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12 レオン・ルミナス

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 レオン・ルミナスはそれこそ旬のハリウッド俳優と会うよりも難しいとされている億万長者だ。
 若くしてすでに幾つもの地域を率いて順調に業績を伸ばしていると以前テレビでやっていた。
 そう会社ではなく、地域だ。確かルミナスが興ったとされるイギリスがあるヨーロッパ地域、そしてアフリカ大陸を彼が一気に引き受けているとかなんとか。
 
 レオンがオーナーということは咲さんたち職員を雇っているのは彼で、ダンジョン探索を主導しているのも彼ということになる。
 そんな人物がいくらルミナスグループが支援している町でもこんなところにいるのは、おそらくはダンジョンが彼の肝入りの事業ということなんだろう。
 まぁ魔法に新素材、モンスターなどなどそりゃ世界がひっくり返る要素があり過ぎるんだから当たり前か。
 
 他を見ると雨宮さんと熊井君は大口を開けて石像のようにストップ中。
 この二人は俺と一緒で庶民だからなぁ。
 白藤先輩ですら目が泳いでいた。


「確か四人兄妹でしたよね?」

「ええそうです。こちらにはご兄妹全員が詰めておられまして、探索者様たちからはトランプのカードになぞらえてレオン様は『キング』という愛称を頂いております」


 さっきのおっさんがキングと言っていたのはそのあだ名か。


「ま、まぁともかくお話しましょうか」


 蹴られて転がされたテーブルを直し、昨日と同じように席に着く。
 色々あって動揺が抜けきれておらず、心の整理が追いついていないがこれで続きができる。

 周りの傍観者たちもさっと事を納めてくれたレオンのおかげで各々自分たちのやるべきことへと戻っていった。


「ええと、昨日は確か誓約書を書いてもらったところまででしたね。あ、ちなみに外でここのことを吹聴したりスキルや装備を使ったりするとさっきのお姉さんやそれに近い人が飛んで来るのでやめた方が賢明です」


 あのメイドがやってくる。
 想像するだけで心臓に悪い。もしあのままレオンが止めなければあれは本当に首を切ってた。あれはそういうタイプの人間だ。
 短い時間ながらも彼女はそんな恐怖を植え付けていった。ある意味では狂っていると言える。あんな人間がメイド服を着ている時点でお笑いでもあるが。


「あれってどういう立場の人なんですか?」

「あまり詳しいことは存じませんがレオン様の護衛兼ここの荒事専門スタッフでもあります。あぁいう方がまだ何人もいて警備員のようなものだとお考え下さい」

 
 あんなのがまだ他にもいるというのが驚きだ。
 ただ剣と魔法を使える探索者たちが図に乗らず大人しくしているのはきっとあれのおかげでもあると思う。
 そうでなければ馬鹿なことをする人が出てきてもおかしくはないだろうし。

 ちらりと見ると雨宮さんが顔面蒼白だった。


「雨宮さんどうしたの? 具合悪い?」

「い、いえ。どうぞ続けて下さい……」


 絞り出すような声音だった。
 まぁ彼女としてもおっさんたちに肩を触られてあの展開で気が気ではないか。


「そう? きつそうならちゃんと言ってね?」

「は、はい。分かりました……」


 体が苦しそうというよりは精神的な不調っぽい。
 時間が解決してくれるかもしれないのでとりあえず話を続けさせてもらおうかな。


「まずはここで探索するにあたって重要なアプリをインストールして頂きます」

「アプリ?」

「ええ、素材を売買して頂くにあたってネット専用の通貨でやり取りして頂きます。それの管理や探索者様同士の素材依頼のページや武具交換などのオークションや掲示板機能も付いているものです」

「普通に銀行振込とかではないってことですか?」

「そうしないと例えば個人間で装備の売買のやり取りがあった際に数十万円や数百万円単位のお金を口座に振り込むなど手間が掛かるという要望がありまして作らせて頂きました。もちろんその通貨を現金にすることは可能です」


 言って小型の機械を出される。
 読み込み部分があってそこにスマホを近付けたらインターネットを通さなくてもインストールされるものだ。
 これを断る人はいないようで、全員がスマホに入れていき、さっそく起動しどんなものかと眺めてみる。


「あぁ確かに、オークション機能とかあるんですね。このDPってのが通貨ですか?」

「はい名前はそのままDPダンジョンポイントと付けさせて頂いております。一ポイントが百円です。素材を売られたときには個人ではなくパーティー分として一度プールしておいて、そこから各々のアカウントに自動引き落としすることも可能です」


 大体は山分けのパーティーが多いだろうけど、例えばリーダーだけが取り分を多くしたりすることもできるってことかな。
 

「次にパーティーメンバーの人数枠についてのご説明です。人数の上限はありませんがおおよそ五人までを推奨しております。これには理由がありまして探索者様が多くなればなるほどなぜかモンスターが集まってきやすい傾向にあるからです。適正レベル以下の階層で徒党を組んで荒稼ぎするという手もなくはないのですが、一度それでモンスター・パニック大氾濫が引き起こされたことがありまして現在ではよっぽどの事情が無い限りはご遠慮して頂いております。また確認されている複数人に掛かる回復魔法やバフなどの上限が五人までであることとも関係しております」

「ちなみに一人ソロのやつはいるのか?」


 この質問は白藤先輩だ。
 この人ならやりかねない。


「おられますが、格下のじゅうぶんな安全マージンを取られた階層での話です。先に進むには一人では不可能とお考え下さい。三人から五人までのパーティーが主流で、最前線はいずれも五人パーティーとなっております」


 俺たちは四人。後衛からの援護、いわゆる魔法使いやハンターの弓みたいな遠距離攻撃に乏しいところはあるが、バランスとしても悪くないと思う。
 

「ちなみにゴブリンの歯みたいなのを拾ったんですがあれっていくらになるんですか?」

「相場は変動しますし、こちらでの買い取り価格と個人間での取引ではまた値段は変わってきますが、大体一つ千円とお考え下さい。さすがに半年も経ったので浅層での素材はかなり安くなっています」


 ということは四人で割ると一人二百五十円か。
 安っすいなぁ。めちゃくちゃ危険なアルバイトと考えたらこの低賃金な時給はブラックを通り越して漆黒だぞ。


「や、安いですね」


 あからさまに熊井君が残念そうな顔になった。
 

「最初はどうしてもそうなりますね。複数人のパーティーで儲けようと考えるなら少なくても十層以上はいかないといけないと思います。ただ十層未満は他のパーティーとなぜか会わない仕様になっていて、それを好んで潜る方もおられるのはおられます」


 裏を返せば十層以上は他のパーティーとも遭遇するってことか。
 なんかややこしそうだけど、とりあえずはまずはそこが目標か。
 

「あとこれも重要なんですが、ダンジョンのモンスターは外から持ち込んだ武器では傷を与えられません」

「え?」

「素手か、中で取れた武器を使う、もしくは魔法などでしかダメージを与えられない仕組みになっています。これは探索者様とは性質の異なるHPがモンスターにも存在するのではないかと言われています。実際に実験をしたのですが、携帯して頂いた銃弾や剣などがゴブリンにすらほとんど効いていなかったということです」

「ほとんどってことは多少は効いているってことですか?」

「そのようです。聞いた話によるとマシンガンの弾倉を空にしてようやくゴブリン一匹が倒せたという報告が上がっています。ハッキリ言ってコスト計算が合いません」


 そりゃそうだろう。何十発か何百発か知らないが、さすがに千円より安いってことはないはずだ。
 しかしとなると困ったな。宝箱で出るまで粘るかお金を出して買わないといけないのか。
 貯金を下ろすのは避けたいんだが。


「ちなみに初期装備っておいくらぐらいですか?」

「ヴァルハラには二階に武器屋などを設けておりますが、そこででしたら一律DP百ポイントです。つまり一万円からとなっております」

「うげ、けっこうするなぁ」

 
 高いのか安いのか判断が難しい。
 まぁでも俺たちでも手が届くラインというのは相場的に下がってきているということなのかな。
 熊井君と雨宮さんは宝箱からすでに出てるから買わなくてもいいだろうけど。ちょっと羨ましい。


「なんかごめん」


 それを察してか気まずそうに熊井君が肩を丸めしょんぼりとして謝ってくるけど、そんな気にすることじゃない。
 

「謝ることはないよ。あそこで熊井君が武器を持ってなかったら俺たちは無傷で乗り越えられることはできなかったはずだしね」

「皆様には先程オーナーのレオンから支援して欲しいと頼まれておりますので、一人一つまでで百ポイントの装備と交換させて頂きますのでご安心下さい」


 この中で一万円でびびってないのは家がお金持ちの白藤先輩ぐらいで、俺や熊井君、それに雨宮さんはほっと胸を撫で下ろした。

 って、そう言えばそうだったな。さっきレオンが迷惑のお詫びにってくれる約束をしてくれていたんだった。
 彼への好感度がぐーんと上がった瞬間だ。
 

「とりあえず重要事項は優先的にお話し致しました。分からないことがあればアプリの中にFAQもありますし、私共にお聞きして頂ければ答えられる範囲内であればお答えさせて頂きます」

「範囲内ってどういうことですか?」

「施設の案内などはもちろん無料ですがその他のダンジョン内の情報に関しては有料となっております。例えば地図やモンスター構成、弱点、スキルに関してなどなど。弊社は物以外にも情報も商品として取り扱っております。ご了承下さい」

「世知辛いですね」


 スキル関係は聞きたかったのだが、有料となると学生としては二の足を踏んでしまう。 


「褒め言葉として受け取らせて頂きます」


 ニコリと咲さんのいつもの極上の営業スマイルだ。
 それから彼女は立ち上がり二階へと手の平を向けた。 


「ではまずは装備を整えるために二階もご案内致しますね」
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