呪いを受けた王太子

城ねこ

文字の大きさ
上 下
14 / 26

イーサン・アルゾーグリー

しおりを挟む
 アルゾーグリー国王、イーサン・アルゾーグリーには生殖能力に関して難がある。

 唯一生まれた子は母親の腹の中ですでに両腕を持たずに育ち、難産の末、その腹から出ても乳が飲めないほど弱かった。

 たった一日だが生きた命を父王は死産と公表し、その赤子を速やかに埋葬した。

 母親の体に問題があったと言い張る父王と慰める数多あまたの女たちの間にそれ以降、子が宿ることはなかった。

 この真実を知るのは父王以外、今はもう俺とブルーノのみだ…他は死んだ。


「マリアンヌの近くに浅葱あさぎ色に近い色を持つ者がいるはずだ」

 アルゾーグリー王族に継がれる浅葱色の瞳…確かに似た色を持つ者はいる…だが、見分けることができる。

「マリアンヌ様の近くには護衛騎士でさえ女が起用されています…陛下がそうしろと」

「寵愛がすぎる…エコー…父王は…中央から離れてもらう」

「…それでは殿下の負担が増します」

「会議に参席するという手間が増えるだけだ。マリアンヌの生家せいか、ワイドから連れてきたメイドは?」

「数人おります」

「…マリアンヌの身辺に気を張れ…城から離れようとする者は捕らえていい」

「しかし…」

「ワイドが騒いだらマイル公爵が抑える。エコー、マリアンヌが否定したらワイド伯爵家は滅門…私はそれを前例にするために一族を処刑する」

 マリアンヌが素直に白状して消えてくれるならそうはならない。

「伯爵家には幼子もおりますが」

「…情けをかけるか…辺境の孤児院…それなら心は痛まないか?」

「はい」

 俺は手を振りエコーに下がれと命じる。

「大胆なことをしますね」

 ライドは丸めた本を手のひらに打ち付けながら呟いた。

「あの父王のそばにいれば不相応な願いも叶うと思ってしまうか。念のため、俺の口に入るものは徹底的に調べろ」

「殿下の命を狙います?そこまで馬鹿?」

「王族相手に托卵だぞ…なんでもやる…そんな感じがする…マリアンヌの単独ならば話は変わるがな」

「ワイド隊長はび専門だと思っていました」

「媚びれば願う…そんなことを経験したら…気も大きくなる」

 父王の扱いを学び、美しい娘を差し出し、溺れぶりを間近で見れば…人の欲望とは無限だな。

「パーティー会場を離れたことで父王が怯えた…マリアンヌを徹底的に囲ったら…面倒だな」

 この問題から片付けるか。

「殿下、牢の男はなんて言ったんです?」

 ライドは真剣な顔で俺を見ていた。

「…呪いが成功していたことに驚いていたな」

 子孫を残せない…そんな呪いもかけられていたとまだ言えない。

「背後には誰もいない。奴の単独…目障めざわりだから殺してもいいが、それによって呪いが強まっては困る」



 パーティーから数日、オード王国の二人は街へ下りて観光をしたり、貴族らと茶会や夜会にと外交のような遊びに勤しんでいた。

 マイル公爵家だけはリリアーナの静養を理由に他家への訪問と夜会の開催を中止している。

 あの日から俺の体におかしな欲求が湧くこともなく、日々を淡々とこなしていた夜、俺はブルーノを伴い、暗い隠し通路を歩いている。

 エコーに父王の話をしたあと訪れたブルーノにマリアンヌのことを告げた。

 ブルーノも俺にリリアーナの様子を報告した。

 閉じ込められたリリアーナは精神を病み、イリヤの名を叫んだかと思えば俺を呼んだりと多少頭がおかしくなったらしい。母親は嘆いてブルーノに許しを乞うたが、リリアーナは薬を与えられて落ち着きを戻した。心はどこか遠くにいるような状態だとか。

 俺は手を上げて後ろに続く者たちの歩みを止める。

 燭台しょくだいで壁を照らして突起を掴み、何度かずらしてから静かに引いた。

 埃っぽかった隠し通路のなかに甘ったるい香りが入り込む。

 音を出さずに隠し扉を開けきり、足音を消して進む。

 もう真夜中も過ぎた深夜、部屋に置かれた大きな寝台に近づくと父王とマリアンヌが並んで眠っていた。

 俺はふところから小瓶を取り出し、父王の口に何滴なんてきか垂らす。

 その間、グレンが扉に向かい外を警戒し、ブルーノとライドは寝台近くにたたずんでいた。

 俺は父王の老けた顔を見つめ軽く頬を叩く。

 目覚めぬ様子を見てから合図を送るとライドはマリアンヌの口を手のひらで覆った。

 異変を感じ、目覚めたマリアンヌの体を抑えるため、ライドが寝台に上がり、覆い被さるような体勢になる。

「マリアンヌ、マリアンヌ・ワイド」

 怯えた瞳が声を発した俺を見つけ涙を流し、起きない父王に視線を移して顔を振った。

「陛下は寝ているだけだ…深くな…」

 俺は寝台をぐるりと回り、ライドに抑えられたマリアンヌの近くに向かう。上体を屈ませれば泣き声が聞こえた。

『どうして!?陛下!お父様!いや!助けて!』

「懐妊とは…めでたいな、マリアンヌ」

『やっぱり…陛下の心配が当たったわ…まだお父様にも教えていないのに…王宮医師と陛下しか知らないのに!医師ね…あの医師!陛下が信頼していると…裏切り者!』

 ワイドはまだ知らないか。

「腹の子は誰の子だ?」

『え…な…なんて…』

「マリアンヌ、愚かなマリアンヌ…どれだけこの年寄りに抱かれた?父王は腰が振れないだろう?お前が乗って頑張ったのか?ご苦労だったな」

『どうして…そんなこと知っているのよ…助けて…誰か…スーザン…』

 俺はつい口角を上げてしまった。

 暗い部屋のなかでブルーノには見えなかったろうがマリアンヌには見えただろう。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誕生日会終了5分で義兄にハメられました。

天災
BL
 誕生日会の後のえっちなお話。

尻で卵育てて産む

高久 千(たかひさ せん)
BL
異世界転移、前立腺フルボッコ。 スパダリが快楽に負けるお。♡、濁点、汚喘ぎ。

王太子に公開お漏らしショーをさせる国王

ミクリ21
BL
国王の思いつきであれこれされる王太子。

皇帝の肉便器

眠りん
BL
 この国の皇宮では、皇太子付きの肉便器というシステムがある。  男性限定で、死刑となった者に懲罰を与えた後、死ぬまで壁尻となる処刑法である。  懲罰による身体の傷と飢えの中犯され、殆どが三日で絶命する。  皇太子のウェルディスが十二歳となった時に、肉便器部屋で死刑囚を使った自慰行為を教わり、大人になって王位に就いてからも利用していた。  肉便器というのは、人間のとしての価値がなくなって後は処分するしかない存在だと教えられてきて、それに対し何も疑問に思った事がなかった。  死ねば役目を終え、処分されるだけだと──。  ある日、初めて一週間以上も死なずに耐え続けた肉便器がいた。  珍しい肉便器に興味を持ち、彼の処刑を取り消すよう働きかけようとした時、その肉便器が拘束されていた部屋から逃げ出して……。 続編で、『離宮の愛人』を投稿しています。 ※ちょっとふざけて書きました。 ※誤字脱字は許してください。

甥の性奴隷に堕ちた叔父さま

月歌(ツキウタ)
BL
甥の性奴隷として叔父が色々される話

巨根騎士に溺愛されて……

ラフレシア
BL
 巨根騎士に溺愛されて……

公開凌辱される話まとめ

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 ・性奴隷を飼う街 元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。 ・玩具でアナルを焦らされる話 猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。

横暴な幼馴染から逃げようとしたら死にそうになるまで抱き潰された

戸沖たま
BL
「おいグズ」 「何ぐだぐだ言ってんだ、最優先は俺だろうが」 「ヘラヘラ笑ってんじゃねぇよ不細工」 横暴な幼馴染に虐げられてはや19年。 もうそろそろ耐えられないので、幼馴染に見つからない場所に逃げたい…! そう考えた薬局の一人息子であるユパは、ある日の晩家出を図ろうとしていたところを運悪く見つかってしまい……。 横暴執着攻め×不憫な受け/結構いじめられています/結腸攻め/失禁/スパンキング(ぬるい)/洗脳 などなど完全に無理矢理襲われているので苦手な方はご注意!初っ端からやっちゃってます! 胸焼け注意!

処理中です...