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第二話「悪夢の調査」
~演技する者~
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「涼黒よ、邪魔してすまなかったな」
「もう帰るん?」
「ああ、夢の話を知る者に会いたいからな」
出て行こうとする剛昌に涼黒が声を掛ける。
「おっちゃん」
「どうした?」
「一応さ、おるにはおるんよ。ただなぁ……」
剛昌を止めた割に煮え切らない様子の涼黒。
「どうしたんだ」
「いやぁ、どうもこうも……」
言いにくそうにする涼黒だが、剛昌も時間を持て余しているわけではない。いくら情が湧こうとも、剛昌はこの時初めて涼黒を睨みつけた。
「ハッキリせんのは好きじゃない」
涼黒はそれでも言いづらいのか、村の入り口の方を黙って指差した。
「おい、まさか……」
「……だから言いとーなかってん……」
剛昌は頭を押さえて立ち尽くしていた。話の通じるか分からない相手ともう一度会うというのは、さすがの剛昌もやりにくかったのだろう。
「いやぁ、やっぱそういう感じになりようけん、言いとーなかっちゃー……」
青年は頭を抱えて肩を落としていた。
明らかに落ち込む涼黒の姿に、剛昌はそのまま出て行くか戻るか右往左往した。結果、拭いきれない兄としての情のせいなのか、剛昌は涼黒の頭を撫でて助け舟を出す。
「まあ、誰も見た者が居ないよりはマシだ。そう落ち込むな」
「だっておっちゃん落ち込んどったもん」
「気にするなと言っているだろう」
涼黒を慰め終わって直ぐに老婆の元へと向かおうとする剛昌。
「おっちゃん、良かったら食べん?」
涼黒は饅頭を差し出したが、剛昌は彼の手をそのまま優しく突き返した。
「お前が食べろ、俺は要らん」
「いや、でも――」
涼黒の言葉を遮った剛昌は懐から何かを取り出し始める。
「おっちゃん?」
「これは駄賃だ。ちゃんとしっかり食べろ」
剛昌は慣れないのか、殴るような勢いで拳を涼黒に突き出すと手を出すように伝えた。
「え、あ、いやこんなに……⁉」
戸惑う涼黒を背に家を出ていこうとする剛昌。
「邪魔したな」
「あの、こんなん貰えんばい!」
「気にするな」
「え、え、ああ、にゃー、どうしょ……」
慌てふためき言葉がおかしくなっている声に剛昌は微笑みながら外へと歩き出した。
「おっちゃん、あんがとー!」
剛昌はいつものように振り向かないまま手を上げて挨拶を返した。
剛昌は村の入り口の方へと戻りながら五軒ほどが並ぶ家を眺めていたが、やはり人の気配はしなかった。
「確か、婆さんの家は……」
涼黒が送った家へと向かう剛昌。
家の前では、先程の老婆がまるで待っていたかのように剛昌の方を黙って見つめていた。
「婆さん話がしたい」
涼黒の時とは違い、威圧感を漂わせながら剛昌は問いかけるが、老婆の反応は変わらなかった。
「みぃんな、死んじまったんだよ!」
「なあ、婆さん」
「死んじまったんだよ!」
「あんた、ボケた振りをするのは何故だ」
「あ……」
剛昌の放った言葉に老婆は硬直した。口を動かすが先程まで出ていた声は聞こえてこない。
剛昌は老婆が何故ボケた振りをしているのかは分からないが、それがわざとであることは最初の時点で見抜いていたようだった。
「婆さん、俺が最初に尋ねた時に首を横に振っただろう。質問に対して言葉にせず体で示した。しっかりこちらの言葉は理解しているんだろう」
「……」
老婆は黙ったまま動かない。
「口もききたくないか?」
少しだけ口調を和らげて聞く剛昌に、老婆はようやく重い口を開いた。
「……涼黒には聞かれたくない。中に入りなさい」
老婆が先程の青年の名前を口にした時、剛昌はしっかりと頷いた。
「ああ、そうだな」
「もう帰るん?」
「ああ、夢の話を知る者に会いたいからな」
出て行こうとする剛昌に涼黒が声を掛ける。
「おっちゃん」
「どうした?」
「一応さ、おるにはおるんよ。ただなぁ……」
剛昌を止めた割に煮え切らない様子の涼黒。
「どうしたんだ」
「いやぁ、どうもこうも……」
言いにくそうにする涼黒だが、剛昌も時間を持て余しているわけではない。いくら情が湧こうとも、剛昌はこの時初めて涼黒を睨みつけた。
「ハッキリせんのは好きじゃない」
涼黒はそれでも言いづらいのか、村の入り口の方を黙って指差した。
「おい、まさか……」
「……だから言いとーなかってん……」
剛昌は頭を押さえて立ち尽くしていた。話の通じるか分からない相手ともう一度会うというのは、さすがの剛昌もやりにくかったのだろう。
「いやぁ、やっぱそういう感じになりようけん、言いとーなかっちゃー……」
青年は頭を抱えて肩を落としていた。
明らかに落ち込む涼黒の姿に、剛昌はそのまま出て行くか戻るか右往左往した。結果、拭いきれない兄としての情のせいなのか、剛昌は涼黒の頭を撫でて助け舟を出す。
「まあ、誰も見た者が居ないよりはマシだ。そう落ち込むな」
「だっておっちゃん落ち込んどったもん」
「気にするなと言っているだろう」
涼黒を慰め終わって直ぐに老婆の元へと向かおうとする剛昌。
「おっちゃん、良かったら食べん?」
涼黒は饅頭を差し出したが、剛昌は彼の手をそのまま優しく突き返した。
「お前が食べろ、俺は要らん」
「いや、でも――」
涼黒の言葉を遮った剛昌は懐から何かを取り出し始める。
「おっちゃん?」
「これは駄賃だ。ちゃんとしっかり食べろ」
剛昌は慣れないのか、殴るような勢いで拳を涼黒に突き出すと手を出すように伝えた。
「え、あ、いやこんなに……⁉」
戸惑う涼黒を背に家を出ていこうとする剛昌。
「邪魔したな」
「あの、こんなん貰えんばい!」
「気にするな」
「え、え、ああ、にゃー、どうしょ……」
慌てふためき言葉がおかしくなっている声に剛昌は微笑みながら外へと歩き出した。
「おっちゃん、あんがとー!」
剛昌はいつものように振り向かないまま手を上げて挨拶を返した。
剛昌は村の入り口の方へと戻りながら五軒ほどが並ぶ家を眺めていたが、やはり人の気配はしなかった。
「確か、婆さんの家は……」
涼黒が送った家へと向かう剛昌。
家の前では、先程の老婆がまるで待っていたかのように剛昌の方を黙って見つめていた。
「婆さん話がしたい」
涼黒の時とは違い、威圧感を漂わせながら剛昌は問いかけるが、老婆の反応は変わらなかった。
「みぃんな、死んじまったんだよ!」
「なあ、婆さん」
「死んじまったんだよ!」
「あんた、ボケた振りをするのは何故だ」
「あ……」
剛昌の放った言葉に老婆は硬直した。口を動かすが先程まで出ていた声は聞こえてこない。
剛昌は老婆が何故ボケた振りをしているのかは分からないが、それがわざとであることは最初の時点で見抜いていたようだった。
「婆さん、俺が最初に尋ねた時に首を横に振っただろう。質問に対して言葉にせず体で示した。しっかりこちらの言葉は理解しているんだろう」
「……」
老婆は黙ったまま動かない。
「口もききたくないか?」
少しだけ口調を和らげて聞く剛昌に、老婆はようやく重い口を開いた。
「……涼黒には聞かれたくない。中に入りなさい」
老婆が先程の青年の名前を口にした時、剛昌はしっかりと頷いた。
「ああ、そうだな」
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