理葬境

忍原富臣

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第四話「呪いの兆し」

~三人の大臣~

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 剛昌ごうしょうは訪れた翠雲すいうんと横に並ぶ火詠ひえい凝視ぎょうしした。

「おい、これはどういうことだ」

 剛昌が怒りをにじませながら翠雲に問いかける。手記の内容を明かしたことを剛昌に伝える翠雲だったが、案の定、剛昌は激怒し翠雲に大声を上げた。

「なぜ話したのだ!」
「だからそれは――」

 剛昌は机を殴りつけて翠雲を睨みつける。

「俺とお前だけの話にすると言っただろうが!」
「それは……」

 事を最低限の人数で終わらせたかった剛昌にとって、翠雲の行為は裏切りのようにも思えた。自分とみん、翠雲、後は海宝かいほうを頼るかどうか……。剛昌はこの人数で終わらせたかった。
 黒百合村の事もあり、この件にあまり巻き込みたくないという思いは翠雲も同じ。しかし、ここまで至るためには火詠の協力が必要であったのは言うまでもない。

「信じた結果がこの様か!」
「剛昌――」

 翠雲が剛昌に声を掛けようと前に出た時、火詠が片手でその動きを制止した。
 翠雲の代わりに火詠は冷静に剛昌へと語り掛ける。

「剛昌殿、言わせて頂きますが翠雲殿が居なければ貴方は必ず無茶をしていたと思います」
「何……?」

 怒る剛昌に対して率直に意見を述べる火詠。

「それに、城下町での聞き込み、黒百合村の任務内容、自殺した兵士達……ここまで知っている自分が何も聞かずに黙っていられるとお思いでしたか?」

 剛昌はいらつき立ち上がると翠雲へと指を差した。

「そやつが巻き込まねば知らずに済んだであろうが!」
「いえ、翠雲殿が頼まなければ、今、自分が背負っているものは全て翠雲殿が背負うことになっていました。それでもよろしかったのですか?」

 火詠は丁寧に剛昌へと問いかけるが、剛昌は逆に火詠へと近付いて睨みつけていた。
 身長の高い剛昌と平均よりも少し低い火詠。
 上から睨む剛昌を火詠は自然と見上げる形となっていた。

「分隊長上がりの貴様が気にすることではない」
「今は同じ大臣です」

 火詠は平静を保ったまま剛昌を見返していると、剛昌は火詠の胸倉むなぐらを掴みぐっと寄せた。

「減らず口を叩くな小僧が!」
「相変わらず荒々しいですね……放してください」

 火詠は怒鳴る剛昌の手を振り切って服装を整える。

「まず口を動かす前に行動を――ゴホッ……ゴホッゴホッ……」

 咳き込みながら崩れ落ちる火詠に翠雲が寄り添う。強がっていた剛昌も体調の悪い火詠を心配した様子で眺めていた。

「火詠、大丈夫ですか!」
「自分は心配いりません。それよりも翠雲殿、海宝様のことを……」
「分かりました、分かりましたから……」

 剛昌はしゃがんで、苦しそうに咳き込む火詠と翠雲に目線を合わせた。

「翠雲」

 剛昌を力強く見つめる翠雲。

「剛昌、これ以上この話をするのは止めて――」
「火詠を海宝殿の所に連れて行ってやれ。泯も既に身支度をしている」

 落ち着いた様子の剛昌に翠雲は安堵した。

「翠雲殿、剛昌殿に早く伝えてください。私は大丈夫ですから」
「伝える?」

 火詠の言葉に剛昌が小さく呟く。翠雲は火詠の声に頷いて剛昌へと声を掛けた。

「ええ、剛昌、私達も海宝殿の所に行きましょう」

 突然の申し開きに剛昌は目を丸くした。

「時期尚早ではないか?」
「いえ、既に私達だけでは収集がつかない所まで来ているように感じます。これ以上大人しくしていては手遅れになる」
「……そう、だな」
「翠雲殿、剛昌殿……」

 火詠は翠雲の支えを頼りに立ち上がって二人の名前を呼んだ。
 剛昌は手を差し伸べようとするが、己の先程の行いを振り返ると自然と手が引っ込んでいた。

「自分はこれからあまり役に立てないかもしれません……先程から喉が詰まるというより、これは、首を押えられているような、そんな感覚ですね……ゴホッ……」

 火詠は首を自身で触りながら症状を説明した。
 春桜の手記に書かれている内容と類似していることに、二人は焦りを感じていた。

 翠雲は支えながら火詠に話しかける。

「火詠、貴方は身支度を整えてきてください。もしかすると海宝殿の元で養生した方がいいかもしれませんから」
「……承知致しました」

春栄しゅんえい様には私から出かける事を伝えておきます。準備が出来れば……そうですね、城門の前で待ち合わせをしましょう」
「はい……」

 寺への宿泊を考え、火詠は身支度を整えに剛昌の部屋を後にした。
 扉が閉まるまで、翠雲と剛昌は心配そうにその背中をじっと見つめていた。

「それで剛昌、泯はどちらに?」
「泯は既に居ない……」

 剛昌が目を背けて呟く。

「どういうことですか?」
「お前が先程出て行った後、泯の体調が悪いことが分かってな。寺へ行けと言ったのだ」
「そうでしたか……火詠の様子からして少し心配ですね……」

 考える素振そぶりを見せる翠雲。
 それとは反対に剛昌は落ち着いていた。内心では心配で仕方なかったが、これ以上声を荒げる時間は無いと判断し、冷静に翠雲へと話し掛ける。

「寺までは城下町を歩いていけばすぐに着く。心配いらんだろう」
「……ええ、まあ、遠出するわけではないですからね」
「それよりも、俺たちも動かねば」
「そうですね。私は春栄様の所へ行って参ります」
「ああ、俺はその間に準備しておく」
「よろしくお願いします」

 翠雲は足早に剛昌の部屋を出た後、春栄へと会いに行った。寺へと用事がある為、剛昌と火詠、三人で出かけることを伝える。
 話を聞き、了承した春栄は翠雲に一通の手紙を渡した。

「それを陸奏に渡して頂けますか?」
「これは?」

 にこやかに振る舞いながら、受け取った手紙を眺める翠雲。何も知らない春栄は嬉しそうに翠雲へと話しかけた。

「久しぶりに陸奏に来てもらおうかと思いまして」
「ふふっ、そうですか。では、預からせて頂きますね」
「はい、お願いします!」

 翠雲は受け取った手紙を懐へと大事にしまった。

「では、行って参ります」

 一礼して後ろを振り向く翠雲に春栄は声かけた。

「翠雲さん」
「はい?」
「聞いていいものか分かりませんが、翠雲さん達は何をしているんですか?」
「え、ええ。この間起きた黒百合村の事で海宝殿に死者の供養を頼もうかと思いましてね」

 事実と嘘を混ぜながら、翠雲は綺麗に言葉を述べた。

「黒百合村……どうしてあのような事件が起きたんですかね……」
「賊の仕業……との事ですが、事件以降は周囲の村の兵士の派遣も行っています。ですから、どうかあまり胸を痛めないでください」
「それはそうかもしれませんが……」

 春栄は悲しそうに俯いた。

「すみません、春栄様。剛昌達が待っていますので」
「ああ、すみません。気を付けてくださいね!」
「ありがとうございます。では……」
「はい!」

 翠雲が玉座を後に王城の入口へと向かう。
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