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第三話「旧友、クレス」
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「――――おい、あの子ども、アイシャに禁句を言いやがったぞ……」
「――――ありゃ、終わったな……」
「――――ああ、アイシャに胸のことを言ったら――――」
「――――八つ裂きにされるぞ、あいつ……」
「――――断崖絶壁の受付嬢アイシャ……」
「今、断崖絶壁って言った奴、あとでぶっ飛ばす……!」
周囲嘆息と悲鳴が耳へと届いてくる。
「とーにーかーくー…………」
「な、なんでしょうか……」
「すべてのぺたんこに謝れこのやろー!」
アイシャは元冒険者だが、若くして引退した獣人の女の子。素早さに長けていた彼女はギルド長にヘッドハンティングされ、今は新人から中級冒険者たちのクエストを管理している。
実力としては七階層到達者の一人。そこら辺の冒険者よりよっぽど腕がたつ。
右、左の高速技、元冒険者といえども、その速度は一般人には見えないだろう。
素早い動きでひっかいてくるアイシャ。
「あぁ……終わった……」
俺の服が…………。
久しぶりにアイシャのひっかきをモロに受けて服がボロボロに裂けていく……。
痛くはないんだが、服がもう着れなくなるから嫌なんだよ……。
地肌を傷つけないのは、それなりの気遣いなのかもしれない。だが、服の代金の請求は断られる。
体は尋常ではない動きなのに、その胸元は微動だにしない。
「ぺたんこぺたんこってー! こっちは好きでこうなったんじゃなーい! 痛みを知れー! 胸のない女の子の痛みを知れー! ばかー!」
泣きながら、嘆きながらのアイシャの攻撃。
「……」
「ばーか! ばかばかばーか!」
止まらないアイシャは絶望しながらの攻撃をやめてくれない。
「ちょ……こんなことをしている場合じゃないんだ……」
「うるさい! どうせみんな最初に私のこと見て男と勘違いしやがってー! うがぁー!」
「いや、それは俺の責任じゃないだろ!」
「うるさいうるさいうるさーい!」
今までのストレスを丸ごとぶつけられている気がする。
「――――うるさいのは貴方ですよ、アイシャ」
後ろからの馴染みの声。それと共にビクッと動きを止めたアイシャ。
俺の上半身は時既に遅く、周囲の目に晒されている。
「あ、あわわわ……な、なんでクレス様がここに……⁉」
アイシャが涙目で慌てふためく。
しかし、焦ってじたばたしても揺れるものがない。
「今日は朝から集まりがありますからと、言ったはずですが?」
「そ、そうでしたっけ……」
「はぁ……まったく……。冒険者の服をなんだと思っているんですか……。また後で反省文ですからね」
「そんなぁぁあああああ……」
目の前で膝から崩れ落ちていくギルドの受付嬢。
人の話を聞かないアイシャには天罰が下された。
「はうぅ……あぅぅ……」
落ち込むアイシャはがっくりと肩を落としている。
「君、大丈夫ですか?」
君なんて呼ばれ方に違和感を抱いてしまうが、多分、俺のことだろう。
「まぁな」
「それは良かった」
振り返った後ろに居たのは、スラッとした体型のエルフ。
肩まで伸びる銀色の髪に丸眼鏡をかけて立つ彼は、まさしく俺が会いたかったクレス本人だった。
「――――ありゃ、終わったな……」
「――――ああ、アイシャに胸のことを言ったら――――」
「――――八つ裂きにされるぞ、あいつ……」
「――――断崖絶壁の受付嬢アイシャ……」
「今、断崖絶壁って言った奴、あとでぶっ飛ばす……!」
周囲嘆息と悲鳴が耳へと届いてくる。
「とーにーかーくー…………」
「な、なんでしょうか……」
「すべてのぺたんこに謝れこのやろー!」
アイシャは元冒険者だが、若くして引退した獣人の女の子。素早さに長けていた彼女はギルド長にヘッドハンティングされ、今は新人から中級冒険者たちのクエストを管理している。
実力としては七階層到達者の一人。そこら辺の冒険者よりよっぽど腕がたつ。
右、左の高速技、元冒険者といえども、その速度は一般人には見えないだろう。
素早い動きでひっかいてくるアイシャ。
「あぁ……終わった……」
俺の服が…………。
久しぶりにアイシャのひっかきをモロに受けて服がボロボロに裂けていく……。
痛くはないんだが、服がもう着れなくなるから嫌なんだよ……。
地肌を傷つけないのは、それなりの気遣いなのかもしれない。だが、服の代金の請求は断られる。
体は尋常ではない動きなのに、その胸元は微動だにしない。
「ぺたんこぺたんこってー! こっちは好きでこうなったんじゃなーい! 痛みを知れー! 胸のない女の子の痛みを知れー! ばかー!」
泣きながら、嘆きながらのアイシャの攻撃。
「……」
「ばーか! ばかばかばーか!」
止まらないアイシャは絶望しながらの攻撃をやめてくれない。
「ちょ……こんなことをしている場合じゃないんだ……」
「うるさい! どうせみんな最初に私のこと見て男と勘違いしやがってー! うがぁー!」
「いや、それは俺の責任じゃないだろ!」
「うるさいうるさいうるさーい!」
今までのストレスを丸ごとぶつけられている気がする。
「――――うるさいのは貴方ですよ、アイシャ」
後ろからの馴染みの声。それと共にビクッと動きを止めたアイシャ。
俺の上半身は時既に遅く、周囲の目に晒されている。
「あ、あわわわ……な、なんでクレス様がここに……⁉」
アイシャが涙目で慌てふためく。
しかし、焦ってじたばたしても揺れるものがない。
「今日は朝から集まりがありますからと、言ったはずですが?」
「そ、そうでしたっけ……」
「はぁ……まったく……。冒険者の服をなんだと思っているんですか……。また後で反省文ですからね」
「そんなぁぁあああああ……」
目の前で膝から崩れ落ちていくギルドの受付嬢。
人の話を聞かないアイシャには天罰が下された。
「はうぅ……あぅぅ……」
落ち込むアイシャはがっくりと肩を落としている。
「君、大丈夫ですか?」
君なんて呼ばれ方に違和感を抱いてしまうが、多分、俺のことだろう。
「まぁな」
「それは良かった」
振り返った後ろに居たのは、スラッとした体型のエルフ。
肩まで伸びる銀色の髪に丸眼鏡をかけて立つ彼は、まさしく俺が会いたかったクレス本人だった。
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