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第五話「ギルドでの再登録」

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「――――ではアイシャ、彼のことは頼んだよ」

 ……ん、なんだ……。クレスの声がする……。

「えー……なんで私がこんな生意気な子どもの面倒見なきゃいけないんですかー……」

 やる気を微塵も感じられないアイシャの声……。

 生意気な子どもとか、面倒って……まさか、俺のこと……じゃないだろう。

 それにしても良いソファだな……。肘置きの部分が頭にちょうど合う。

「新人冒険者の相談役、クエストの受付は君の仕事だろう?」
「初対面で胸の悪口を言う子どもなんて知りません! 今だって、飲酒して倒れてるなんて……こんな不良、クレス様がこの場に居なかったら通報してますよ⁉ まだお酒飲んじゃいけない年ですよねこの子⁉」
「あ、あはは……それは後で私から叱っておこう」

 ああ、そうか。俺はクレスと酒を飲んで……あ、また頭痛がする……。

 それにしても……酒が飲めなくなるなんて……。家に帰ったら何をすればいいんだ……。

「もー! クレス様、笑いごとじゃありませんよ!」
「ま、まぁまぁ……そう言わずに、ね?」
「ふんっ!」

 プンスカプンスカと……。アイシャの奴はまだ怒ってるのか……。

 ぺたんこな胸に「ぺたんこ」と言って何が悪いのか。

「この子が起きたらとりあえず殴ります……」

 パキポキと、指の骨が近くで鳴っている。多分、アイシャだろう。

 とりあえず、今は起き上がらないほうが良さそうだな。

 クレスに任せておいて、このまま話だけ聞いておこう。

「あ、あはは……。そうだね…………もし、彼の相手をしてくれるなら……ふむ……」

 もったいぶるクレスの言い方に、

「な、なんですか……?」

 と、恥じらう乙女のようなアイシャの問い返し。

「そうだね……」
「ク、クレス様? そんなに見つめられると……その……」
「どうしたんだい?」
「あ、あの……もし、そのクレス様がよろしければ……その……クレス様とデデ、デデデデ……デー……デー……」

 アイシャの反応が変わっている。

 俺への態度と明らかに違うのが気になるが、クレス相手じゃ仕方ない、か……。

 クレスの奴、性格と性癖は少々難あり……しかし、顔がイケメンのエルフはモテる。とにかくモテる。

 なおかつ、上級冒険者で五つの魔法属性を使いこなせる「エレメンタルマスター」の異名を持つクレスともなれば、女性の方から近付いてくるのは必然……。

 冒険者の憧れであり、年齢関係なく女性からは恋愛対象の相手。強いて言うなら、男の敵でもある。

 アイシャがギルドの受付嬢になったのも、クレス直々の頼みだったからという話だしな……。

 俺もイケメンエルフだったら、もう少しキャッキャうふふな冒険者生活が送れていたかもしれない。

「そうだね……それも悪くないか……」

 考え込むようなクレスに、

「なにゃっ!」

 アイシャの声音が高くなっていく。

「じゃ、じゃあ! 私とデー――――」
「彼の相手をしてくれたら、反省文の件はなかったことにしよう。どうかな?」

 …………やりやがった。

「はぅぅ……」

 クレスも意地悪な奴だな。言い寄ってくる女性や自分に気のある女の子が居ると、こうやって焦らして遊びだす。

 ほんと、良い性格してるわ……。
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