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底辺冒険者
鍛冶屋コリンス
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「おいしいがいっぱいでした!」
時刻は朝、シェリーからもらった椅子に座りウィルが作った朝ごはんをエラが平らげる。
素材はこの間とは違って普通の家庭の一般的なものだった。
パンに卵にソーセージ、あと果物一つだ。
こんなのも用意できるなら最初から作れよな。
「お粗末さまです」
ウィルが執事のように皿を片付けるがその表情は薄っすらと楽しそうだ。
意外と料理が好きなのか、美味しそうに食べるエラが好きなのか……たぶん両方っぽい。
さらに驚いたのは料理の腕前だ。
おそらく素材はシェリーたちが買っているのとそんなに変わらないはずだが味は全てワンランク上だった。
ウィルは下ごしらえや調理の仕方、あとは隠し味などで差が付くと言うが何をしているのか全く知らない。
こいつの前世はプロの料理人だったんじゃないかと思うほどだ。
「ディーきょうはどうするの?」
「んー、そうだなぁ……」
また新しい依頼をウォーカーギルドに見に行こうかと思っていた頃だった。
言い掛けてると、トントン、と新しい扉からノックの音がする。
「おっす、旦那」
「あれ? コリンスじゃないか。そういやそろそろいつもの日か?」
ドアを開けるとそこにいたのは短髪で横を刈り上げている少々背が低めの10代後半の少年だった。
彼の名前は『コリンス』。
鍛冶屋で働いていて、まだ見習いの頃から数年は付き合いがある。
実は鍛冶屋というのはただ型通りに打つだけでは一人前と言えない。
その剣の使い勝手などを参考にしてノウハウとして蓄積していく必要があるのだが、見習いの作った完成度の怪しい剣を振って怪我をしては堪らないので使用者が少ない。
そこで基本的に金欠だった俺が、当時試供品を誰かに試してもらいたがってたコリンスに未完成だけど無料でもらえると聞いて手を挙げたのだ。
それから定期的に新作をもらったり、俺が自分で研ぐだけじゃ厳しい剣のメンテナンスなどもしてもらっている。
もちろん今持っている剣もコリンスが作ったものだ。
「あぁ、まぁそれもあるんだけど。ちょっと相談があってな。あ、あとこいつ俺の弟の『トッド』」
「トッドです。宜しくお願いします!」
コリンスは言いにくそうに頬を掻いてから後ろに控えている彼を小さくしたような少年を紹介した。
トッドはたどたどしくもペコリとお辞儀をする。
まだ10歳ぐらいだろうか。それにしてはなかなか礼儀正しい。
「へぇ、弟がいるっていうのは聞いてたけどしっかりしてるじゃないか」
「いやまだまだだよ。ただこいつも俺と同じように鍛冶師になりたいっていうからさ、最近は一緒に行動させてるんだ」
コリンスは3人兄弟の真ん中だった。
だった、というのは一番上の兄がウォーカーで依頼中に亡くなったからだ。
コリンスもウォーカーになるには十分なほどの魔力を持っていてそれまではウォーカーになるつもりらしかったが兄の死をキッカケに鍛冶師へと道を変更した。
『そりゃ俺がさ、強いウォーカーになったら兄貴のような死ななくても良かったやつを助けられるかもしれない。でもそんなの一握りだろ? だったら俺は強い武器を作って、守られる人たちだけじゃなくウォーカーも含めてもっと大勢のやつらを魔獣から助けたい』
鍛冶師になった経緯を聞いた時にコリンスはそんなことを話してくれた。
ちなみにクランさんやシェリーのような薬師のように鍛冶師にも魔力を使う過程がある。
鉄ぐらいなら経験さえあれば誰でも扱えるが魔力のこもったミスリルなどを加工するには必須なのだ。
ただし魔力が多いやつはたいていウォーカーになりがちで、そうしたクラフト系にはウォーカーになりきれなかった人や全く魔力が無い人が多く、魔力が一定以上必要となる工程を出来る人はあまりいない。
そういう意味でウォーカーになれた素質があるコリンはかなり期待されていた。
「そうか。じゃあこっちも紹介するよ。エラとウィルだ。少し前から同居している」
「エラだよ!」
「……ウィルだ」
俺も後ろにいた二人をコリンスに紹介する。
エラはいつも通り元気な挨拶、そしてウィルいつも通り不愛想。
トッド君と見た目の年齢は近いのにウィル君はそろそろ愛想というものを覚えて欲しいなぁ。
「おう、知ってるよ。宜しくな」
コリンスも持ち前の切符の良い返事で返す。
しかし今気になることを言ったな。
「知ってる? 誰かに聞いたのか?」
「いや、旦那知らないのか? けっこう噂になってるぜ。||《・》魔無し|《《・》ブロンズ》がプラチナを倒したって」
「え、そうなの?」
「そうだよ。まぁ中には信じないやつとか、人質を取って卑怯な手を使ったとか懐疑的なやつもいるけどな」
「人質取ってきたの向こうだっつーの!! 悪意のある曲げられ方だなぁ」
「やっぱり旦那がプラチナに勝ったのって本当なんだ……」
コリンスは俺の返答にやや虚空を見ながらぶつぶつと独り言を呟き始める。
あの時はかなり焦ってたし嫌な事件でもあるから事実と違うことを言われると腹が立つなぁ。
それにしても意外……でもないか。
もし俺が外野の立場ならそれがどれだけ奇跡に近いことかは分かる。
それこそトッド君が大人3人に勝つようなものだし、しばらくその話題は絶えないだろう。
そういやアルフレッドさんの依頼を受けに行った時も色々見られてはいたよなぁ。
「それで相談って言ったけど今日は何の用なんだ?」
「まぁ今の話にもちょっと関係があるんだけど――旦那、俺を弟子にしてくれ!!」
いきなりコリンスが玄関で土下座をした。
「ちょ、ちょっと待ってくれコリンス。急に何をやってるんだ!?」
具体的に何も語られずこんなことをされたら戸惑ってしまう。
コリンスはさっぱりとしたやつだが直情傾向なところがあってたまに一足飛びに話が進んでしまうところがある。
「そ、そうだよ。兄ちゃん。急に何やってんだよ!?」
「馬鹿野郎! お前はそこで黙って見とけ!」
後ろにいるトッド君もこのことを聞かされていなかったらしく慌ててコリンスの腕を持って立たせようとすると力で振り払われた。
「待て待て、説明を! まずは説明を求める! じゃないといきなり弟子にしてくれって言われても分からないぞ。ウォーカーになりたいってわけじゃないんだよな?」
「う……そうだよな。ごめん旦那。気持ちが先走りしてた。実は今ミスリルの加工に挑戦させてもらってるんだ」
「へぇ、すごいじゃないか!」
卸しではなくミスリルの加工をする職人を抱えていれば鍛冶屋も武器屋も拍が付く。
だけどぶっちゃけミスリルは鉄に比べ素材の金額も加工難易度が高い。しかも扱える職人があまりいないから教える人もほとんどいない。
だから練習用に素材を用意してもらってるというのは期待されている証拠ということだ。
「でもなかなか成功しなくてさ。たぶん魔力が少し足りてないからだと思うんだけど。でさ、魔力が無かったはずの旦那がプラチナを倒したって聞いて何か魔力を劇的に上げる方法を編み出したんじゃないかって思ったんだ」
「そういうことか」
「頼むよ旦那。一生のお願いだ! 俺に魔力を上げる方法を教えてくれ!」
コリンスは真摯に訴えてきた。
確かに何も事情が知らない側から見たら俺が何か編み出したとかそういうふうに思うのもあり得る。
全くの赤の他人ならまだしも、俺も知り合いならちょっと方法を聞いてみようぐらいはなりそうだ。
コリンスには世話になってるし教えられるものなら教えてあげたい。
ただ重大な問題がある。
「俺のはちょっと特殊なんだよなぁ」
自前じゃなくエラから供給されていて全く参考にならないし、それを語るわけにもいかない。
大体、俺だって今まで散々試したよ。それで0が1になることはなかった。
困ったな、断り方が難しいぞ。
「秘密にするのは分かる! だけどそこをなんとか! 報酬も出来る限りのは用意してきたんだ!」
コリンスは懐から金貨袋を取り出し今度は手の平を合せて懇願してきた。
袋の中にどれほど入っているかは定かじゃないが、おそらく数十枚以上はあるだろう。
本気というのは伝わってきた。
魔力の上げ方というのはけっこう人によってバラバラらしい。
毎日瞑想するだとか空っぽになるのを繰り返すだとか、胡散臭いのだと魔獣の肉を食うとか瀕死になって回復するなんていう話もある。
そして同じのばかりをやっていても効果が無かったりと結局あまり解明されていない。
さらに言うなら後天的に0から1になった例はほぼ無い。
ほぼというのは噂話程度ならあるがそれが本当か嘘なのか分からないまゆつばものだからだ。
「いやそういうことじゃなくて――」
「いいじゃないか。教えてやろう」
「は?」
どうやって断ろうかとしゃべりながら考えていたところに、後ろから声が掛かる。
意外にもそれはウィルだった。
こいつが他人に親切にしようとするのは珍しい。
「お前がが? 確か旦那と一緒に住んでるやつだよな?」
コリンスは胡散臭そうに見やる。
ウィルの見た目はただの10歳程度の少年だ。
彼からすれば弟とほぼ同じ年齢で疑うのは無理もない。
というか俺もこいつの今の言葉を疑っている。
「まぁな。ちなみにこいつに魔力の使い方を教えたのは僕だ。つまり、こいつの師匠が僕となる」
「マ、マジか!? そりゃすげぇ!」
コリンスがこっちに真偽を窺うために目を合わせてくる。
間違っては無いので頷くと、コリンスのテンションが上がって立ち上がりウィルは自慢げにどやっていく。
まぁ確かに俺よりは知識があるかもしれない。
しかし本当に魔力を伸ばせるんだろうか?
「ただしミスリルで作った剣をよこせ。それが報酬だ」
「え? いやそれは……さすがに親方たちがミスリルの金を出してくれてんのに……」
「ここで頷かないとそもそも作ることも出来ないぞ?」
「う……そりゃそうだが……だからって俺の一存じゃ……」
「別に売り物をよこせと言っているんじゃない。どうせ試し打ちはするんだろう? その中で実用に耐えうるものを一本選ぶだけだ」
「それなら……なんとかなるか……? わ、分かった。それでいいなら」
「ふん。交渉成立だ」
こいつ悪魔か。
相手の弱みに付け込むのが上手過ぎだぞ。
にしてもいきなり剣が欲しいだなんてどういう風の吹き回しだろう?
「ま、まさか俺のために?」
考えられるとしたらそれぐらいだ。
下宿させてもらっているお礼に新品の武器をプレゼントなんて意外と殊勝なところあるじゃないか。
ちょっと感動しちまったぜ!
「はぁ? 何を言ってるんだ。売って金にするに決まってるだろう。お嬢様のために使うお嬢様貯金にするんだ。誰がお前になぞやるか」
しかし俺の気も知らずウィルは平常運転だった。
「知ってたよお前がそういうやつだってことはな!」
うぜぇ! つーかお嬢様貯金ってなんだよ。生活費払ってるのは俺なんだから俺によこすのが筋だろ。
「じゃあさっそく頼むぜ! どっか移動した方がいいか?」
「いや別にここの庭でも出来る。ただ少し時間は掛かるがな」
俺もこれまで魔力無しで苦労したから気になるな。
しかもこんな家の軒先にある庭程度のスペースでやれるなんて。
「分かった。だったらそうだな、トッド、俺が訓練している間、この子の面倒を見てやってくれ」
「えー! 俺も修行してるところ見てぇよ」
「馬鹿野郎、お前を連れてきたのは雑用とかのためだ。先輩から言われたことは素直に従え!」
「わ、分かったよ。エラちゃんだっけ? 邪魔にならないようちょっとそこら辺で遊んでようか」
コリンスにお叱られつつも頼みを受けてトッドがエラに話し掛ける。
コリンスは職人気質がもう身に付き始めてるから上下関係には厳しいところがあった。
ただ言葉足らずなところもあるがちゃんと考えもあって理不尽なことは言わない。
「むー、エラここにいたい」
「そう言わずにさ」
二つ返事するかと思ったエラだが渋面を作って俯くのでそんな彼女の頭を撫でてあげる。
「ちょっと時間掛かりそうだから遊んでな。きっと楽しいよ」
「そおー?」
「あぁ、トッド君に街の遊びを教えてもらいな」
「んー、わかった。がんばってね!」
ちゃんと説明するとエラはぴょんぴょんと跳ねて肯定してくれた。
「もちろんですお嬢様。お嬢様のために頑張ります! 剣一本で成り上がってやりましょう!」
ウィルが拳を握り締めて気合を入れる。
いやそれ意味違うだろ。
普通は剣を振って地位向上させる意味合いだが、こいつのは売って稼ぐだけじゃないか。
しかしそんな細かいことは意に返さずエラも遊んでもらえると分かると素直に喜びながらトッドに付いて行く。
目を離すのは心配なところもあるけど、ここら辺は馬車とかも通らないしまぁ大丈夫だろう。
それよりかは似たような年頃の子供が周りにいないから良い機会かもしれない。
まぁ4歳と10歳ってけっこう離れてるけども。
とりあえずエラとトッド君が近くで遊んでいる間に魔力アップ訓練をすることになった。
時刻は朝、シェリーからもらった椅子に座りウィルが作った朝ごはんをエラが平らげる。
素材はこの間とは違って普通の家庭の一般的なものだった。
パンに卵にソーセージ、あと果物一つだ。
こんなのも用意できるなら最初から作れよな。
「お粗末さまです」
ウィルが執事のように皿を片付けるがその表情は薄っすらと楽しそうだ。
意外と料理が好きなのか、美味しそうに食べるエラが好きなのか……たぶん両方っぽい。
さらに驚いたのは料理の腕前だ。
おそらく素材はシェリーたちが買っているのとそんなに変わらないはずだが味は全てワンランク上だった。
ウィルは下ごしらえや調理の仕方、あとは隠し味などで差が付くと言うが何をしているのか全く知らない。
こいつの前世はプロの料理人だったんじゃないかと思うほどだ。
「ディーきょうはどうするの?」
「んー、そうだなぁ……」
また新しい依頼をウォーカーギルドに見に行こうかと思っていた頃だった。
言い掛けてると、トントン、と新しい扉からノックの音がする。
「おっす、旦那」
「あれ? コリンスじゃないか。そういやそろそろいつもの日か?」
ドアを開けるとそこにいたのは短髪で横を刈り上げている少々背が低めの10代後半の少年だった。
彼の名前は『コリンス』。
鍛冶屋で働いていて、まだ見習いの頃から数年は付き合いがある。
実は鍛冶屋というのはただ型通りに打つだけでは一人前と言えない。
その剣の使い勝手などを参考にしてノウハウとして蓄積していく必要があるのだが、見習いの作った完成度の怪しい剣を振って怪我をしては堪らないので使用者が少ない。
そこで基本的に金欠だった俺が、当時試供品を誰かに試してもらいたがってたコリンスに未完成だけど無料でもらえると聞いて手を挙げたのだ。
それから定期的に新作をもらったり、俺が自分で研ぐだけじゃ厳しい剣のメンテナンスなどもしてもらっている。
もちろん今持っている剣もコリンスが作ったものだ。
「あぁ、まぁそれもあるんだけど。ちょっと相談があってな。あ、あとこいつ俺の弟の『トッド』」
「トッドです。宜しくお願いします!」
コリンスは言いにくそうに頬を掻いてから後ろに控えている彼を小さくしたような少年を紹介した。
トッドはたどたどしくもペコリとお辞儀をする。
まだ10歳ぐらいだろうか。それにしてはなかなか礼儀正しい。
「へぇ、弟がいるっていうのは聞いてたけどしっかりしてるじゃないか」
「いやまだまだだよ。ただこいつも俺と同じように鍛冶師になりたいっていうからさ、最近は一緒に行動させてるんだ」
コリンスは3人兄弟の真ん中だった。
だった、というのは一番上の兄がウォーカーで依頼中に亡くなったからだ。
コリンスもウォーカーになるには十分なほどの魔力を持っていてそれまではウォーカーになるつもりらしかったが兄の死をキッカケに鍛冶師へと道を変更した。
『そりゃ俺がさ、強いウォーカーになったら兄貴のような死ななくても良かったやつを助けられるかもしれない。でもそんなの一握りだろ? だったら俺は強い武器を作って、守られる人たちだけじゃなくウォーカーも含めてもっと大勢のやつらを魔獣から助けたい』
鍛冶師になった経緯を聞いた時にコリンスはそんなことを話してくれた。
ちなみにクランさんやシェリーのような薬師のように鍛冶師にも魔力を使う過程がある。
鉄ぐらいなら経験さえあれば誰でも扱えるが魔力のこもったミスリルなどを加工するには必須なのだ。
ただし魔力が多いやつはたいていウォーカーになりがちで、そうしたクラフト系にはウォーカーになりきれなかった人や全く魔力が無い人が多く、魔力が一定以上必要となる工程を出来る人はあまりいない。
そういう意味でウォーカーになれた素質があるコリンはかなり期待されていた。
「そうか。じゃあこっちも紹介するよ。エラとウィルだ。少し前から同居している」
「エラだよ!」
「……ウィルだ」
俺も後ろにいた二人をコリンスに紹介する。
エラはいつも通り元気な挨拶、そしてウィルいつも通り不愛想。
トッド君と見た目の年齢は近いのにウィル君はそろそろ愛想というものを覚えて欲しいなぁ。
「おう、知ってるよ。宜しくな」
コリンスも持ち前の切符の良い返事で返す。
しかし今気になることを言ったな。
「知ってる? 誰かに聞いたのか?」
「いや、旦那知らないのか? けっこう噂になってるぜ。||《・》魔無し|《《・》ブロンズ》がプラチナを倒したって」
「え、そうなの?」
「そうだよ。まぁ中には信じないやつとか、人質を取って卑怯な手を使ったとか懐疑的なやつもいるけどな」
「人質取ってきたの向こうだっつーの!! 悪意のある曲げられ方だなぁ」
「やっぱり旦那がプラチナに勝ったのって本当なんだ……」
コリンスは俺の返答にやや虚空を見ながらぶつぶつと独り言を呟き始める。
あの時はかなり焦ってたし嫌な事件でもあるから事実と違うことを言われると腹が立つなぁ。
それにしても意外……でもないか。
もし俺が外野の立場ならそれがどれだけ奇跡に近いことかは分かる。
それこそトッド君が大人3人に勝つようなものだし、しばらくその話題は絶えないだろう。
そういやアルフレッドさんの依頼を受けに行った時も色々見られてはいたよなぁ。
「それで相談って言ったけど今日は何の用なんだ?」
「まぁ今の話にもちょっと関係があるんだけど――旦那、俺を弟子にしてくれ!!」
いきなりコリンスが玄関で土下座をした。
「ちょ、ちょっと待ってくれコリンス。急に何をやってるんだ!?」
具体的に何も語られずこんなことをされたら戸惑ってしまう。
コリンスはさっぱりとしたやつだが直情傾向なところがあってたまに一足飛びに話が進んでしまうところがある。
「そ、そうだよ。兄ちゃん。急に何やってんだよ!?」
「馬鹿野郎! お前はそこで黙って見とけ!」
後ろにいるトッド君もこのことを聞かされていなかったらしく慌ててコリンスの腕を持って立たせようとすると力で振り払われた。
「待て待て、説明を! まずは説明を求める! じゃないといきなり弟子にしてくれって言われても分からないぞ。ウォーカーになりたいってわけじゃないんだよな?」
「う……そうだよな。ごめん旦那。気持ちが先走りしてた。実は今ミスリルの加工に挑戦させてもらってるんだ」
「へぇ、すごいじゃないか!」
卸しではなくミスリルの加工をする職人を抱えていれば鍛冶屋も武器屋も拍が付く。
だけどぶっちゃけミスリルは鉄に比べ素材の金額も加工難易度が高い。しかも扱える職人があまりいないから教える人もほとんどいない。
だから練習用に素材を用意してもらってるというのは期待されている証拠ということだ。
「でもなかなか成功しなくてさ。たぶん魔力が少し足りてないからだと思うんだけど。でさ、魔力が無かったはずの旦那がプラチナを倒したって聞いて何か魔力を劇的に上げる方法を編み出したんじゃないかって思ったんだ」
「そういうことか」
「頼むよ旦那。一生のお願いだ! 俺に魔力を上げる方法を教えてくれ!」
コリンスは真摯に訴えてきた。
確かに何も事情が知らない側から見たら俺が何か編み出したとかそういうふうに思うのもあり得る。
全くの赤の他人ならまだしも、俺も知り合いならちょっと方法を聞いてみようぐらいはなりそうだ。
コリンスには世話になってるし教えられるものなら教えてあげたい。
ただ重大な問題がある。
「俺のはちょっと特殊なんだよなぁ」
自前じゃなくエラから供給されていて全く参考にならないし、それを語るわけにもいかない。
大体、俺だって今まで散々試したよ。それで0が1になることはなかった。
困ったな、断り方が難しいぞ。
「秘密にするのは分かる! だけどそこをなんとか! 報酬も出来る限りのは用意してきたんだ!」
コリンスは懐から金貨袋を取り出し今度は手の平を合せて懇願してきた。
袋の中にどれほど入っているかは定かじゃないが、おそらく数十枚以上はあるだろう。
本気というのは伝わってきた。
魔力の上げ方というのはけっこう人によってバラバラらしい。
毎日瞑想するだとか空っぽになるのを繰り返すだとか、胡散臭いのだと魔獣の肉を食うとか瀕死になって回復するなんていう話もある。
そして同じのばかりをやっていても効果が無かったりと結局あまり解明されていない。
さらに言うなら後天的に0から1になった例はほぼ無い。
ほぼというのは噂話程度ならあるがそれが本当か嘘なのか分からないまゆつばものだからだ。
「いやそういうことじゃなくて――」
「いいじゃないか。教えてやろう」
「は?」
どうやって断ろうかとしゃべりながら考えていたところに、後ろから声が掛かる。
意外にもそれはウィルだった。
こいつが他人に親切にしようとするのは珍しい。
「お前がが? 確か旦那と一緒に住んでるやつだよな?」
コリンスは胡散臭そうに見やる。
ウィルの見た目はただの10歳程度の少年だ。
彼からすれば弟とほぼ同じ年齢で疑うのは無理もない。
というか俺もこいつの今の言葉を疑っている。
「まぁな。ちなみにこいつに魔力の使い方を教えたのは僕だ。つまり、こいつの師匠が僕となる」
「マ、マジか!? そりゃすげぇ!」
コリンスがこっちに真偽を窺うために目を合わせてくる。
間違っては無いので頷くと、コリンスのテンションが上がって立ち上がりウィルは自慢げにどやっていく。
まぁ確かに俺よりは知識があるかもしれない。
しかし本当に魔力を伸ばせるんだろうか?
「ただしミスリルで作った剣をよこせ。それが報酬だ」
「え? いやそれは……さすがに親方たちがミスリルの金を出してくれてんのに……」
「ここで頷かないとそもそも作ることも出来ないぞ?」
「う……そりゃそうだが……だからって俺の一存じゃ……」
「別に売り物をよこせと言っているんじゃない。どうせ試し打ちはするんだろう? その中で実用に耐えうるものを一本選ぶだけだ」
「それなら……なんとかなるか……? わ、分かった。それでいいなら」
「ふん。交渉成立だ」
こいつ悪魔か。
相手の弱みに付け込むのが上手過ぎだぞ。
にしてもいきなり剣が欲しいだなんてどういう風の吹き回しだろう?
「ま、まさか俺のために?」
考えられるとしたらそれぐらいだ。
下宿させてもらっているお礼に新品の武器をプレゼントなんて意外と殊勝なところあるじゃないか。
ちょっと感動しちまったぜ!
「はぁ? 何を言ってるんだ。売って金にするに決まってるだろう。お嬢様のために使うお嬢様貯金にするんだ。誰がお前になぞやるか」
しかし俺の気も知らずウィルは平常運転だった。
「知ってたよお前がそういうやつだってことはな!」
うぜぇ! つーかお嬢様貯金ってなんだよ。生活費払ってるのは俺なんだから俺によこすのが筋だろ。
「じゃあさっそく頼むぜ! どっか移動した方がいいか?」
「いや別にここの庭でも出来る。ただ少し時間は掛かるがな」
俺もこれまで魔力無しで苦労したから気になるな。
しかもこんな家の軒先にある庭程度のスペースでやれるなんて。
「分かった。だったらそうだな、トッド、俺が訓練している間、この子の面倒を見てやってくれ」
「えー! 俺も修行してるところ見てぇよ」
「馬鹿野郎、お前を連れてきたのは雑用とかのためだ。先輩から言われたことは素直に従え!」
「わ、分かったよ。エラちゃんだっけ? 邪魔にならないようちょっとそこら辺で遊んでようか」
コリンスにお叱られつつも頼みを受けてトッドがエラに話し掛ける。
コリンスは職人気質がもう身に付き始めてるから上下関係には厳しいところがあった。
ただ言葉足らずなところもあるがちゃんと考えもあって理不尽なことは言わない。
「むー、エラここにいたい」
「そう言わずにさ」
二つ返事するかと思ったエラだが渋面を作って俯くのでそんな彼女の頭を撫でてあげる。
「ちょっと時間掛かりそうだから遊んでな。きっと楽しいよ」
「そおー?」
「あぁ、トッド君に街の遊びを教えてもらいな」
「んー、わかった。がんばってね!」
ちゃんと説明するとエラはぴょんぴょんと跳ねて肯定してくれた。
「もちろんですお嬢様。お嬢様のために頑張ります! 剣一本で成り上がってやりましょう!」
ウィルが拳を握り締めて気合を入れる。
いやそれ意味違うだろ。
普通は剣を振って地位向上させる意味合いだが、こいつのは売って稼ぐだけじゃないか。
しかしそんな細かいことは意に返さずエラも遊んでもらえると分かると素直に喜びながらトッドに付いて行く。
目を離すのは心配なところもあるけど、ここら辺は馬車とかも通らないしまぁ大丈夫だろう。
それよりかは似たような年頃の子供が周りにいないから良い機会かもしれない。
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ガルフ・ライクドは領主である父親の死後、領地を受け継ぐ事になった。
だがそこには問題があり。
まず、食料が枯渇した事、武具がない事、国に税金を納めていない事。冒険者ギルドの怠慢等。建物の老朽化問題。
ガルフは何も知識がない状態で、無能領主として問題を解決しなくてはいけなかった。
この世界の住民は1人につき1つのスキルが与えられる。
ガルフのスキルはリサイクルガチャという意味不明の物で使用方法が分からなかった。
領地が自分の物になった事で、いらないものをどう処理しようかと考えた時、リサイクルガチャが発動する。
それは、物をリサイクルしてガチャ券を得るという物だ。
ガチャからはS・A・B・C・Dランクの種類が。
武器、道具、アイテム、食料、人間、モンスター等々が出現していき。それ等を利用して、領地の再開拓を始めるのだが。
隣の領地の侵略、魔王軍の活性化等、問題が発生し。
ガルフの苦難は続いていき。
武器を握ると性格に問題が発生するガルフ。
馬鹿にされて育った領主の息子の復讐劇が開幕する。
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