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第七話「後始末」

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 ……。

 ん、二人から返事が返ってこない。

「二人ともどうしたんだ?」
「ビオリス、すまないんだが私たちは町からは動けない。有事の際を考慮してな。もし、私たちが離れれば、裏ギルドの連中にここを襲撃されかねない」
「まぁ、それはそうだが……お」

 次の言葉を言う手前――――――
 目の前から俺の肩を優しく掴んだのは、キングの豪快な手だった。

「な、なんだキング……」
「その為に、お前が居てくれるのだろう。なぁ、ビオリス」

 警備隊の隊長であり元上級冒険者……。現役時の異名は、その勇猛果敢な戦いぶりから「勇気の先導者」と呼ばれたバーサーカー。

 そんな男に任されるのは、一般の冒険者ならばさぞ光栄なことなんだろう。

 だが――――――――

「……あのな、ずっと裏方っていうのは意外としんどいんだぞ……」

 ため息混じりに愚痴をこぼし、テーブルの上に置かれていた飲み物を一口。

「っ……!」

 これ、酒じゃねぇか……。

「表舞台は嫌だの面倒だのと言っていたのはどこのどいつだ?」

 上から目線の、見下ろすようなクレスの眼差しから目を逸らす。

「さぁな……」

 少しだけ口にしてしまった酒を拭いつつ、俺は二人ともども目を逸らした。

 ギルドに属するのも警備隊に入るのも、面倒だと断った結果、俺は冒険者を続けることにした。

 クレスとキングは昔馴染みということもあり、クエストや任務の報酬をくれた。そのおかげで、特に生活で困る事もなかった。

「…………」

 ただ……年をとっていく感覚、老いという感覚だけは、俺の心を少しずつ虚弱にしていった。

 目の前に迫っていた「引退」は、俺から活力とやる気を削いでいった。

 任務を半ば放棄して、ジャックのパーティを抜け出して、八階層まで勢いで上がって、自分の今の力がどんなものかと、おっさんになっても生き急いで……。

 はぁ…………。

 人間なんて、冒険者なんてバカばっかりだ。

 だが、それでも……。

 若返った今の俺には……もう一度……もう一度だけ、チャンスが与えられた。

「ビオリス、もう一度、冒険者として出発するんだろ?」
「…………っ」

 クレスの問いかけに俺は無言を貫いた。

「ビオリス、お主は仲間を見捨てるような奴でも、責任から逃げ出すような奴でもない。そうであろう?」
「あぁあああ……くそっ、年寄りどもがうるさいぞ……」
「ふっ、人間の子どもに言われるとは、なにも言い返しようがないな」

 馬鹿にしたように笑うクレス。

「ああ、まったく。あの頃のビオリスと変わっとらんわ」

 キングは静かに、俺の方へと微笑んだ。

「ちっ……、子ども扱いばっかりで面倒くせぇ奴らだ……」
「ははは、私たちからすれば子どもにしか見えないさ」

 ぽんぽんとクレスに頭を触られる。

 人間で言えばそこまで小さくはない。

 まぁ、大人でもない中途半端な見た目なのは事実だが……。

「クレス、やっぱりお前はムカつくわ……」
「そうか?」

 なにがだ、と言わんばかりの表情のクレス。

「はぁ…………もうなんでもいい……。とにかく、俺が対処するとしてだ、ダンジョンへの進入はどうするんだ? 俺は今、Eランクの冒険者でしかないぞ」
「それなら……」

 クレスが不意に立ち上がり事務机の方へ向かう。

 机の引き出しからなにかを取り出したクレスはこちらを見つめた。

「これを持っておけばいいだろう。ほら、受け取れ」
「お、おっと……」

 クレスから放り投げられたのは、剣の形をした銀色のネックレス。

「これは?」
「それはCランク冒険者に渡される初級冒険者の証。五階層まで行ける者に渡すものだ。それを身につけておけばダンジョンへは自由に入れるだろう。第六階層へも進入できる」
「それなら前と同じSランクのやつをくれよ……」
「それじゃ、再出発にならないだろ。いや、そもそも前に渡した分はどうしたんだ?」
「あれ、そう言えば……」

 冒険者の証って昔に貰ったな……。

 家に置きっぱなしになっているような……。

 ん……そういえば――――――

「あれ、俺がダンジョンに入る時に足止めくらったことないんだが……」
「そりゃ、大剣を使う奴なんて少ないからな。お前が目立とうとしなくても目立つさ」

 そんな理由で通っていいのか……。

「顔パスでダンジョンに行ってもいいのかよ……」
「お前なら大丈夫だろ」

 はぁ……。

 ギルド長ともなればなんでもアリか……。

「いやまぁ助かった。一人でダンジョンに行きたかったんだよ」
「なら、ジャックのことは頼んでいいんだな?」

 クレスに質問され、俺は頭をかきつつ、
「あいあい……たまには仕事でもやりますよ」
 と、半ば投げやりに答えた。

 元々、俺が受けた任務のトラブルだしな。俺で処理しなきゃいけないのは明白。

 第六階層までちゃちゃっと行って終わらせ……。

「そういえばよ、第六階層まで行ける相手って、俺一人でいいのか?」
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