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第八話「はっきりさせておきたい上下関係」

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「あ……あの……シュヴァルツ君、お久しぶり、です……」
「お、おお、シズクか」

 アイシャの後ろからひょっこりと顔だけを出したのは、たれ耳に黒髪の「大人しい」を体現させたような女の子であるシズク。

 相変わらずおどおどしているが、それがまた良いところでもある。

 あのドジっ子天然はギルド員としてどうかとは思うが……。

「……それで、なんでアイシャの後ろに隠れているんだ?」
「え、いや……その……っ」

 なぜ照れるんだ……。

 あれか、俺が裸で抱きかかえたから警戒されてるのか?

 それとも、胸に意識が向いてしまうのがバレてしまったのか?

 だが、男としてそれは仕方ないことだろう。
 おっさんとして、それは仕方のないことだろう?

「まぁ、なんでもいいが……。二人とも、任務の内容は聞いてるのか?」
「え、ええ……」
「は、はい……」

 あまり気持ちの良い返事ではなかった。
 まぁ、今から行くのはダンジョンだがクエストではない。これから行くのは任務だ。
 クリアしてもしなくても、命があればいいクエストとは違う。
 任された務めを果たさなければならない。

 気が滅入るのも仕方ないことだよな。

 アイシャとシズクは少しばかりアイコンタクトをした。その後、アイシャが呆れながらにこちらを見つめる。

「内容を聞いてるからこそ、君が担当っていうのが理解できないんだけどさ……」

 腕を組んでも、谷間ができないアイシャ……。
 胸を張っても、どこにも膨らみが感じられないアイシャ……。

 土属性の魔法で「絶壁」なんてあれば強そうだな……。
 ああ、でも、アイシャは風属性か。

「……」
「なにかなぁ……?」

 少し怒り気味のアイシャに目を逸らしつつ、
「あ、いや……なにも……」
 と、返事を返す。

 あんまり悲哀の目で見ていると、また引っかかれるかもしれない。

「あ……あの……!」

 ようやく、シズクがアイシャの隣に並んだ。

「おお……」

 ほほう……これは中々の装備……。

 エアリエルの東町で流行り始めた和服とかいう衣装か。
 上から下まで、着替えが一括でできる便利な衣服と聞くが……。

 ふむふむ、これは中々素晴らしい。

 黒を基調に、生地の端は赤いライン、動きやすさを意識された太ももの半分程までの布地。

 加えてシズク特有の胸の谷間と、大人しそうな見た目が完全に合致している。

 和服の獣人……、アリだな。

「あ、あの……シュヴァルツ君……?」
「…………」

 若いって素晴らしいな……。やっぱり獣人族は可愛いのが多くて助かる。

「そ、そんなにじっと見られると……その、恥ずかしい、です……」

 シズクのこの初々しい反応も、おっさんからすればレア素材……。

「シュ、シュヴァルツ君……?」
「いや、これはまた見事な――――」
「ちょっとちょっとぉー!」

 アイシャがシズクに抱きつき、俺の視界からシズクを消された。

 まぁ、アイシャとシズクなら、女子同士でも構わない。
 可愛いは正義とか誰かが言っていたが、本当にそう思う。

「なんかさー、私たちのこと、イヤらしい目で見てない?」
「ち、違うぞ……こ、これは念のために装備を確認しているだけだ……」

 と、一応ごまかしておくが……。

「それにしてはなんかイヤらしい目つきだったんですけど……シズクの体まじまじ見てたんですけど……」

 シズクを庇うように、俺の視界から遠ざけようとするアイシャ。

「さ、さぁ……なんのことかな……」

 さすがに見すぎたか……。

 いや……だがしかし、こんな装備でおっさんとパーティを組むこの二人が悪いのであって、俺が二人の体に目が行ってしまうのは自然なことだ。

 つまり、俺が悪いのではなく、この装備を選んで着てきた二人が悪い。

「はぁ……。それで?」

 独りで自分の言い訳に納得の頷きをしていると、アイシャが引き気味に問いかけてきた。

「ん、なんだ?」
「なんで君なのか、その答えを聞いてないんだけど」

 シズクに抱きついたまま、アイシャが俺へと問いかけてくる。

「クレスから頼まれたんだよ。お前たちとジャックの救出を頼むってな」
「…………」
「ん、どうした?」
「……絶対うそじゃん…………」
「……いや、本当なんだが」
「いやいや……ありえないでしょ……」

 とてつもなくドン引きされているんだが……!
 ドン引かれているんだが……⁉

 本当のことを言ってドン引きされるって……、若いってだけでどれだけ信用がないんだ……。

 いやまぁ、俺も逆の立場ならその判断しかしないだろうが……。

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