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2. ご主人様はクールで過保護

2-9 心配性のアッシュ様

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 おれが、こんな格好してるから……変な目で見られるんじゃないかって。主人であるアッシュ様の評判を、汚してしまうんじゃないかって。そんな嫌な可能性を、思いきって言ってみると。
 アッシュ様は、ぱちり、と瞬きをして――すぐに俺の問いに答える。

「違う」
「あ、違うんだ」
「まあ……変か、変でないかで言ったら……変だとは思うが。客観的に見て」
「……」

 うーん、ばっさり言うなぁ……。
 アッシュ様が椅子にもたれかかる。ぎし、と小さな軋みの音がする。

「お前がそういう格好をしたいのなら、すればいい。俺は別に、周りに褒められようが貶されようが気にならないからな」
「……そっか」

 まあでも、逆に安心かな。アッシュ様の考えのブレなさに。
 ずっと『好きにしていい』ってスタンスなのは変わらないからね。だからこそ、おれはおれらしくいる決意ができた……とも言えますし。

「で……そろそろ教えてよ。なんで外に出ちゃダメなのか」

 いよいよじれったくなって、おれが聞くと。

「お前を外に出さないのは、お前が使い魔だからだ」

 アッシュ様は、そう答えた。

「魔術師が生成した『使い魔』は、人間とは身体の構造が違う。魔力を多く蓄えることができるんだ。だから、俺の目の届かない場所で、変な輩に狙われるんじゃないかと思ってな」

 なるほど……それは確かに、危険かも。と、おれは頷く。
 おれはこっちの世界のこともあんまり知らないわけだし。うっかり騙されたりしたら、大変だよね。

「そうなると……使い魔が襲われたり、誘拐されたりって事件は多いのかな」
「……いや。使い魔を生成できる魔術師は、高い能力を持つ者ばかりだから……基本的には、使い魔に危険が及ぶようなことがあればすぐに気付ける。そういう事件が起こることは、まずないな」

 ん? あれ?
 何か想像と違うな。

「えーっと……? じゃあ『使い魔はお屋敷の外に出てはならない』とか決まりがあるわけでもなく……?」
「そうだな。むしろ用事に同行させたり、買い物に行かせたりするのは一般的なことだと聞く」
「で、アッシュ様は……おれが一人で外に出かけて、何かあったとしても、すぐ分かるってことだよね……?」
「まあ、そうだが」

 アッシュ様は、おれの目をじっと見て言う。

「そうだとしても、心配するに越したことはないだろう」

 うん、そうね。
 そうだけどさ……。

「過保護じゃない!?」

 おれは思わず叫んだ。
 本来、世の使い魔は安心して外に出られてるってことですよね? 心配だからって、ここまで徹底的に外出を制限する必要はないですよね!?

「あの、ご主人様。おれ、これでも男だから! 悪い奴に会ったらちゃんと逃げられるからっ!」
「その『悪い奴』かどうかはどうやって見抜く気なんだ。食べ物をくれるとか言って、騙されたらどうする」
「おれのこと何だと思ってるのぉ!?」

 そんな簡単には釣られませんが!? こちとら義務教育修業済みの成人男性ですが!?

「じゃ、じゃあ、最悪ずっと監視つけてくれててもいいから……」
「俺にも仕事があるんだぞ。目を話した隙に何かあったら」
「もぉ~~~~っ!」

 アッシュ様とおれによる平行線の問答は、しばらくの間続いたのだった……。
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