし類は止まらずにエレベーターに乗り込み、一階のボタンを押した。
そして時籐が乗り込むと、イライラしたように即閉ボタンを押す。
扉が閉まると、エレベーター内に沈黙が落ちた。
もうこのまま送る気のようだ。これ以上口論するのも嫌なので黙っていたが、正直こんな態度で送られるのも嫌だし、これまでもこういうことは度々あったので、次は本当に断ろうと心に決める。
弟と会うといつもこれだ、と若干イライラしながらエレベーターに乗っていると、途中階の四階で不意にエレベーターが止まった。
その瞬間、緊張が走る。
扉の向こうには二人の男女が立っていた。彼らのバース性はまだわからない。
だがもしアルファや新ベータが乗り込んできたら……。
想像するだけで全身が震えるような恐怖に呑み込まれそうになる。
しっかりしなければ、と思った瞬間扉が開く。事情を説明するため口を開きかけるが、それに先んじて類が大きめの声で言った。
「すいません、ヒート中のオメガいるんで」
すると、今しも乗り込もうとしていた二人は驚いたようにこちらを見て後ずさった。
類は軽く会釈をし、閉ボタンを長押しした。
すると扉が閉まり、一瞬漂ってきた新ベータの匂いは遮断された。
エレベーターに再び沈黙が落ちる。類は多分こういうのも嫌なんだろうな、と漠然と思いながら待っていると、まもなく一階に到着した。
エントランスに人がいないのを確認し、足早に外に出て近くの駐車場に向かう。
類の車は白いファミリーカーだった。後部座席の右側には、新生児期から四歳頃まで使える兼用チャイルドシートが固定されている。
その横に座り、シートベルトをすると、類は無言で車を走らせ始めた。
険悪なのはいつものことなので、もう何とも思わない。
時籐はスマホを取り出し、祖母の家電にかけた。
すると、明るく弾んだ声がする。
『はいはいもしもし、啓君?』
「もしもし、今家出たんだけどバタバタしてたらちょっと遅くなっちゃって。ごめん」
『大丈夫大丈夫。もうお昼食べた?』
「まだ。先食ってていいよ」
『いいよ、待ってるよー。類君はもう食べたのかな?』
「食ってないみたいだけど…」
『じゃあ二人分作っておくから。皆で食べよう』
「ありがとう。そう言っとくね」
『はいはーい。じゃあ気をつけてね』
「うん」
時籐は電話を切り、類に話しかけた。
「おばあちゃん、昼飯お前の分も作っててくれるって」
「ふうん」
「着いたらちゃんと謝れよ。食べずに待ってるみたいだから」
「……」
類は時籐を無視し、黙って流れている音楽の音量を上げた。ロック調のJポップなので大声で話さなければ互いの声が聞こえない音量である。話したくないということだろう。
時籐はため息をつき、話を切り上げた。そしてシートに背を預け、窓の外の景色を見る。
進むにつれて建物やビルが少なくなってゆき、やがて田んぼや畑ばかりの田園風景になってゆく。
祖母の家は都内から車で一時間ほどの田舎町にあった。
高層マンションなどはなく、民家ばかりで隣近所が皆顔見知りであるような小さな町だ。
幼い頃から夏休みや正月は必ず泊まりに来て、近くの里山や川で遊んだり、催し物に参加したりしたものだった。
ゲーム機もない、Wi-Fiもない、パソコンも古いものしかないその環境で、今思えば何をしていたのかとも思うが、退屈したことはなかったような気がする。
その頃はまだバース性が何であるかもよく知らず、自分も「普通のベータ」だと思い込んで疑わずにいた。それは弟の方も同様で、兄弟間に今ほどの溝はなかった。
喧嘩はもちろんするし、特別仲が良いわけでもない。しかし、今のような感じではなかったことだけはいえる。
それが変わったのは時籐が中学に上がってバース性検査の結果が出たときだった。
兄がオメガだと知って、類はあからさまに態度を変えた。こちらを軽んじ、見下すような態度を取るようになったのだ。
おとこおんな、と言われたこともある。それを言われた日はショックと怒りでどうにかなりそうだった。
そして我慢できずに手を上げてしまったのに類がやり返してきて殴り合いの喧嘩になった。
結果的に勝ったのは時籐の方だったが、より怒られたのは類の方だった。
父親は喧嘩の経緯を聞くと、お前はオメガの人に絶対に言ってはいけないことを言った、手を出されて当然だ、と厳しく叱責したのだ。それは母親も同様だった。
共にバース平等主義の両親は、家庭内でのそういった差別を一切許さなかったのだ。
それで結局は類が謝罪して終わりになった。
そういうことが何度もあって、類は次第にひねくれていった。
あからさまな侮辱はしないが、耳元でボソッと嫌味を言ってくるようになり、それが嫌で距離を取るようになった。
そうして兄弟仲はこじれていったのである。
自分が贔屓されていた自覚はある。長男だからかオメガだからかはわからないが、やりたいことは何でもさせてもらえたし、教育費も惜しみなくつぎ込んでもらった。多分類よりもお金をかけてもらっただろう。
そして何より、いつも両親の注目の的は自分だった。これは、自分が子供を育て始めるまではわからなかったことだが、親子にも相性というものがあって、きょうだい間でも無意識に一方を可愛がってしまう、ということがあるのだ。
時籐にとってのそれは次男の龍司だったし、両親にとってはそれが自分だったのだろう。
それがどれだけ類の心を傷付けたか、今ならわかる。だが当時は、ベータで男としての魅力も才能も上の類を妬ましく思う気持ちの方が大きくて気が付かなかった。
そうして、無神経なことを幾度もしてしまったのだろう。やがて類は必要最低限しか話しかけてこなくなり、今に至る。
そんなことをつらつらと考えながら窓の外の景色を眺めていると、車はやがて祖母の家に近づき、私道に入った。
車一台通れるかどうかの狭い路地を進んで突き当りを左に曲がると、二階建ての古びた一軒家が見えてくる。
白い外壁の、二階の出窓が特徴的なその家が祖母の家だった。
何年か前に祖父が亡くなってからは一人で住んでいる。
時籐は近くの駐車スペースに停まった車を降りるとトランクから旅行鞄を出して持ち、玄関へ向かった。
さっさと先に行った類がインターフォンを鳴らし、返事も待たずに扉を開けて中へ入っていく。
「こんちわー」
「お邪魔しまーす」
田舎の習慣なのかドアに鍵がかかっていたことはない。類に続いて中に入ると、白髪の髪を綺麗に後ろでまとめた小柄な女性がパタパタと出てきた。
「あら類くん啓くん、いらっしゃーい」
上品な顔を輝かせて歓迎したのは二人の父方の祖母・光江だった。
品のある整った顔立ちは息子、つまり時籐の父親にそっくりである。
八十歳を過ぎてなお矍鑠としており、身の回りのことは全部自分でやっている。
ガーデニングが趣味で、家の裏手の庭はいつ行っても美しい花で彩られていた。
喜色満面で出迎えた光江に、類は兄へのそっけない態度が嘘だったかのようにしおらしく謝罪する。
「ごめんばーちゃん、寝坊した」
「いいのよいいのよ~。はい、上がって。なに、ずいぶん忙しいんだって?」
「そうなんだよもー、めちゃくちゃブラックでさ」
「あらそう~。うちのお隣さんのね、ほら、鈴木さんとこもね、お孫さん、去年だったかな? 就職したばっかりで。でも最初に聞いてた情報と違うっていうか、ずいぶん残業が多いって」
「マジで会社案内嘘だからなー。あ、鈴木さんってもしかしてえっちゃん?」
えっちゃん、というのは鈴木えりのことだろう。子供の頃、一緒に山で秘密基地ごっこをした覚えがある。
小さくちょこまかしていてその頃は性別もよくわかっていなかったが、のちに女の子だったと判明した。
「そうそう。よく覚えてるねえ?」
「一緒に遊んだ記憶ある」
「あー、そんなこともあったよねえ」
「えっちゃんが社会人かぁ」
「そうそう。あんな小っちゃかった子がねぇ。本当すぐ大きくなっちゃって。あなたたちも」
二人は和気あいあいと話しながら奥の居間に向かって廊下を進んでゆく。
そこで祖母が振り返って時籐を見、目を細める。
「あーんな小っちゃかったのにねえ」
「何だそれ」
何となく気恥ずかしくてそう言うと、祖母はいたずらっぽく笑って言った。
「ここの廊下をねえ、車のオモチャに乗って走っていってねぇ。よーく覚えてるよ、啓君が類君のこと押してあげてるの。自分もまだ小っちゃいのに後ろから押してあげてね」
「何回も聞いたよ、それ」
「写真も見たでしょ? 本当、可愛くてねえ」
すると、類がここで余計な一言を挟む。
「今は俺が押してやってるけど」
「あらそうなの?」
「送ってやってる。兄貴が車持たないから」
「ああ、そうなの」
類の真意を知らない祖母は呑気に相槌を打っていたが、いかにもあてつけがましく言ってこちらを見る類にカチンと来て、ついまた言い返してしまう。
「強制してねぇし。別にタクシー使うからいいけど」
「タクシーいくらかかると思ってんの? いい加減車買えよ」
「いや使わねえし。それこそ車検何万だよ?」
「別にそんなに高くない」
ちょっとした小競り合いを始めた二人にも動じることなく、祖母は間に割って入った。
「はいはいー、今日は親子うどんだよ。運ぶの手伝ってね」
「お、マジ? いいね」
すぐに食いついた類に、祖母はにこにこしながら答える。
「二人とも好きでしょ?」
「ばーちゃんの親子うどんが一番美味いよ」
「それは間違いない」
親子うどんというのは、親子丼の具をうどんに載せ、ネギを散らした料理だ。
祖母のレシピは脂身の少ない鶏の胸肉を使い、玉ねぎがたっぷり入っている。
そしてほのかに生姜の風味がするあっさりした味付けなので、抑制剤の副作用で食欲がない時でも食べられた。
自身がオメガで抑制剤の副作用を熟知している祖母は、こういったレシピをいくつも持っていて、ヒートの際に振る舞ってくれるのだった。
祖母に引き続いてダイニングキッチンに入ると、だしと生姜のいい香りが漂ってくる。
スープと具まで作って待っていたらしい祖母は、ケトルでお湯を沸かし、うどんを茹で始めた。
時籐は食器棚からどんぶり、箸、れんげを三つずつ取ってダイニングテーブルに出した。
すると、菜箸でうどんをかき混ぜていた祖母が振り返って言う。
「啓君、ヨーグルト用の器も出してくれる? あのガラスの小鉢」
「これ?」
「うん。夏に採って冷凍しておいた庭のブルーベリーでね、ジャム作ったの。ほら、これ」
そう言って冷蔵庫から手書きのラベルを貼った瓶を取り出し、開けて見せる。
「へえ」
「これヨーグルトにかけて食べよう」
そしてこれまた自家製のヨーグルトを渡される。
時籐は、ガラスの器にヨーグルトを均等に分け、それにジャムを載せた。
「こっちで食う?」
「いや、炬燵で食べよう」
「オッケー」
洋室のキッチンダイニングから続き部屋になっているリビングは畳敷きの和室で、炬燵とテレビがある。
時籐はお盆にヨーグルトとスプーンを載せてリビングに行き、こたつテーブルの上を拭いてからそこに置いた。
そうしてダイニングに戻ると、祖母が茹で上がったうどんをどんぶりに移し、その上に具材を載せているところだった。
朝から食欲がなかったが、いい香りに腹が減ってくる。
時籐は唾を飲み込み、類がお盆にどんぶりを載せて運ぶのに続いてリビングに行った。
そうしてこたつの周りの座布団の一つに腰を下ろし、足を入れる。
こたつはとても温かかった。
更に、リビングの掃き出し窓から差し込む日差しが部屋全体を温めてぽかぽかと暖かい。
窓の外に見える裏庭には雪がうっすら積もっていた。
久しぶりにかいだ畳の匂いにどこかほっとした気分になっていると、祖母はテレビを点け、音量を絞った。そして自分もこたつに入ると、こたつを囲んだ孫たちを順々に見て手を合わせる。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせてから箸を取り、うどんを一口食べる。だしの香りと旨みが口の中一杯に広がり、その美味しさに思わず息をつく。
このうどんは世界で一番美味いと本当に思う。うどんに限らず、料理上手な祖母の作る手料理はどれも美味しかった。
夏休みで祖母の家に行くたび舌が肥えて帰ってくる息子達に母親が愚痴を言ったほどだ。
美味しくてしばらく無言で食べていると、昼のニュースを読み上げるアナウンサーの声がテレビから聞こえてくる。
普段気にも留めないそれが耳に入ったのは、偶然だった。
『……続いてのニュースです。先月、埼玉県秩父市ОのR山で発見された遺体のうち一体の身元が判明しました。埼玉県警によりますと、遺体は四年前の九月に行方不明となっていた東京都S市の高橋絵理奈さん・当時四十一歳のものだということです。死因は窒息死で、何者かが首を絞めて殺害した可能性が高く、警察は殺人事件として捜査を進めています。高橋さんは結婚しており、現在、夫の高橋秀嗣さんの行方が分からなくなっています』
その言葉と共に画面にオメガ女性の顔写真が映し出される。人好きのしそうな柔和な顔立ちの女性で、とても物騒な事件に巻き込まれそうには見えない。
そんなことを思いながら見ていると、やがて画面が切り替わり、木々の生い茂る山中に規制線が張られた現場の映像が流れた。おそらくそこが遺体発見現場なのだろう。
ふと、失踪したオメガに番がいた場合、その番もいなくなっている、という更科の話を思い出す。
オメガの結婚はほぼ番契約とイコールなので、きっとこのオメガ女性とその夫も番だったのだろう。
そうなると、これはもしかしたら更科が追っている件と関連があるのかもしれない。
『また、R山で先月見つかったもう一体の遺体については、二十~三十代のオメガ男性だとわかったということです。ただ、遺体は完全に白骨化しており、身元や死因の特定はできませんでした。警察は高橋さんの夫が何らかの事情を知っているとみて行方を追っています。続いてのニュースです……』
直後に画面が収録スタジオに切り替わり、アナウンサーは何事もなかったかのように次のニュースを読み始める。
時籐はふと思い立って口を開いた。
「最近さ、都内でオメガの失踪が増えてるって話、知ってる?」
「あらそうなの?」
「うん。俺の知り合いでも急にいなくなっちゃった人がいて……。それを友達が調べてるらしい」
「警察のお友達なんていたっけ?」
祖母の問いに首を振る。
「いや、探偵みたいな」
すると、類がプッと吹き出した。
「探偵? 今時いるんだ」
「普通にいるけど? まあ探偵というか何でも屋みたいなことやってて、捜索依頼が増えてるらしい」
「そういえば婦人会の菊田さんのところもね、オメガの娘さんが旅行から帰ってこなくて一時大騒ぎになったんだよ。何か事件にでも巻き込まれたんじゃないかって。でも結局、旅先で携帯が壊れて遅くなるって連絡できなかっただけだったんだって。そのいなくなった人っていうのも無事だといいけどねえ」
祖母の言葉に相槌を打ち、話を続ける。
「そうそう。俺の知り合いも最初はそうだと思ったんだよ。遠くに引っ越したって聞いたから、スマホなくして連絡先ロストしただけじゃないかって。でもその人と親しかったっていう人も職場の人も引っ越しなんて聞いてないし、直前までシェアハウスの物件探してたらしくて。で、俺自身も本人からは引っ越しの話聞いてないんだよ。行きつけの店で知り合った人なんだけど、その人が引っ越したって言ってるのその店のママだけで。ママは最近も連絡取れてるらしいんだけど、連絡先教えてくれないんだ。だから何か変だなって」
すると、類が言った。
「そう? 別に人に知られたくないこともあるんじゃない? どっか行って別の人生始めたいとかさ。別に変だとは思わないけど」
また類の逆張りが出た、と内心ため息をついていると、祖母が考え込むようなそぶりをして言った。
「そのママっていうのはどういう人なの?」
「いい人だよ。店の皆に慕われてる。四年ぐらい前から通ってるんだけど」
「うーん……。おばあちゃんはその人が何か知ってると思うなぁ」
「そんな感じするよね」
「うん。まあ確かなことは言えないけどね、その人には少し注意した方がいいと思う」
時籐は頷き、祖母の言葉を反芻しながら食事を続けた。
それから話題は他愛ない話になり、やがて昼食を食べ終えた類は帰っていった。
祖母と二人きりになった時籐はその日の午後、祖母が撮りためたというテレビ番組を一緒に観ながらダラダラして過ごした。
休日をこうやってのんびり過ごしたのは久しぶりだ。家にいると気になって仕事のメールを確認してしまったり、買い出しに行かなければならなかったり、ゲームに熱中してしまったりと何かと忙しないからだ。
しかし、Wi-Fiもない、近くに大型商業施設もない田舎に来ればそういう都会の忙しなさとは無縁でいられるし、孤独でもない。
この地、この家が時籐にとっての数少ない癒しだった。
しかし、昔からこの習慣があったわけではない。元々、ヒートの時に誰かの助けを借りる必要性は感じなかったし、ずっと一人で乗り切ってきたからだ。
だが、若宮とのことがあって以来、祖母は何かにつけて時籐を心配するようになった。
そしてヒートのたびに時籐の家に来て、家事をやってくれるようになったのである。
おそらく祖母は、若宮に行動操作をされ、時籐のネックガードの暗証番号を教えてしまったことの償いがしたいのだと思う。
九年前、当時大学生だった時籐を無理矢理番にしようと考えた元恋人の若宮は、時籐の父親の実家に乗り込んで祖母に『誘導』を使い、ネックガードの暗証番号を聞き出した。時籐が自身のネックガードの番号を知らなかったためである。
当時は祖父もまだ存命だったが、その時は外出していて不在だった。
そして家に一人でいた祖母がその標的となったのだ。若宮はやすやすと暗証番号を聞き出し、そのことを誰にも言わないよう口止めして何も知らない時籐の家にやってきた。
そしてヒート中だった時籐のうなじを噛み、強制的に番契約をしたのだ。
以来、祖母は番号を教えてしまったことを後悔し続け、しばらくは会うたびに土下座せんばかりに謝られた。両親も何度も謝罪されたらしい。
しかし番依存症を発症し、若宮が好きになっていた時籐は、祖母のしたことを何とも思わなかった。
むしろ、若宮との縁を結んでくれてありがとう、とさえ言った気がする。
それを言われたときの祖母は何ともいえない顔をしていた。
しかしその後離婚し、番を解消されて夢から覚めると、辛い現実が待っていた。
番解消後うつに加え、それ以前に若宮に番契約を無理強いされた記憶も蘇り、精神的にかなり参ってしまったのだ。
その時に、親の次に支えてくれたのが祖母だった。
当時身を寄せていた時籐の実家に泊まりにきて、仕事で日中家にいない親に代わって時籐の身の回りの世話から精神的なケア、病院の付き添いまでをやってくれた。
一方で母方の祖父母は遠方に住んでいる上、昔色々あったらしくほぼ絶縁しており、正月にも帰省しないような間柄だった。
だから母は義母である光江を実の母親のように慕っていたし、時籐の面倒を看てくれたくれたことにいたく感謝していた。
そして時籐は何とか自分の足で立てるようになるまでの一年間を祖母と共に過ごしたのである。
やがて病状が少し落ち着き、仕事ができるようになると、時籐は一時的に身を寄せていた実家を出てまた一人暮らしを始めた。
それと同時に祖母も家に帰り、また祖父と暮らし始めたが、それ以来ヒートの度に時籐の部屋に来て世話をするようになった。
何度かやんわり断ろうとしたが、おばあちゃんの気の済むようにさせて、と言われては何も言えない。
それから祖母は定期的に家に来るようになった。
しかし、それから少したった頃に祖父が体調を崩し、入院してしまった。
活動的な人で、それまではピンピンしていたからかなり急なことで、祖母は狼狽していたと思う。
その時、見舞いや看病に一人ではきついだろうと思い、時籐はヒート休暇を利用して祖母の家に泊まることにした。
共働きだった両親はまだ退職前で、まとまった休みがあまり取れなかったのだ。
祖母にはそのことを感謝され、いてくれてよかった、と何度も言われた。そのぐらい心細かったということだろう。
祖父母は日本の典型的な老夫婦といった感じで、はた目にはそんなに仲が良さそうには見えない。しかし、それなりに互いを認めていたようだ。
そんな伴侶が突然倒れたとなれば参るのも当然だろう。
余命を医師から聞かされて落ち込む祖母に、人間なんていつか死ぬんだから、と言い放った祖父のことが忘れられない。多分それが祖父なりの励まし方だったのだろう。
祖父は間もなくして亡くなり、祖母は広い家に一人になった。
それから半年ぐらいはずっとどことなく元気がなかったような気がする。
しかし、やがて立ち直ったらしい祖母は、婦人会の仲間やご近所さん達とあちこち旅行に行くようになり、祖父が亡くなる前よりむしろ元気になったようだった。
それぐらいになればもうサポートも必要ない。
だからヒートの度に家に泊まるのをやめようかとも思ったが、行くたびに祖母があまりに嬉しそうにするのでやめ時を失い、今に至っているわけだった。
ここまで来ればやめる理由もないし、もう習慣と化しているので面倒だとも思わない。
むしろ、東京での仕事漬けの毎日とバランスを取る意味でも、定期的に田舎暮らしをするというのは体に良さそうだと思っている。
きっと残業ばかりしている自分が体を壊さずにいられるのは祖母のおかげだろう。
そんなことを思いながらその日もまた前回のヒートの時の休日と同様にダラダラと過ごし、夜を迎えたのだった。
一度は薬で誤魔化したが、どうも誤魔化し切れなかったようだ。
年明け間もない忙しい時期、職場には多大な迷惑をかけてしまうがこればかりはどうしようもない。
時籐は部下に片付けるべき仕事の資料やデータをメールで送ってもらい、在宅で仕事をすることにした。
これは、ヒートが来たときの習慣である。
ヒートというのは、巷でよく言われるように自我を失いセックスのことしか考えられなくなる、というようなものではない。それはオメガの性を搾取したいアルファが言い出した俗説である。
確かに猛烈にムラムラはするが、ヒート抑制剤があればアルファを求めて狂う、みたいなことにはならないのだ。
自費治療にはなるが、抑制剤を飲めば仕事も日常生活もほぼ支障ない範囲まで衝動を抑えられる。問題は薬自体の副作用で体調不良になることだが、それさえ我慢すればヒートはオメガ本人にとってさほど脅威ではなかった。
それよりも周りに対して脅威なのだ。
アルファや新ベータはヒートのオメガの近くにいると自分の意志に関係なく発情状態となってしまう。それをアルファの場合はラット、新ベータの場合はメイトと呼ぶ。
そして、建物等の遮蔽物なしでヒートのオメガの付近十メートルまで接近した場合、発情状態になる確率は、アルファがほぼ百パーセント、新ベータが約五十パーセントである。
つまり、アルファや新ベータにとってヒート中のオメガは脅威である。
そして社会の中枢にいるのは彼らである。だからヒートのオメガは家にこもっていろと言われるわけだった。
「オメガに冷たい世の中だよなぁ」
時籐はそう呟き、旅行鞄に詰めた荷物を確認する。ヒート三日目のこの日は土曜日で、弟の類に父方の祖母の家へ送ってもらう予定だった。
ヒートの時期は祖母の家で過ごすのが習慣になっている。
その際に、公共交通機関は使えないので家族に車で送迎してもらうのが常である。
二歳年下の弟、類は時籐と同じく会社勤めのサラリーマンで新ベータだ。
なので、通常であればヒート中のオメガには近寄れないが、家族なので問題ない。
アルファと新ベータは、二親等以内のオメガのヒートには反応しないのだ。
つまり親子間、きょうだい間、祖父母孫間ではヒート事故が起こらない。
おそらくは近親交配のリスクを減らすためにそうなっているのだろう。
だから、家族とはヒート中でも会えるわけだった。
その弟は、三年ほど前に結婚した。
相手は類と同じく新ベータの女性で、明るく感じの良い小柄な人だ。
二人には昨年第一子が生まれ、今は子育てで忙しい時期である。実際に赤子を育てたことのある時籐はこの時期がどれだけ大変か知っている。
だから迷惑になると思って、奥さんが子供を身籠ったという知らせを受けてから何度か送迎を断ろうとした。
少しお金はかかるが、オメガの運転手を指定してハイヤーを呼べば移動はできるからだ。
タクシーではそのようなことはできないが、タクシーの上位互換であるハイヤーならそれができる。
今後はそれを使うからいいと断ったが拒否された。
類が何を思って拒否したのかはわからない。
しかし奥さんには嫌がられているだろうなと思う。子育てで大変な時期に、ヒートの度に夫を駆り出されるのだから。
維持費をケチって車を持たずにいるが、いい加減買うべきかもしれない、と思いながら忘れ物のチェックをしていると、部屋のインターフォンが鳴った。
モニターを見ると、スカジャン姿の類がポケットに手を突っ込んで立っているのが見える。
インターフォンに出ると、類はぶっきらぼうに言った。
『俺』
「開けた」
マンションのエントランスのドアロックを解除すると、画面から類の姿が消えた。
そしてまもなく部屋のインターフォンが鳴る。
荷物を持ち、消灯してドアを開けると、類が気だるげに立っていた。
時籐より頭半分高い身長に、もてあますように長い手足。
寝癖で台無しだが、目鼻立ちは華やかで、常に比較され続けてきた時籐の劣等感をいたく刺激する容姿だ。
その上勉強、スポーツもそつなくこなす可愛げのなさで、学生時代は正直あまり好きではなかった。
また、類の方でもオメガだからと両親に何かと気にかけてもらっていた時籐をよくは思っていないらしく、兄弟仲が良いとはいえない。
時籐は大幅に遅れて来た弟に少し低い声で言った。
「今何時?」
「十二時じゃね?」
「十時っつったよな?」
「寝坊したんだよ」
「だったらメッセージぐらいよこせよ。おばあちゃんだって待ってんだから」
「飯も食わずに来たんだけど?」
類は悪びれる様子もない。
時籐はため息をつき、外に出て鍵を閉めた。
そしてマンションの廊下を歩き出しながら言う。
「もう嫌なんだったらやめていいって言ってんじゃん。タクシー使うしいいよ」
「で、親に告げ口するんだろ? それでまた俺が怒られんだよ」
「何だよそれ」
すると、類は鼻で笑った。
「いつものパターンじゃん。あんたはベータなんだからって何回言われたか。いっつも兄貴が優先でさ。ヤになるよ」
「だったらやめればいいだろ? 親にも言わないからさっさと帰れよ」
カチンときて立ち止まり、そう言ってやると、類はちらっとこちらを見たが、何も言わなかった。
そして時籐から荷物をひったくってずんずん歩き出す。
「ちょっと待てよ」
しかし類は止まらずにエレベーターに乗り込み、一階のボタンを押した。
そして時籐が乗り込むと、イライラしたように即閉ボタンを押す。
扉が閉まると、エレベーター内に沈黙が落ちた。
もうこのまま送る気のようだ。これ以上口論するのも嫌なので黙っていたが、正直こんな態度で送られるのも嫌だし、これまでもこういうことは度々あったので、次は本当に断ろうと心に決める。
弟と会うといつもこれだ、と若干イライラしながらエレベーターに乗っていると、途中階の四階で不意にエレベーターが止まった。
その瞬間、緊張が走る。
扉の向こうには二人の男女が立っていた。彼らのバース性はまだわからない。
だがもしアルファや新ベータが乗り込んできたら……。
想像するだけで全身が震えるような恐怖に呑み込まれそうになる。
しっかりしなければ、と思った瞬間扉が開く。事情を説明するため口を開きかけるが、それに先んじて類が大きめの声で言った。
「すいません、ヒート中のオメガいるんで」
すると、今しも乗り込もうとしていた二人は驚いたようにこちらを見て後ずさった。
類は軽く会釈をし、閉ボタンを長押しした。
すると扉が閉まり、一瞬漂ってきた新ベータの匂いは遮断された。
エレベーターに再び沈黙が落ちる。類は多分こういうのも嫌なんだろうな、と漠然と思いながら待っていると、まもなく一階に到着した。
エントランスに人がいないのを確認し、足早に外に出て近くの駐車場に向かう。
類の車は白いファミリーカーだった。後部座席の右側には、新生児期から四歳頃まで使える兼用チャイルドシートが固定されている。
その横に座り、シートベルトをすると、類は無言で車を走らせ始めた。
険悪なのはいつものことなので、もう何とも思わない。
時籐はスマホを取り出し、祖母の家電にかけた。
すると、明るく弾んだ声がする。
『はいはいもしもし、啓君?』
「もしもし、今家出たんだけどバタバタしてたらちょっと遅くなっちゃって。ごめん」
『大丈夫大丈夫。もうお昼食べた?』
「まだ。先食ってていいよ」
『いいよ、待ってるよー。類君はもう食べたのかな?』
「食ってないみたいだけど…」
『じゃあ二人分作っておくから。皆で食べよう』
「ありがとう。そう言っとくね」
『はいはーい。じゃあ気をつけてね』
「うん」
時籐は電話を切り、類に話しかけた。
「おばあちゃん、昼飯お前の分も作っててくれるって」
「ふうん」
「着いたらちゃんと謝れよ。食べずに待ってるみたいだから」
「……」
類は時籐を無視し、黙って流れている音楽の音量を上げた。ロック調のJポップなので大声で話さなければ互いの声が聞こえない音量である。話したくないということだろう。
時籐はため息をつき、話を切り上げた。そしてシートに背を預け、窓の外の景色を見る。
進むにつれて建物やビルが少なくなってゆき、やがて田んぼや畑ばかりの田園風景になってゆく。
祖母の家は都内から車で一時間ほどの田舎町にあった。
高層マンションなどはなく、民家ばかりで隣近所が皆顔見知りであるような小さな町だ。
幼い頃から夏休みや正月は必ず泊まりに来て、近くの里山や川で遊んだり、催し物に参加したりしたものだった。
ゲーム機もない、Wi-Fiもない、パソコンも古いものしかないその環境で、今思えば何をしていたのかとも思うが、退屈したことはなかったような気がする。
その頃はまだバース性が何であるかもよく知らず、自分も「普通のベータ」だと思い込んで疑わずにいた。それは弟の方も同様で、兄弟間に今ほどの溝はなかった。
喧嘩はもちろんするし、特別仲が良いわけでもない。しかし、今のような感じではなかったことだけはいえる。
それが変わったのは時籐が中学に上がってバース性検査の結果が出たときだった。
兄がオメガだと知って、類はあからさまに態度を変えた。こちらを軽んじ、見下すような態度を取るようになったのだ。
おとこおんな、と言われたこともある。それを言われた日はショックと怒りでどうにかなりそうだった。
そして我慢できずに手を上げてしまったのに類がやり返してきて殴り合いの喧嘩になった。
結果的に勝ったのは時籐の方だったが、より怒られたのは類の方だった。
父親は喧嘩の経緯を聞くと、お前はオメガの人に絶対に言ってはいけないことを言った、手を出されて当然だ、と厳しく叱責したのだ。それは母親も同様だった。
共にバース平等主義の両親は、家庭内でのそういった差別を一切許さなかったのだ。
それで結局は類が謝罪して終わりになった。
そういうことが何度もあって、類は次第にひねくれていった。
あからさまな侮辱はしないが、耳元でボソッと嫌味を言ってくるようになり、それが嫌で距離を取るようになった。
そうして兄弟仲はこじれていったのである。
自分が贔屓されていた自覚はある。長男だからかオメガだからかはわからないが、やりたいことは何でもさせてもらえたし、教育費も惜しみなくつぎ込んでもらった。多分類よりもお金をかけてもらっただろう。
そして何より、いつも両親の注目の的は自分だった。これは、自分が子供を育て始めるまではわからなかったことだが、親子にも相性というものがあって、きょうだい間でも無意識に一方を可愛がってしまう、ということがあるのだ。
時籐にとってのそれは次男の龍司だったし、両親にとってはそれが自分だったのだろう。
それがどれだけ類の心を傷付けたか、今ならわかる。だが当時は、ベータで男としての魅力も才能も上の類を妬ましく思う気持ちの方が大きくて気が付かなかった。
そうして、無神経なことを幾度もしてしまったのだろう。やがて類は必要最低限しか話しかけてこなくなり、今に至る。
そんなことをつらつらと考えながら窓の外の景色を眺めていると、車はやがて祖母の家に近づき、私道に入った。
車一台通れるかどうかの狭い路地を進んで突き当りを左に曲がると、二階建ての古びた一軒家が見えてくる。
白い外壁の、二階の出窓が特徴的なその家が祖母の家だった。
何年か前に祖父が亡くなってからは一人で住んでいる。
時籐は近くの駐車スペースに停まった車を降りるとトランクから旅行鞄を出して持ち、玄関へ向かった。
さっさと先に行った類がインターフォンを鳴らし、返事も待たずに扉を開けて中へ入っていく。
「こんちわー」
「お邪魔しまーす」
田舎の習慣なのかドアに鍵がかかっていたことはない。類に続いて中に入ると、白髪の髪を綺麗に後ろでまとめた小柄な女性がパタパタと出てきた。
「あら類くん啓くん、いらっしゃーい」
上品な顔を輝かせて歓迎したのは二人の父方の祖母・光江だった。
品のある整った顔立ちは息子、つまり時籐の父親にそっくりである。
八十歳を過ぎてなお矍鑠としており、身の回りのことは全部自分でやっている。
ガーデニングが趣味で、家の裏手の庭はいつ行っても美しい花で彩られていた。
喜色満面で出迎えた光江に、類は兄へのそっけない態度が嘘だったかのようにしおらしく謝罪する。
「ごめんばーちゃん、寝坊した」
「いいのよいいのよ~。はい、上がって。なに、ずいぶん忙しいんだって?」
「そうなんだよもー、めちゃくちゃブラックでさ」
「あらそう~。うちのお隣さんのね、ほら、鈴木さんとこもね、お孫さん、去年だったかな? 就職したばっかりで。でも最初に聞いてた情報と違うっていうか、ずいぶん残業が多いって」
「マジで会社案内嘘だからなー。あ、鈴木さんってもしかしてえっちゃん?」
えっちゃん、というのは鈴木えりのことだろう。子供の頃、一緒に山で秘密基地ごっこをした覚えがある。
小さくちょこまかしていてその頃は性別もよくわかっていなかったが、のちに女の子だったと判明した。
「そうそう。よく覚えてるねえ?」
「一緒に遊んだ記憶ある」
「あー、そんなこともあったよねえ」
「えっちゃんが社会人かぁ」
「そうそう。あんな小っちゃかった子がねぇ。本当すぐ大きくなっちゃって。あなたたちも」
二人は和気あいあいと話しながら奥の居間に向かって廊下を進んでゆく。
そこで祖母が振り返って時籐を見、目を細める。
「あーんな小っちゃかったのにねえ」
「何だそれ」
何となく気恥ずかしくてそう言うと、祖母はいたずらっぽく笑って言った。
「ここの廊下をねえ、車のオモチャに乗って走っていってねぇ。よーく覚えてるよ、啓君が類君のこと押してあげてるの。自分もまだ小っちゃいのに後ろから押してあげてね」
「何回も聞いたよ、それ」
「写真も見たでしょ? 本当、可愛くてねえ」
すると、類がここで余計な一言を挟む。
「今は俺が押してやってるけど」
「あらそうなの?」
「送ってやってる。兄貴が車持たないから」
「ああ、そうなの」
類の真意を知らない祖母は呑気に相槌を打っていたが、いかにもあてつけがましく言ってこちらを見る類にカチンと来て、ついまた言い返してしまう。
「強制してねぇし。別にタクシー使うからいいけど」
「タクシーいくらかかると思ってんの? いい加減車買えよ」
「いや使わねえし。それこそ車検何万だよ?」
「別にそんなに高くない」
ちょっとした小競り合いを始めた二人にも動じることなく、祖母は間に割って入った。
「はいはいー、今日は親子うどんだよ。運ぶの手伝ってね」
「お、マジ? いいね」
すぐに食いついた類に、祖母はにこにこしながら答える。
「二人とも好きでしょ?」
「ばーちゃんの親子うどんが一番美味いよ」
「それは間違いない」
親子うどんというのは、親子丼の具をうどんに載せ、ネギを散らした料理だ。
祖母のレシピは脂身の少ない鶏の胸肉を使い、玉ねぎがたっぷり入っている。
そしてほのかに生姜の風味がするあっさりした味付けなので、抑制剤の副作用で食欲がない時でも食べられた。
自身がオメガで抑制剤の副作用を熟知している祖母は、こういったレシピをいくつも持っていて、ヒートの際に振る舞ってくれるのだった。
祖母に引き続いてダイニングキッチンに入ると、だしと生姜のいい香りが漂ってくる。
スープと具まで作って待っていたらしい祖母は、ケトルでお湯を沸かし、うどんを茹で始めた。
時籐は食器棚からどんぶり、箸、れんげを三つずつ取ってダイニングテーブルに出した。
すると、菜箸でうどんをかき混ぜていた祖母が振り返って言う。
「啓君、ヨーグルト用の器も出してくれる? あのガラスの小鉢」
「これ?」
「うん。夏に採って冷凍しておいた庭のブルーベリーでね、ジャム作ったの。ほら、これ」
そう言って冷蔵庫から手書きのラベルを貼った瓶を取り出し、開けて見せる。
「へえ」
「これヨーグルトにかけて食べよう」
そしてこれまた自家製のヨーグルトを渡される。
時籐は、ガラスの器にヨーグルトを均等に分け、それにジャムを載せた。
「こっちで食う?」
「いや、炬燵で食べよう」
「オッケー」
洋室のキッチンダイニングから続き部屋になっているリビングは畳敷きの和室で、炬燵とテレビがある。
時籐はお盆にヨーグルトとスプーンを載せてリビングに行き、こたつテーブルの上を拭いてからそこに置いた。
そうしてダイニングに戻ると、祖母が茹で上がったうどんをどんぶりに移し、その上に具材を載せているところだった。
朝から食欲がなかったが、いい香りに腹が減ってくる。
時籐は唾を飲み込み、類がお盆にどんぶりを載せて運ぶのに続いてリビングに行った。
そうしてこたつの周りの座布団の一つに腰を下ろし、足を入れる。
こたつはとても温かかった。
更に、リビングの掃き出し窓から差し込む日差しが部屋全体を温めてぽかぽかと暖かい。
窓の外に見える裏庭には雪がうっすら積もっていた。
久しぶりにかいだ畳の匂いにどこかほっとした気分になっていると、祖母はテレビを点け、音量を絞った。そして自分もこたつに入ると、こたつを囲んだ孫たちを順々に見て手を合わせる。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせてから箸を取り、うどんを一口食べる。だしの香りと旨みが口の中一杯に広がり、その美味しさに思わず息をつく。
このうどんは世界で一番美味いと本当に思う。うどんに限らず、料理上手な祖母の作る手料理はどれも美味しかった。
夏休みで祖母の家に行くたび舌が肥えて帰ってくる息子達に母親が愚痴を言ったほどだ。
美味しくてしばらく無言で食べていると、昼のニュースを読み上げるアナウンサーの声がテレビから聞こえてくる。
普段気にも留めないそれが耳に入ったのは、偶然だった。
『……続いてのニュースです。先月、埼玉県秩父市ОのR山で発見された遺体のうち一体の身元が判明しました。埼玉県警によりますと、遺体は四年前の九月に行方不明となっていた東京都S市の高橋絵理奈さん・当時四十一歳のものだということです。死因は窒息死で、何者かが首を絞めて殺害した可能性が高く、警察は殺人事件として捜査を進めています。高橋さんは結婚しており、現在、夫の高橋秀嗣さんの行方が分からなくなっています』
その言葉と共に画面にオメガ女性の顔写真が映し出される。人好きのしそうな柔和な顔立ちの女性で、とても物騒な事件に巻き込まれそうには見えない。
そんなことを思いながら見ていると、やがて画面が切り替わり、木々の生い茂る山中に規制線が張られた現場の映像が流れた。おそらくそこが遺体発見現場なのだろう。
ふと、失踪したオメガに番がいた場合、その番もいなくなっている、という更科の話を思い出す。
オメガの結婚はほぼ番契約とイコールなので、きっとこのオメガ女性とその夫も番だったのだろう。
そうなると、これはもしかしたら更科が追っている件と関連があるのかもしれない。
『また、R山で先月見つかったもう一体の遺体については、二十~三十代のオメガ男性だとわかったということです。ただ、遺体は完全に白骨化しており、身元や死因の特定はできませんでした。警察は高橋さんの夫が何らかの事情を知っているとみて行方を追っています。続いてのニュースです……』
直後に画面が収録スタジオに切り替わり、アナウンサーは何事もなかったかのように次のニュースを読み始める。
時籐はふと思い立って口を開いた。
「最近さ、都内でオメガの失踪が増えてるって話、知ってる?」
「あらそうなの?」
「うん。俺の知り合いでも急にいなくなっちゃった人がいて……。それを友達が調べてるらしい」
「警察のお友達なんていたっけ?」
祖母の問いに首を振る。
「いや、探偵みたいな」
すると、類がプッと吹き出した。
「探偵? 今時いるんだ」
「普通にいるけど? まあ探偵というか何でも屋みたいなことやってて、捜索依頼が増えてるらしい」
「そういえば婦人会の菊田さんのところもね、オメガの娘さんが旅行から帰ってこなくて一時大騒ぎになったんだよ。何か事件にでも巻き込まれたんじゃないかって。でも結局、旅先で携帯が壊れて遅くなるって連絡できなかっただけだったんだって。そのいなくなった人っていうのも無事だといいけどねえ」
祖母の言葉に相槌を打ち、話を続ける。
「そうそう。俺の知り合いも最初はそうだと思ったんだよ。遠くに引っ越したって聞いたから、スマホなくして連絡先ロストしただけじゃないかって。でもその人と親しかったっていう人も職場の人も引っ越しなんて聞いてないし、直前までシェアハウスの物件探してたらしくて。で、俺自身も本人からは引っ越しの話聞いてないんだよ。行きつけの店で知り合った人なんだけど、その人が引っ越したって言ってるのその店のママだけで。ママは最近も連絡取れてるらしいんだけど、連絡先教えてくれないんだ。だから何か変だなって」
すると、類が言った。
「そう? 別に人に知られたくないこともあるんじゃない? どっか行って別の人生始めたいとかさ。別に変だとは思わないけど」
また類の逆張りが出た、と内心ため息をついていると、祖母が考え込むようなそぶりをして言った。
「そのママっていうのはどういう人なの?」
「いい人だよ。店の皆に慕われてる。四年ぐらい前から通ってるんだけど」
「うーん……。おばあちゃんはその人が何か知ってると思うなぁ」
「そんな感じするよね」
「うん。まあ確かなことは言えないけどね、その人には少し注意した方がいいと思う」
時籐は頷き、祖母の言葉を反芻しながら食事を続けた。
それから話題は他愛ない話になり、やがて昼食を食べ終えた類は帰っていった。
祖母と二人きりになった時籐はその日の午後、祖母が撮りためたというテレビ番組を一緒に観ながらダラダラして過ごした。
休日をこうやってのんびり過ごしたのは久しぶりだ。家にいると気になって仕事のメールを確認してしまったり、買い出しに行かなければならなかったり、ゲームに熱中してしまったりと何かと忙しないからだ。
しかし、Wi-Fiもない、近くに大型商業施設もない田舎に来ればそういう都会の忙しなさとは無縁でいられるし、孤独でもない。
この地、この家が時籐にとっての数少ない癒しだった。
しかし、昔からこの習慣があったわけではない。元々、ヒートの時に誰かの助けを借りる必要性は感じなかったし、ずっと一人で乗り切ってきたからだ。
だが、若宮とのことがあって以来、祖母は何かにつけて時籐を心配するようになった。
そしてヒートのたびに時籐の家に来て、家事をやってくれるようになったのである。
おそらく祖母は、若宮に行動操作をされ、時籐のネックガードの暗証番号を教えてしまったことの償いがしたいのだと思う。
九年前、当時大学生だった時籐を無理矢理番にしようと考えた元恋人の若宮は、時籐の父親の実家に乗り込んで祖母に『誘導』を使い、ネックガードの暗証番号を聞き出した。時籐が自身のネックガードの番号を知らなかったためである。
当時は祖父もまだ存命だったが、その時は外出していて不在だった。
そして家に一人でいた祖母がその標的となったのだ。若宮はやすやすと暗証番号を聞き出し、そのことを誰にも言わないよう口止めして何も知らない時籐の家にやってきた。
そしてヒート中だった時籐のうなじを噛み、強制的に番契約をしたのだ。
以来、祖母は番号を教えてしまったことを後悔し続け、しばらくは会うたびに土下座せんばかりに謝られた。両親も何度も謝罪されたらしい。
しかし番依存症を発症し、若宮が好きになっていた時籐は、祖母のしたことを何とも思わなかった。
むしろ、若宮との縁を結んでくれてありがとう、とさえ言った気がする。
それを言われたときの祖母は何ともいえない顔をしていた。
しかしその後離婚し、番を解消されて夢から覚めると、辛い現実が待っていた。
番解消後うつに加え、それ以前に若宮に番契約を無理強いされた記憶も蘇り、精神的にかなり参ってしまったのだ。
その時に、親の次に支えてくれたのが祖母だった。
当時身を寄せていた時籐の実家に泊まりにきて、仕事で日中家にいない親に代わって時籐の身の回りの世話から精神的なケア、病院の付き添いまでをやってくれた。
一方で母方の祖父母は遠方に住んでいる上、昔色々あったらしくほぼ絶縁しており、正月にも帰省しないような間柄だった。
だから母は義母である光江を実の母親のように慕っていたし、時籐の面倒を看てくれたくれたことにいたく感謝していた。
そして時籐は何とか自分の足で立てるようになるまでの一年間を祖母と共に過ごしたのである。
やがて病状が少し落ち着き、仕事ができるようになると、時籐は一時的に身を寄せていた実家を出てまた一人暮らしを始めた。
それと同時に祖母も家に帰り、また祖父と暮らし始めたが、それ以来ヒートの度に時籐の部屋に来て世話をするようになった。
何度かやんわり断ろうとしたが、おばあちゃんの気の済むようにさせて、と言われては何も言えない。
それから祖母は定期的に家に来るようになった。
しかし、それから少したった頃に祖父が体調を崩し、入院してしまった。
活動的な人で、それまではピンピンしていたからかなり急なことで、祖母は狼狽していたと思う。
その時、見舞いや看病に一人ではきついだろうと思い、時籐はヒート休暇を利用して祖母の家に泊まることにした。
共働きだった両親はまだ退職前で、まとまった休みがあまり取れなかったのだ。
祖母にはそのことを感謝され、いてくれてよかった、と何度も言われた。そのぐらい心細かったということだろう。
祖父母は日本の典型的な老夫婦といった感じで、はた目にはそんなに仲が良さそうには見えない。しかし、それなりに互いを認めていたようだ。
そんな伴侶が突然倒れたとなれば参るのも当然だろう。
余命を医師から聞かされて落ち込む祖母に、人間なんていつか死ぬんだから、と言い放った祖父のことが忘れられない。多分それが祖父なりの励まし方だったのだろう。
祖父は間もなくして亡くなり、祖母は広い家に一人になった。
それから半年ぐらいはずっとどことなく元気がなかったような気がする。
しかし、やがて立ち直ったらしい祖母は、婦人会の仲間やご近所さん達とあちこち旅行に行くようになり、祖父が亡くなる前よりむしろ元気になったようだった。
それぐらいになればもうサポートも必要ない。
だからヒートの度に家に泊まるのをやめようかとも思ったが、行くたびに祖母があまりに嬉しそうにするのでやめ時を失い、今に至っているわけだった。
ここまで来ればやめる理由もないし、もう習慣と化しているので面倒だとも思わない。
むしろ、東京での仕事漬けの毎日とバランスを取る意味でも、定期的に田舎暮らしをするというのは体に良さそうだと思っている。
きっと残業ばかりしている自分が体を壊さずにいられるのは祖母のおかげだろう。
そんなことを思いながらその日もまた前回のヒートの時の休日と同様にダラダラと過ごし、夜を迎えたのだった。
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