魔王を倒したのに王に「追放する」と告げられたので、お姫様と一緒に魔王城で生活することにした

忍原富臣

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第二話「生きていた魔王たち」

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「魔王様、交尾ってなに?」
「交尾は交尾よ! 私もあんまり分かってないわ!」
「分かってないのに交尾って知ってるの?」
「当たり前でしょ! スライムだってネズミだって交尾して増えていくのよ!」
「へー! すごい!」

 自信満々にアリシアの両サイドで凄い会話が飛び交っていく。

「ん……ぜくす?」
「ああ、フウ、今はまだ寝ていてくれ……」
「ん? それってどういう――すー……すー……」
「寝るの早いなおい……」

 もしかして、俺とアリシアの撫でる能力は凄いのかもしれないと思えてきた。

「ねーねー、魔王様! オスとメスって?」
「オスがあいつでメスがアリシアよ!」

 まだとんでもない会話は続いているようだな……。アリシアも慌ててそれどころじゃないらしい。

「んじゃ、お兄ちゃんとお姉ちゃんが交尾すれば子どもが出来るの?」
「「ブフッ……!」」

 思わず俺と同時にアリシアが吹き出した。その言葉の並びは完全にアウトだ……。

「そう言うことね!
「あれ、お姉ちゃんの顔が赤いよ?」
「ああ! あんたも顔真っ赤じゃない!」

 俺を見ながら指を差す魔王。

「……アリシア、頼むから魔王の口を塞いでくれ……」
「う、うん……!」

 慌てたままのアリシアが胸の間に魔王を沈めた。

「あー! 魔王様ずるい!」

 確かにズルい……。

「ん~! んん~――……」

 腕ごと抱きしめられた魔王を完全にホールドしたアリシアが勝利したらしい。

 魔王をベッドに寝かせたアリシアの膝の上にライがちょこんと座る。

「えへへ……♪」

 ライは雰囲気からすると確かに甘えん坊って感じだな。フウはなにを考えているか分からないが、独特な雰囲気がクセになる。魔王は魔王で必死にまとめようとする姿がいたたまれない……。

「ライちゃん可愛いなぁ……♪」
「もっと褒めてー♪」
「よしよーし♪」

 ああ……いつまでも見ていられる光景が目の前に……。あれ、俺とアリシアってなにをしに来たんだっけ……。

「まぁ、いいか……」
「ゼクスどうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
「ほんとに?」
「ああ」

 足の間で寝転ぶフウの頭をそっと撫でてみる。すると両手で掴まれて抱き枕にされた。

「ふふっ、ゼクスお父さんみたい」
「アリシアもお母さんみたいだぞ」
「そ、そうかな……」

 照れるアリシア。その姿に思わずこっちも頬が熱くなる。

「……なんかさ、こんな可愛い子たちが四天王なんて信じられないよ」
「ライは四天王だよ?」

 アリシアの顔を見上げるように顔を上げるライ。アリシアは丁寧に頭をなでなでしていた。

「そうだねー♪ ライちゃんは可愛い四天王の一人だね♪」
「えへへ♪」
「はぁ~、可愛いよ~ライちゃ――」

 ――ドゴォォオオオオオオオオオ!

 城全体が揺れるほどの衝撃と爆音。サッとフウを抱きしめてアリシアの隣に移動する。

「な、なんだろう……」
「分からんが、かなりでかいな……」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「ライちゃんどうしたの?」
「敵が来たからやっつけてくる!」

 ひょこっとアリシアの膝から着地したライがタタタッと部屋の入口に向かっていく。

「ライ、待て」
「ん?」

 ライが足を止めたのを確認してフウをアリシアに引き渡す。

「ちょっとフウを頼むぞ」
「う、うん……」

 入口に近寄っていたライの頭にぽんと手を乗せる。

「一緒に行くか?」
「え、いいの?」
「まぁ、俺の責任でもあるしな……」
「お兄ちゃんだいすきー!」

 ぎゅっと腹部に抱きつくライ。うん、だいぶこの状況に慣れてきたぞ。慣れていいものかどうかは分からんが……。

「じゃあ、アリシア、フウと魔王を頼んだ」
「え、でも――」
「大丈夫、すぐ帰って来るから」
「……うん、分かった」



 ***



 ってことで、外に出てきたわけだが……。

 フウと同じように背中にくっついたライを気にせず、目の前の物体を見つめる。

「なんだこいつ……」

 広場に居たのは、格闘家のような坊主の男だった。

「フッハッハッハ! 貴様が魔王だな!」

 とても渋めの声でとてつもない誤解を受けた。

「いや、俺は魔王じゃなくて――」
「見苦しいぞ! そのような少女を人質にとるとは! いざ尋常に勝負しろ!」

 指一本で「来いよ」と合図される。思わず眉間にシワができてしまう。

「ライ、ちょっと下りてくれ」
「はーい!」
「素直でいいぞ」
「えへへ♪」

 膝を抱えて小さくなっているライから離れるように格闘家に近付いていく。

 素手の相手に刀を使うのは忍びないな。

「魔王め! すでに少女の中をを己の欲望で満たしたとでもいうのか!」
「どんな隠語だよ……、というか俺はロリコンじゃねえから……」

 刀身を抜き出す。刀の背を男に向けて構える。

「人が相手だから殺しはしないが、当たれば骨は折れるぞ」
「魔王如きに心配される私ではない!」

 そう言いながらあちらも身構えた。

「だから、魔王じゃないって……」
「遅いぞ!」
「――ッ!」

 一回まばたきをした瞬間に男が懐まで移動した。突き刺すような蹴りを避け、体を回転させた男の裏拳を右腕で受け止める。しゃがみこんだかと思えば足払いをしようと構える男。当たれば倒される。当たらなくても空中に飛んだ直後を狙われる。まぁ、格闘家らしい戦闘スタイルだな。

 ここか――

 振り切ろうとした足が来る前に半歩さがる。そのまま勢いよく振り切った男の足を上から踏みつけた。

「なにっ……!」
「上手くいくと思っていたんだろうが、格闘家にしてはもう少しスピードが欲しいところだな」
「くっ……!」
「諦めろ。諦めないならこのまま骨を砕く」
「魔王なんぞに私は屈しない!」
「だから話を聞けって――――くっ!」

 投げつけられた砂が目に入った。

「クソが……」
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