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イーサン・アルゾーグリー
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アルゾーグリー国王、イーサン・アルゾーグリーには生殖能力に関して難がある。
唯一生まれた子は母親の腹の中ですでに両腕を持たずに育ち、難産の末、その腹から出ても乳が飲めないほど弱かった。
たった一日だが生きた命を父王は死産と公表し、その赤子を速やかに埋葬した。
母親の体に問題があったと言い張る父王と慰める数多の女たちの間にそれ以降、子が宿ることはなかった。
この真実を知るのは父王以外、今はもう俺とブルーノのみだ…他は死んだ。
「マリアンヌの近くに浅葱色に近い色を持つ者がいるはずだ」
アルゾーグリー王族に継がれる浅葱色の瞳…確かに似た色を持つ者はいる…だが、見分けることができる。
「マリアンヌ様の近くには護衛騎士でさえ女が起用されています…陛下がそうしろと」
「寵愛がすぎる…エコー…父王は…中央から離れてもらう」
「…それでは殿下の負担が増します」
「会議に参席するという手間が増えるだけだ。マリアンヌの生家、ワイドから連れてきたメイドは?」
「数人おります」
「…マリアンヌの身辺に気を張れ…城から離れようとする者は捕らえていい」
「しかし…」
「ワイドが騒いだらマイル公爵が抑える。エコー、マリアンヌが否定したらワイド伯爵家は滅門…私はそれを前例にするために一族を処刑する」
マリアンヌが素直に白状して消えてくれるならそうはならない。
「伯爵家には幼子もおりますが」
「…情けをかけるか…辺境の孤児院…それなら心は痛まないか?」
「はい」
俺は手を振りエコーに下がれと命じる。
「大胆なことをしますね」
ライドは丸めた本を手のひらに打ち付けながら呟いた。
「あの父王のそばにいれば不相応な願いも叶うと思ってしまうか。念のため、俺の口に入るものは徹底的に調べろ」
「殿下の命を狙います?そこまで馬鹿?」
「王族相手に托卵だぞ…なんでもやる…そんな感じがする…マリアンヌの単独ならば話は変わるがな」
「ワイド隊長は媚び専門だと思っていました」
「媚びれば願う…そんなことを経験したら…気も大きくなる」
父王の扱いを学び、美しい娘を差し出し、溺れぶりを間近で見れば…人の欲望とは無限だな。
「パーティー会場を離れたことで父王が怯えた…マリアンヌを徹底的に囲ったら…面倒だな」
この問題から片付けるか。
「殿下、牢の男はなんて言ったんです?」
ライドは真剣な顔で俺を見ていた。
「…呪いが成功していたことに驚いていたな」
子孫を残せない…そんな呪いもかけられていたとまだ言えない。
「背後には誰もいない。奴の単独…目障りだから殺してもいいが、それによって呪いが強まっては困る」
パーティーから数日、オード王国の二人は街へ下りて観光をしたり、貴族らと茶会や夜会にと外交のような遊びに勤しんでいた。
マイル公爵家だけはリリアーナの静養を理由に他家への訪問と夜会の開催を中止している。
あの日から俺の体におかしな欲求が湧くこともなく、日々を淡々とこなしていた夜、俺はブルーノを伴い、暗い隠し通路を歩いている。
エコーに父王の話をしたあと訪れたブルーノにマリアンヌのことを告げた。
ブルーノも俺にリリアーナの様子を報告した。
閉じ込められたリリアーナは精神を病み、イリヤの名を叫んだかと思えば俺を呼んだりと多少頭がおかしくなったらしい。母親は嘆いてブルーノに許しを乞うたが、リリアーナは薬を与えられて落ち着きを戻した。心はどこか遠くにいるような状態だとか。
俺は手を上げて後ろに続く者たちの歩みを止める。
燭台で壁を照らして突起を掴み、何度かずらしてから静かに引いた。
埃っぽかった隠し通路のなかに甘ったるい香りが入り込む。
音を出さずに隠し扉を開けきり、足音を消して進む。
もう真夜中も過ぎた深夜、部屋に置かれた大きな寝台に近づくと父王とマリアンヌが並んで眠っていた。
俺は懐から小瓶を取り出し、父王の口に何滴か垂らす。
その間、グレンが扉に向かい外を警戒し、ブルーノとライドは寝台近くに佇んでいた。
俺は父王の老けた顔を見つめ軽く頬を叩く。
目覚めぬ様子を見てから合図を送るとライドはマリアンヌの口を手のひらで覆った。
異変を感じ、目覚めたマリアンヌの体を抑えるため、ライドが寝台に上がり、覆い被さるような体勢になる。
「マリアンヌ、マリアンヌ・ワイド」
怯えた瞳が声を発した俺を見つけ涙を流し、起きない父王に視線を移して顔を振った。
「陛下は寝ているだけだ…深くな…」
俺は寝台をぐるりと回り、ライドに抑えられたマリアンヌの近くに向かう。上体を屈ませれば泣き声が聞こえた。
『どうして!?陛下!お父様!いや!助けて!』
「懐妊とは…めでたいな、マリアンヌ」
『やっぱり…陛下の心配が当たったわ…まだお父様にも教えていないのに…王宮医師と陛下しか知らないのに!医師ね…あの医師!陛下が信頼していると…裏切り者!』
ワイドはまだ知らないか。
「腹の子は誰の子だ?」
『え…な…なんて…』
「マリアンヌ、愚かなマリアンヌ…どれだけこの年寄りに抱かれた?父王は腰が振れないだろう?お前が乗って頑張ったのか?ご苦労だったな」
『どうして…そんなこと知っているのよ…助けて…誰か…スーザン…』
俺はつい口角を上げてしまった。
暗い部屋のなかでブルーノには見えなかったろうがマリアンヌには見えただろう。
唯一生まれた子は母親の腹の中ですでに両腕を持たずに育ち、難産の末、その腹から出ても乳が飲めないほど弱かった。
たった一日だが生きた命を父王は死産と公表し、その赤子を速やかに埋葬した。
母親の体に問題があったと言い張る父王と慰める数多の女たちの間にそれ以降、子が宿ることはなかった。
この真実を知るのは父王以外、今はもう俺とブルーノのみだ…他は死んだ。
「マリアンヌの近くに浅葱色に近い色を持つ者がいるはずだ」
アルゾーグリー王族に継がれる浅葱色の瞳…確かに似た色を持つ者はいる…だが、見分けることができる。
「マリアンヌ様の近くには護衛騎士でさえ女が起用されています…陛下がそうしろと」
「寵愛がすぎる…エコー…父王は…中央から離れてもらう」
「…それでは殿下の負担が増します」
「会議に参席するという手間が増えるだけだ。マリアンヌの生家、ワイドから連れてきたメイドは?」
「数人おります」
「…マリアンヌの身辺に気を張れ…城から離れようとする者は捕らえていい」
「しかし…」
「ワイドが騒いだらマイル公爵が抑える。エコー、マリアンヌが否定したらワイド伯爵家は滅門…私はそれを前例にするために一族を処刑する」
マリアンヌが素直に白状して消えてくれるならそうはならない。
「伯爵家には幼子もおりますが」
「…情けをかけるか…辺境の孤児院…それなら心は痛まないか?」
「はい」
俺は手を振りエコーに下がれと命じる。
「大胆なことをしますね」
ライドは丸めた本を手のひらに打ち付けながら呟いた。
「あの父王のそばにいれば不相応な願いも叶うと思ってしまうか。念のため、俺の口に入るものは徹底的に調べろ」
「殿下の命を狙います?そこまで馬鹿?」
「王族相手に托卵だぞ…なんでもやる…そんな感じがする…マリアンヌの単独ならば話は変わるがな」
「ワイド隊長は媚び専門だと思っていました」
「媚びれば願う…そんなことを経験したら…気も大きくなる」
父王の扱いを学び、美しい娘を差し出し、溺れぶりを間近で見れば…人の欲望とは無限だな。
「パーティー会場を離れたことで父王が怯えた…マリアンヌを徹底的に囲ったら…面倒だな」
この問題から片付けるか。
「殿下、牢の男はなんて言ったんです?」
ライドは真剣な顔で俺を見ていた。
「…呪いが成功していたことに驚いていたな」
子孫を残せない…そんな呪いもかけられていたとまだ言えない。
「背後には誰もいない。奴の単独…目障りだから殺してもいいが、それによって呪いが強まっては困る」
パーティーから数日、オード王国の二人は街へ下りて観光をしたり、貴族らと茶会や夜会にと外交のような遊びに勤しんでいた。
マイル公爵家だけはリリアーナの静養を理由に他家への訪問と夜会の開催を中止している。
あの日から俺の体におかしな欲求が湧くこともなく、日々を淡々とこなしていた夜、俺はブルーノを伴い、暗い隠し通路を歩いている。
エコーに父王の話をしたあと訪れたブルーノにマリアンヌのことを告げた。
ブルーノも俺にリリアーナの様子を報告した。
閉じ込められたリリアーナは精神を病み、イリヤの名を叫んだかと思えば俺を呼んだりと多少頭がおかしくなったらしい。母親は嘆いてブルーノに許しを乞うたが、リリアーナは薬を与えられて落ち着きを戻した。心はどこか遠くにいるような状態だとか。
俺は手を上げて後ろに続く者たちの歩みを止める。
燭台で壁を照らして突起を掴み、何度かずらしてから静かに引いた。
埃っぽかった隠し通路のなかに甘ったるい香りが入り込む。
音を出さずに隠し扉を開けきり、足音を消して進む。
もう真夜中も過ぎた深夜、部屋に置かれた大きな寝台に近づくと父王とマリアンヌが並んで眠っていた。
俺は懐から小瓶を取り出し、父王の口に何滴か垂らす。
その間、グレンが扉に向かい外を警戒し、ブルーノとライドは寝台近くに佇んでいた。
俺は父王の老けた顔を見つめ軽く頬を叩く。
目覚めぬ様子を見てから合図を送るとライドはマリアンヌの口を手のひらで覆った。
異変を感じ、目覚めたマリアンヌの体を抑えるため、ライドが寝台に上がり、覆い被さるような体勢になる。
「マリアンヌ、マリアンヌ・ワイド」
怯えた瞳が声を発した俺を見つけ涙を流し、起きない父王に視線を移して顔を振った。
「陛下は寝ているだけだ…深くな…」
俺は寝台をぐるりと回り、ライドに抑えられたマリアンヌの近くに向かう。上体を屈ませれば泣き声が聞こえた。
『どうして!?陛下!お父様!いや!助けて!』
「懐妊とは…めでたいな、マリアンヌ」
『やっぱり…陛下の心配が当たったわ…まだお父様にも教えていないのに…王宮医師と陛下しか知らないのに!医師ね…あの医師!陛下が信頼していると…裏切り者!』
ワイドはまだ知らないか。
「腹の子は誰の子だ?」
『え…な…なんて…』
「マリアンヌ、愚かなマリアンヌ…どれだけこの年寄りに抱かれた?父王は腰が振れないだろう?お前が乗って頑張ったのか?ご苦労だったな」
『どうして…そんなこと知っているのよ…助けて…誰か…スーザン…』
俺はつい口角を上げてしまった。
暗い部屋のなかでブルーノには見えなかったろうがマリアンヌには見えただろう。
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