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5章 くノ一異世界を股にかける!
13 冒険者と不良執事
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「おらぁ!」
「軽いねぇ! おじさんガッカリだよ!」
「ツォン、一人で突っ込むな! タイミングを合わせろ!」
「うっせぇ、指図すんじゃねぇ!」
葵や美歌が戦いを始めたのと同じ頃、同船の『農場エリア』でもすでに交戦が開始されていた。
アレンとツォン、それにガルトだ。
彼らはすでに種が植えられず収穫されなくなって久しい広大な畑の上で一進一退の攻防を繰り広げていた。
と言っても常に優勢なのはガルトの方である。基本的な身体能力も上、戦闘経験も豊富、さらに彼の【引斥力】 という天恵は地味に厄介な代物でそれらをアレンたちは何も突破できないでいた。
それを打破しようと唾を飛ばしツォンを諫めようとするアレン。
出会った瞬間にツォンが歯を剥いてガルトに斬り掛かったのでなし崩しに戦闘が発生してしまった。
あまりにも自分勝手なアレンからするとツォンは仲間というより敵ではないぐらいの認識だろうか。ここまで独りよがりなのはアレンの記憶にある冒険者の間でもなかなか珍しい。普通は協力し合わないと生死に関わるため、このような協調性のない馬鹿な真似はよっぽど実力があるかすぐに死ぬだけだったからだ。
「よいしょっと!」
「ぐおっ!!」
ガルトの剛腕の振り抜きにより態勢が崩れたツォンの腹を彼は思いっきり蹴った。
ただのキックでさえ骨が軋む音が聞こえてきそうな強烈な一撃だ。
喉が詰まり胃液が逆流してきそうな不快感を無理やり抑えツォンは一旦後ろに下がる。
「おい大丈夫か!」
「く、くそ……うるせぇよ……」
くの字に体を曲げて苦し紛れに駆け寄ってくるアレンに向かって憎まれ口を叩くツォン。
「何度も言ってんだろ! 勝手に一人で行くんじゃねぇよ! この間ので分かってるだろ!」
「うざってぇな! ビビってんなら尻尾巻いてあの女どもの尻でも追っ掛けてろよ!」
強敵を前にしてもどうしても二人の距離は縮まらない。
しかしそれでは勝てる見込みが万に一つもないことはアレンは理解していた。
だからこうして何度も協力しろと話し掛けているのにツォンは取り合わない。
「本当に君ら仲が悪いねぇ。見てるこっちの方がいたたまれなくなってくるよ」
「はんっ! 俺はお前みたいな余裕ぶってるおっさんも嫌いだが、こうして優等生気取ってるやつも大嫌いなんだよ!」
そこまで嫌われるようなことをした覚えがないアレンは困惑して何も言い返せないでいた。
そんな彼にガルトは話を振る。
「ふぅん。ところでそっちの君はこの間の件、考えてくれたかい?」
「この間?」
「そう、こっちに付かないかって話だよ。見返りは多いよ。簡単に強くなれて報酬も今の冒険者やってるよりはもらえるし、何より後ろ盾が教会だ。そして最終的には不穏な動きをしたらあの異世界人共を叩き出す。悪くない提案だと思うけど?」
「……」
アレンは黙ってそれを聞き入る。
「なに黙ってんだよお前。言い返してやれよ。クソ余計なお世話ですってな!」
なぜかツォンの方が不快感を示し唾を飛ばした。
だがそれでもアレンは答えようとしない。
「異世界人たちを裏切ることに心が痛むかい? だったら問題ない。大義はこちらにある」
「大義?」
「そう。今はまだ詳しくは言えないけどね、この儀式の結果なんて実はおじさんたちにはどうでもいいことなんだよ」
「? どういうことだ? お前らはリグレット王子を勝たせるために参加したんじゃないのか?」
さすがに聞き捨てならない台詞だった。
大勢の人間と帝国という国の未来を決定づける儀式なのだ。まさかここまで戦力を集め大掛かりなことまでやっておいて今更どうでもいいなどというのは冗談では済まない。
アレンは大きく眉根を寄せる。
「それはまぁ二の次だね。そうなればいいかなぁぐらいさ。本命は別にある」
「それは?」
「もちろん教えないよ。だけど仲間になるっていうのならこの儀式が終わった後にでも教えてあげられる。どうだい?」
荒々しくアレン鼻から息を吐いた。
その内容にはとても興味があった。それに強くなれるというのも実に魅力的な話だ。彼は冒険者になると決めた少年の日からずっとたゆまぬ研鑽をして今の地位にいる。それがさらに力を付けられるというのであれば願ったり叶ったりでしかない。
しかし――
「お前らの仲間になることはできねぇよ」
アレンはきっぱりと断った。
「ふぅん、なぜだい? 悪いけどおじさんもそう何度も優しいままではいられない。今ここで断れば次はないよ。さらに言うなら君たちが二人掛かりでも勝つのは無理だ」
歴戦のガルトには彼我の実力差は正確に感じ取れている。多少のアクシンデントがあったところで勝ちは揺るがないものだという自負があった。それはもう油断とかではなく純善たる事実だ。
そして勧誘を二度断ったアレンたちをもう生かす理由もなくなる。ここまで目的があって手を抜いて接してきたがガルトという人物は人を殺すのを別に厭わないわけではない。むしろ他の女神の使徒の中でも殺害人数は群を抜いているほどだった。
「あいつらがそんなことしそうにないってのもあるし、自分のためにここまで見知ったやつらを裏切るのも嫌だ。それにそんなことしたらミーシャたちに顔向けできねぇ! 何より俺は冒険者なんだよ。受けた依頼は最後までやりきる! 当然だろ?」
「そんな理由で?」
ガルトは心底理解できないという呆れた目線を送る。
だがアレンは胸を張って剣を前に突き出した。
「あぁそんな理由さ! 俺は冒険者ランク4の【飛剣】のアレンなんだよ!! もしあいつらが悪さするなら俺がそれを止めてやる!! それにな、ずっと言いたかったことがあるんだよ」
「なんだい?」
「したり顔で話してくるお前がキモいんだよ!!!」
一瞬、時が止まったかのような静けさがそこに現れる。
ガルトは表情こそそんなに変わらないものの明らかに全身から不快感が滲み出ていた。
「くっくっく、あーーはっっはっはっは!! なんだ手前ぇ! 優等生面だけじゃなく本音もちゃんと言えんじゃねぇかよ!」
最も反応したのはどうしてかツォンだった。
腹を抱え先ほど受けたダメージなど忘れて愉快そうに自分のふとももを叩く。
「うっせぇな。だってよ、あんなでかい図体しといて変に低姿勢で気持ち悪いだろ。吐き気抑えんのも大変だったんだぜ?」
「ひーひっひっひ! 違いねぇ! そ、それは、あははははは、お、俺も、くくくく、思ってたんだ! あー腹痛ぇ! さっきのより効いたじゃねぇか、くっくっくっく!」
ツォンの嘲笑にも無視して目を閉じ俯いていたガルトがゆっくりと面を上げる。
それはどこか今までとは違う雰囲気だった。
「……交渉は終わりだガキ共、ここからは大人の流儀を教えてやる!」
殺気、とでもいうのだろうか。普通の生活をしていれば感じられない相手の殺意の意思。冗談ではなく本気で命を取ろうと決めた生き物の醸し出す鬼気迫るものをアレンたちは今ガルトから敏感に感じ取った。
明らかに今までとは違う。さっきまでのはむしろ手加減されていたのだと如実に理解できた。相対するだけで足が震え冷や汗が止まらない。
ツボに入って馬鹿笑いしていたツォンですら即座に真面目顔に変貌するほどだった。
「おいツォン、我がまま言ってる場合じゃなさそうだぞ」
「あぁ、これはうちの爺と同じかそれ以上のもんだ。ちっ、しゃーねぇ手を貸してやるから足引っ張んなよ!」
「そっちこそな!」
二人は三メートルほどの間隔を開け突撃する。
その距離がお互いに邪魔にならずアシストに入れる範囲だった。
「おらあああああああああ!!」
まずはツォンの先制。吠え声を上げての突貫。
しかしガルトは冷静に武器を真っすぐに振り下ろした。
ただしそれは明らかにタイミングが早い。ツォンが間合いに入る前に地面を叩き、そして衝突した足元が粉々に吹っ飛んだ。
「うおっ!?」
回避不能な風圧と土くれの破片がツォンを襲い足が止まる。
さらに破片が彼の頬を傷付け血が垂れた。
ガルトからすればただの牽制に過ぎない。けれどそれ以上の効果を生み出していた。
これがレベル上げをした人物の力。間違いなく人外の領域に足を踏み出していた。
「ガルトムント!」
その間隙の合間を突いてアレンが剣を飛ばす。
一直線にそれはガルトの胸へと向う……のだが、彼は無造作に剣を手で掴んで止めた。
「嘘だろ!?」
アレンの【飛剣】は土壁程度なら穴を空けるほどには威力があった。たとえフルプレートの騎士であろうとも止められない。
だというのにそれをただの素手で受け止めたのだ。
自分の自慢の技をいとも簡単に破られたアレンのショックは大きい。
「子供の遊びだな」
ガルトは横に剣を投げ捨て自分の大剣を構える。
すでにツォンがやって来ていたからだ。
がちぃん! と大剣同士の耳を塞ぎたくなるような金属音が奏でられる。
しかし早くもツォンが押し負けそうになった。
「軽い軽い軽い軽い!!! 軽いなぁ! 何の信念も感じられない! ただのド三下のチンピラかよぉ!!」
「おっさん、素が出てきやがったな!! 爺には外で使うなと言われたがこっちも本気出すぜ!!」
押し込まれそうになるツォンの目が紅くなり途端に力が発揮される。
これこそが彼の一族の特異な能力だった。血が薄くなって最近の世代ではまともに力を発揮する者も少なくなってきたが、ツォンと彼の祖父であるバータルは先祖返りでその本来の性能を扱える。
そしてその力は常人を簡単に超えられていた。
ぐぐっと徐々に後退するツォンの大剣のスピードが緩やかになっていく。
だがこれは力比べをしているのではない。命のやり取りをしているのだ。
ガルトがふっと力を抜いてそのおかげで前倒しになるツォンの顔面に肘鉄を入れると、ごっ、と鈍い音がしてツォンはのけぞり一瞬意識飛びそうになる。
「ぐっ……らぁっ!!」
だが持ち前のタフネスを活かしなんとそこから頭突きに打って出た。
今顔を強打されたばかりだというのにその個所を武器として使うなどさしものガルトも予想の範疇外でそのまま食らってしまう。
いくら鍛えようとも人体の急所である内の鼻は柔らかく、ツーンとした刺激と痛みが彼に掛け巡った。
「ツォンよくやった!」
この好機を逃すまいと回り込んできたアレンが喝采し剣を上段から振り上げる。
絶妙なタイミングだ。いかな人を超えたガルトとて虚を突かれることはあり今が千載一遇のチャンス。
「この青二才共が! 引っ込んでろ! 【引斥力】」
「ぬわっ!」
が、ガルトの天恵により剣が反発されアレンごと吹き飛ばされた。
彼の能力は要ってしまえば不可視のセイコキネシスのようなもので相当にやり辛く回避する術がないことだ。
まだマシなのは射程範囲が短いのと、その能力自体に殺傷能力が無いこと、連発ができないこと、それに細かく操作できる訳ではないことだろうか。
もし射程範囲があってアレンの【飛剣】のように敵の武器を操れるのならとっくに遠隔で腹でも刺されている。
「ちっ、だが近くじゃないと使えないみたいだなそれは。そんで使ったら時間が必要。使えるんだったらそんな温存するような使い方じゃなくてもっとばんばんっ使ってるもんな!」
額から垂れてくる血を舐め取り指摘するツォン。
そのことには二人とも薄々気付いていた。伊達に前回ボコボコにやられただけではない。
「だったらどうだというんだ? 分かったところでお前らの負けは覆らねぇよ!」
怒涛の猛ラッシュ。
重さ二十キロ以上は楽に超えていそうな大剣がまるで紙でできているんじゃないかというほどのガルトの打ち込みが始まる。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ……」
それをなんとか必死で捌き全身全霊で集中しているツォンが吠えた。
普段の彼ならばここまでの力は出ない。格上相手に駆け引きとか余裕とかそういうものをかなぐり捨てて、ただただ目の前の処理に没頭したからこその火事場の馬鹿力みたいなものだった。
腕の筋肉や骨が一合打ち合うたびに悲鳴を上げ、心臓が限界以上に血を送りそのおかげで血管がパンパンに膨らむ。
剣身も分厚い鉄の塊だというのにすでにもう綻びてきていた。
「ツォン!」
もちろんアレンだって彼一人に任せるつもりはない。
【飛剣】を操り自身も何度も横やりを入れようとしていた。
しかしそのたびにガルトの天恵で弾かれたり、ツォンとの合い間に振り払われる。
違う視点から言えばアレンがそうして邪魔をすることでツォンが耐えられるだけの瀬戸際の猶予を作っているとも言えたが、彼としては自分の不甲斐なさに鬱屈が貯まっていく時間だった。
「この野郎おおおおぉぉぉぉ!!」
奇跡的な攻防である。汗の一滴すらも出し切ってようやくギリギリ釣り合う天秤。
傍観者であればいつまでも飽きずに見れたかもしれないが、しかし残念ながらそれがずっと続くことはなく片方に傾き始めていく。
「鬱陶しい! そろそろ死ねよ!!」
ついにその拮抗が破れツォンが吹っ飛ばされる。
辛うじて彼は後ろに自分から跳んだのと噛み合いかなりの距離を後退させられた。ダメージも軽減させたが体力の消耗共に激しい。
そんなツォンを背中で守るようにアレンが前に出て顔を傾けながら小声で話し掛ける。
「やっべぇな、このままじゃあ勝てねぇぞ」
「はぁ……はぁ……」
「おい、聞いてんのかよ?」
「……くくく、あはははは……。本当、世界ってのは広いな。まさか爺より強いやつがこんなにいるとは思わなかったぜ」
全身汗でびっしょりのツォンはそれでも笑う。
地力の差は圧倒的だ。葵ほどではないがそれでも二人掛かりでも時間の問題なのは明白であった。
そんな彼にアレンは眉をひそめる。
「痛みでおかしくなっちまったのか?」
「うるせぇよ。燃えてきたって言ってんだ」
「根性論だけじゃ勝てない相手だぞ。悔しいが正直、俺は気を散らせることぐらいしか出来てねぇ」
「分ーってるよ。あいつが武器と認識したものを弾くんだったな……一個だけ手がある」
「マジか!?」
まさかのツォンの起死回生の策があるという言葉にアレンは喜色ばんだ。
「あぁ。…………って感じだ。これならいけるだろ?」
「はぁ!? 無茶苦茶だ。お前死ぬぞ?」
が、その作戦はアレンからするとあまりにも荒唐無稽なものだった。
本当に頭がイカれたのかと思ったぐらいだ。
「どうだろうな。まぁ俺は頑丈だ。なんとかなるだろ」
ツォンは体剣を杖にして立ち上がり冗談ではなく本気で言っていると分かったアレンは覚悟を決める。
「……死ぬなよ」
「死ぬかよ」
命を懸ける決心をした戦士たちのお別れの挨拶は短かった。
「もういいか? お前らに待っているのは死だけだ。手早く済ませてやる」
ガルトは強者の特権として嬲るように彼らの相談事を待ってやっていたらしい。
だがそれもそろそろ限界で二人に声を掛けた。
「はっ! おっさん、吠え面かかせてやるぜ!」
ツォンが瞬発する。
動きはここまでの怪我のせいでやや精彩を欠いていた。
けれど漲る闘志はむしろ最高に高まっていた。
「この期に及んでまた正面からの特攻か。やることが陳腐過ぎるぞガキ共!」
「うおおおおおぉぉぉぉ!!!」
再び二人の大剣での奏で合いが始まる。
唸る剛剣は耳が痛くなるような音を出し何度もぶつかり合い弾き合う。
そこにアレンがさっきまでと同じように横から接近してきた。
「何度も同じことを! バカの一つ覚えか! 【引斥力】!!」
結局は今までの巻き戻しでしかない。
ガルトは嘲りまた近付いたアレンは剣ごと反発され……なかった。
なんとアレンは剣を早々に放棄し素手で殴りかかったのだ。
「素手なら武器とはみなされないんだろ!! 食らえ!!」
ガルトの横っ面をやや斜め下からの鋭いフックが襲う。
普通なら剣を持っている相手に素手などそれ専用の装備やスタイルを習得していないと自殺行為でしかない。
だが今度はツォンが邪魔をしてガルトはアレンに手を割くのが難しかった。攻守が入れ替わったのに対応できなかったのだ。
「ぐ……だからどうした……だからどうしたぁぁぁぁぁぁ!!!」
アレンたちの博打に出た行動はしかしそれでも多少の打撃ダメージを与えただけで終わる。
そもそもレベル差も体格も違うのだ。いくら無防備なところに拳がクリティカルヒットしたところでそれで倒れるほどガルトは柔ではない。
膨れ上がる戦意を吐き出した声がそれだけで竦み上がるような衝撃をもたらし、アレンは体が固まってしまう。
そして完全に無防備なそこにガルトの殺意の乗った刃が迫る。
「口が臭ぇから閉じてろよ!!」
がちぃん、とツォンが突き出した大剣がそれを阻んだ。
しかし無理な態勢と膂力の差が如実に出ており少しずつガルトの剣はアレンの顔に近付いていく。
「ツォン!」
「今だ! 早くしろ!」
「あぁもう! 分かった! ガルトムント!」
ガルトはアレンの掛け声を聞いて飛剣の介入を警戒をした。
飛剣は自分の天恵と相性が良いものでそれほど危険は感じていない。それにスピードは見ていれば捌けるしパワーも当たり負けはしない自信がある。しかしもし簡単に防げる天恵が無ければさすがにもっと苦戦していたのは密かに認めていたからだ。
「っ!? どこだ!?」
辺りをどれだけ振り返ってもガルトの目にはアレンが飛ばしているはずの剣は映らない。
ひょっとして掛け声だけのフェイントか? と思考が過った瞬間――ガルトは自分の腹に衝撃を感じ、次いで灼熱の炎に焙られているかのような錯覚を覚える。
すぐに視線を下げるとアレンの剣が突き刺さっていた。
「がっ……」
血が逆流し喉が詰まり口から吐血する。
そこでさらにガルトは信じられないものを目にした。
「お、お前……」
「はっ、おっさん……に勝つには……これしか……思いつかなくて……よ……」
ガルトを貫く剣はなんとツォンの腹から突き出ていたのだ。
ハッキリ言って常人なら即死級の捨て身の策でしかなく、アレンがこれを聞いた時に頭がおかしくなったと思うのも無理はないだろう。正気を逸脱した策とも言えない策でいくらツォンが赤目になっていて丈夫な種族であったとしてもすぐに回復魔法を受けないと致命傷は免れない。
「さ、最近のガキは……イカれてやがる……」
ガルトは剣を素手で握って自分の腹から抜き、よろよろとして頭から倒れる。
快挙としか言いようがない勝ち方だ。しかしその被害は大きい。
「ツォン! 全く無茶しやがる!」
血がどんどんと流れ落ちて真っ青になって倒れそうになるツォンをアレンが支え、自分の肌着を千切って腹に巻いてやる。
本当に応急処置でしかなく、今すぐ美歌かオリビアに診せないとまずい怪我だった。
逆に言えばまだその望みがあるからこそアレンも手を貸した。そうでなければさすがに味方を犠牲にした戦術は彼であっても取らなかった。
「へへ……だってよ……おっさんに好き勝手……言われるの……癪じゃ……ねぇか……くく……い、いてて……わ、笑うと腹が……痛ぇ……」
「当たり前だ。黙ってろ! 今すぐあいつらのところに連れて行ってやる! ミカかオリビアと合流すれば何とかなるはずだ!」
減らず口を叩くツォンにアレンが肩を貸してとりあえず誰かいないかとその場から離れようとする。
だが、
「お二人さん、おじさんを置いてどこ行くんだい?」
アレンは背筋が凍るほどぞっとした。
彼の後ろで元気そうに立ち上がってきたのは今倒したはずのガルトだったのだ。
ツォンよりはマシでもガルトも浅くない傷で、今見ているみたいに安穏としている場合ではなく死に直結する刺し傷のはず。なのに彼はまるで痛みを感じていないかのごとく復活を果たした。
「ば、馬鹿な……!?」
「私がこれぐらいで死ぬわけがないでしょう。あれ? 違ったか? 僕? 俺?」
しかもガルトが何か訳の分からないことを呟き始め、アレンは二重の衝撃によって呆然とするしかない。
「俺様? そうだ俺様だ。体ごとに口調や性格を何年も真似する必要があった上にさすがに死んだ直後は記憶が混濁する。よお、初めまして後輩君」
「初めまして? 後輩?」
アレンはガルトが何を言っているのか皆目見当も付かなかった。
さらに口調が変わっただけでなく、雰囲気まで変わっているような気さえしている。
「そう、冒険者のな。昔、俺様も冒険者でけっこう有名だったんだぜ? ざっと百五十年前ぐらいだけどな。ギャハハハ!」
「百五十? おっさん何言ってんだ?」
「そりゃ信じられないよな。まぁ天恵の効果だよ。俺様はそれで生き永らえてんだよ。分かったかクソガキ共?」
「は? おっさんの天恵は武器を弾いたりするやつだろ?」
「あー、それは今のこの体のやつのな」
「……頭大丈夫か?」
話せば話すほどに理解が及ばなくなってきて、アレンはガルトが怪我のせいでおかしくなったのではないかと思い始めてきた。
しかしガルト自身はそういう反応に慣れているのか飄々として不快にも思っていないらしい。
「この話をするとみんなそんな感じだ。まぁ聞けよ。俺様の本当の天恵は『寄生』だ。弱っているやつに寄生して操り本体は身近なものに隠れている。今はこの剣だ」
ガルトは腰に提げていた普通の剣を自分の指でトントンと軽く叩く。
「俺様はそうして体が壊れるごとに入れ替わり普通の人間の数倍もの時間を生きてきた。おかげで好き放題人を殺し犯し、やられてもまた別のやつに乗り換えるだけで簡単に人生をリセット出来る。まぁやり過ぎて教会に目を付けられ鎖に繋がれたけどよ。おかげで不死身とかいう呼び名まで付けられた」
ガルトは得意げに指で腰に差しているショートソードを叩く。
「あ、頭がついていけねぇ。もしそれが本当ならなんでそんな弱点をバラした?」
「そりゃまぁ今のこの体がもうすぐ使い物にならなくなるから目の前の新品の体を乗っ取ろうとしているからだよ。本当ならそっちのやつの方が良かったが死に掛けもらっても意味ねぇしな。なぁに一月あればまたレベル上げとやらをして鍛え上げてやるぜ。そんで行く行くはあのカナタとかいう異世界人だ。あの体を乗っ取ることができれば何でも思いのままってやつだ!」
「ふ、ふざけんなっ! そんなことさせるかよ! ガルトムント!」
今手が塞がっているアレンが咄嗟にできたのは飛剣を操ることのみ。
ツォンとガルトの血を吸った剣が再び襲い掛かる。
「遅い!」
だがガルトは易々とその一撃を弾き返した。
体が死んでいるせいか痛みによる鈍りもなく身体能力もそのままのようだった。
「そう拒否するなよ。だってよ、お前俺様に憧れた口だろ? それなら俺様に体を差し出しても問題ないだろ」
「憧れ? 何を言ってやがる?」
「昔、俺様がまだ表の世界で英雄とか言われてた時代な、まぁ本当は当時の強いやつから体を奪って好き放題にゴミ共を殺しまくっただけなんだけどよ、この本体が憑依してた剣を使って人を斬りまくったのを見て他の奴らが何て言ったと思う? 決して折れない剣『ガルトムント』だとよ」
「は!? お、おいまさか……」
「そう、俺様こそがお前の憧れる英雄様だってことだ。まったく俺様なんかが英雄なんて呼ばれてるなんて笑っちまうぜ、ギャハハハハ!! さぁその体を俺様に差し出せ!!」
吟遊詩人が語る昔の英雄たち。その中でも冒険者として、傭兵として数々の武功を成し遂げた英雄がいた。
名前までは伝わらなかったが彼がいつも肌身離さず持っていた剣を『ガルトムント』と呼んだ。
それを知ってアレンは自分の天恵の名前をそれにしたのだが、その百五十年前の亡霊が今敵となって彼の肉体を奪い取ろうと襲い掛かった。
「軽いねぇ! おじさんガッカリだよ!」
「ツォン、一人で突っ込むな! タイミングを合わせろ!」
「うっせぇ、指図すんじゃねぇ!」
葵や美歌が戦いを始めたのと同じ頃、同船の『農場エリア』でもすでに交戦が開始されていた。
アレンとツォン、それにガルトだ。
彼らはすでに種が植えられず収穫されなくなって久しい広大な畑の上で一進一退の攻防を繰り広げていた。
と言っても常に優勢なのはガルトの方である。基本的な身体能力も上、戦闘経験も豊富、さらに彼の【引斥力】 という天恵は地味に厄介な代物でそれらをアレンたちは何も突破できないでいた。
それを打破しようと唾を飛ばしツォンを諫めようとするアレン。
出会った瞬間にツォンが歯を剥いてガルトに斬り掛かったのでなし崩しに戦闘が発生してしまった。
あまりにも自分勝手なアレンからするとツォンは仲間というより敵ではないぐらいの認識だろうか。ここまで独りよがりなのはアレンの記憶にある冒険者の間でもなかなか珍しい。普通は協力し合わないと生死に関わるため、このような協調性のない馬鹿な真似はよっぽど実力があるかすぐに死ぬだけだったからだ。
「よいしょっと!」
「ぐおっ!!」
ガルトの剛腕の振り抜きにより態勢が崩れたツォンの腹を彼は思いっきり蹴った。
ただのキックでさえ骨が軋む音が聞こえてきそうな強烈な一撃だ。
喉が詰まり胃液が逆流してきそうな不快感を無理やり抑えツォンは一旦後ろに下がる。
「おい大丈夫か!」
「く、くそ……うるせぇよ……」
くの字に体を曲げて苦し紛れに駆け寄ってくるアレンに向かって憎まれ口を叩くツォン。
「何度も言ってんだろ! 勝手に一人で行くんじゃねぇよ! この間ので分かってるだろ!」
「うざってぇな! ビビってんなら尻尾巻いてあの女どもの尻でも追っ掛けてろよ!」
強敵を前にしてもどうしても二人の距離は縮まらない。
しかしそれでは勝てる見込みが万に一つもないことはアレンは理解していた。
だからこうして何度も協力しろと話し掛けているのにツォンは取り合わない。
「本当に君ら仲が悪いねぇ。見てるこっちの方がいたたまれなくなってくるよ」
「はんっ! 俺はお前みたいな余裕ぶってるおっさんも嫌いだが、こうして優等生気取ってるやつも大嫌いなんだよ!」
そこまで嫌われるようなことをした覚えがないアレンは困惑して何も言い返せないでいた。
そんな彼にガルトは話を振る。
「ふぅん。ところでそっちの君はこの間の件、考えてくれたかい?」
「この間?」
「そう、こっちに付かないかって話だよ。見返りは多いよ。簡単に強くなれて報酬も今の冒険者やってるよりはもらえるし、何より後ろ盾が教会だ。そして最終的には不穏な動きをしたらあの異世界人共を叩き出す。悪くない提案だと思うけど?」
「……」
アレンは黙ってそれを聞き入る。
「なに黙ってんだよお前。言い返してやれよ。クソ余計なお世話ですってな!」
なぜかツォンの方が不快感を示し唾を飛ばした。
だがそれでもアレンは答えようとしない。
「異世界人たちを裏切ることに心が痛むかい? だったら問題ない。大義はこちらにある」
「大義?」
「そう。今はまだ詳しくは言えないけどね、この儀式の結果なんて実はおじさんたちにはどうでもいいことなんだよ」
「? どういうことだ? お前らはリグレット王子を勝たせるために参加したんじゃないのか?」
さすがに聞き捨てならない台詞だった。
大勢の人間と帝国という国の未来を決定づける儀式なのだ。まさかここまで戦力を集め大掛かりなことまでやっておいて今更どうでもいいなどというのは冗談では済まない。
アレンは大きく眉根を寄せる。
「それはまぁ二の次だね。そうなればいいかなぁぐらいさ。本命は別にある」
「それは?」
「もちろん教えないよ。だけど仲間になるっていうのならこの儀式が終わった後にでも教えてあげられる。どうだい?」
荒々しくアレン鼻から息を吐いた。
その内容にはとても興味があった。それに強くなれるというのも実に魅力的な話だ。彼は冒険者になると決めた少年の日からずっとたゆまぬ研鑽をして今の地位にいる。それがさらに力を付けられるというのであれば願ったり叶ったりでしかない。
しかし――
「お前らの仲間になることはできねぇよ」
アレンはきっぱりと断った。
「ふぅん、なぜだい? 悪いけどおじさんもそう何度も優しいままではいられない。今ここで断れば次はないよ。さらに言うなら君たちが二人掛かりでも勝つのは無理だ」
歴戦のガルトには彼我の実力差は正確に感じ取れている。多少のアクシンデントがあったところで勝ちは揺るがないものだという自負があった。それはもう油断とかではなく純善たる事実だ。
そして勧誘を二度断ったアレンたちをもう生かす理由もなくなる。ここまで目的があって手を抜いて接してきたがガルトという人物は人を殺すのを別に厭わないわけではない。むしろ他の女神の使徒の中でも殺害人数は群を抜いているほどだった。
「あいつらがそんなことしそうにないってのもあるし、自分のためにここまで見知ったやつらを裏切るのも嫌だ。それにそんなことしたらミーシャたちに顔向けできねぇ! 何より俺は冒険者なんだよ。受けた依頼は最後までやりきる! 当然だろ?」
「そんな理由で?」
ガルトは心底理解できないという呆れた目線を送る。
だがアレンは胸を張って剣を前に突き出した。
「あぁそんな理由さ! 俺は冒険者ランク4の【飛剣】のアレンなんだよ!! もしあいつらが悪さするなら俺がそれを止めてやる!! それにな、ずっと言いたかったことがあるんだよ」
「なんだい?」
「したり顔で話してくるお前がキモいんだよ!!!」
一瞬、時が止まったかのような静けさがそこに現れる。
ガルトは表情こそそんなに変わらないものの明らかに全身から不快感が滲み出ていた。
「くっくっく、あーーはっっはっはっは!! なんだ手前ぇ! 優等生面だけじゃなく本音もちゃんと言えんじゃねぇかよ!」
最も反応したのはどうしてかツォンだった。
腹を抱え先ほど受けたダメージなど忘れて愉快そうに自分のふとももを叩く。
「うっせぇな。だってよ、あんなでかい図体しといて変に低姿勢で気持ち悪いだろ。吐き気抑えんのも大変だったんだぜ?」
「ひーひっひっひ! 違いねぇ! そ、それは、あははははは、お、俺も、くくくく、思ってたんだ! あー腹痛ぇ! さっきのより効いたじゃねぇか、くっくっくっく!」
ツォンの嘲笑にも無視して目を閉じ俯いていたガルトがゆっくりと面を上げる。
それはどこか今までとは違う雰囲気だった。
「……交渉は終わりだガキ共、ここからは大人の流儀を教えてやる!」
殺気、とでもいうのだろうか。普通の生活をしていれば感じられない相手の殺意の意思。冗談ではなく本気で命を取ろうと決めた生き物の醸し出す鬼気迫るものをアレンたちは今ガルトから敏感に感じ取った。
明らかに今までとは違う。さっきまでのはむしろ手加減されていたのだと如実に理解できた。相対するだけで足が震え冷や汗が止まらない。
ツボに入って馬鹿笑いしていたツォンですら即座に真面目顔に変貌するほどだった。
「おいツォン、我がまま言ってる場合じゃなさそうだぞ」
「あぁ、これはうちの爺と同じかそれ以上のもんだ。ちっ、しゃーねぇ手を貸してやるから足引っ張んなよ!」
「そっちこそな!」
二人は三メートルほどの間隔を開け突撃する。
その距離がお互いに邪魔にならずアシストに入れる範囲だった。
「おらあああああああああ!!」
まずはツォンの先制。吠え声を上げての突貫。
しかしガルトは冷静に武器を真っすぐに振り下ろした。
ただしそれは明らかにタイミングが早い。ツォンが間合いに入る前に地面を叩き、そして衝突した足元が粉々に吹っ飛んだ。
「うおっ!?」
回避不能な風圧と土くれの破片がツォンを襲い足が止まる。
さらに破片が彼の頬を傷付け血が垂れた。
ガルトからすればただの牽制に過ぎない。けれどそれ以上の効果を生み出していた。
これがレベル上げをした人物の力。間違いなく人外の領域に足を踏み出していた。
「ガルトムント!」
その間隙の合間を突いてアレンが剣を飛ばす。
一直線にそれはガルトの胸へと向う……のだが、彼は無造作に剣を手で掴んで止めた。
「嘘だろ!?」
アレンの【飛剣】は土壁程度なら穴を空けるほどには威力があった。たとえフルプレートの騎士であろうとも止められない。
だというのにそれをただの素手で受け止めたのだ。
自分の自慢の技をいとも簡単に破られたアレンのショックは大きい。
「子供の遊びだな」
ガルトは横に剣を投げ捨て自分の大剣を構える。
すでにツォンがやって来ていたからだ。
がちぃん! と大剣同士の耳を塞ぎたくなるような金属音が奏でられる。
しかし早くもツォンが押し負けそうになった。
「軽い軽い軽い軽い!!! 軽いなぁ! 何の信念も感じられない! ただのド三下のチンピラかよぉ!!」
「おっさん、素が出てきやがったな!! 爺には外で使うなと言われたがこっちも本気出すぜ!!」
押し込まれそうになるツォンの目が紅くなり途端に力が発揮される。
これこそが彼の一族の特異な能力だった。血が薄くなって最近の世代ではまともに力を発揮する者も少なくなってきたが、ツォンと彼の祖父であるバータルは先祖返りでその本来の性能を扱える。
そしてその力は常人を簡単に超えられていた。
ぐぐっと徐々に後退するツォンの大剣のスピードが緩やかになっていく。
だがこれは力比べをしているのではない。命のやり取りをしているのだ。
ガルトがふっと力を抜いてそのおかげで前倒しになるツォンの顔面に肘鉄を入れると、ごっ、と鈍い音がしてツォンはのけぞり一瞬意識飛びそうになる。
「ぐっ……らぁっ!!」
だが持ち前のタフネスを活かしなんとそこから頭突きに打って出た。
今顔を強打されたばかりだというのにその個所を武器として使うなどさしものガルトも予想の範疇外でそのまま食らってしまう。
いくら鍛えようとも人体の急所である内の鼻は柔らかく、ツーンとした刺激と痛みが彼に掛け巡った。
「ツォンよくやった!」
この好機を逃すまいと回り込んできたアレンが喝采し剣を上段から振り上げる。
絶妙なタイミングだ。いかな人を超えたガルトとて虚を突かれることはあり今が千載一遇のチャンス。
「この青二才共が! 引っ込んでろ! 【引斥力】」
「ぬわっ!」
が、ガルトの天恵により剣が反発されアレンごと吹き飛ばされた。
彼の能力は要ってしまえば不可視のセイコキネシスのようなもので相当にやり辛く回避する術がないことだ。
まだマシなのは射程範囲が短いのと、その能力自体に殺傷能力が無いこと、連発ができないこと、それに細かく操作できる訳ではないことだろうか。
もし射程範囲があってアレンの【飛剣】のように敵の武器を操れるのならとっくに遠隔で腹でも刺されている。
「ちっ、だが近くじゃないと使えないみたいだなそれは。そんで使ったら時間が必要。使えるんだったらそんな温存するような使い方じゃなくてもっとばんばんっ使ってるもんな!」
額から垂れてくる血を舐め取り指摘するツォン。
そのことには二人とも薄々気付いていた。伊達に前回ボコボコにやられただけではない。
「だったらどうだというんだ? 分かったところでお前らの負けは覆らねぇよ!」
怒涛の猛ラッシュ。
重さ二十キロ以上は楽に超えていそうな大剣がまるで紙でできているんじゃないかというほどのガルトの打ち込みが始まる。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ……」
それをなんとか必死で捌き全身全霊で集中しているツォンが吠えた。
普段の彼ならばここまでの力は出ない。格上相手に駆け引きとか余裕とかそういうものをかなぐり捨てて、ただただ目の前の処理に没頭したからこその火事場の馬鹿力みたいなものだった。
腕の筋肉や骨が一合打ち合うたびに悲鳴を上げ、心臓が限界以上に血を送りそのおかげで血管がパンパンに膨らむ。
剣身も分厚い鉄の塊だというのにすでにもう綻びてきていた。
「ツォン!」
もちろんアレンだって彼一人に任せるつもりはない。
【飛剣】を操り自身も何度も横やりを入れようとしていた。
しかしそのたびにガルトの天恵で弾かれたり、ツォンとの合い間に振り払われる。
違う視点から言えばアレンがそうして邪魔をすることでツォンが耐えられるだけの瀬戸際の猶予を作っているとも言えたが、彼としては自分の不甲斐なさに鬱屈が貯まっていく時間だった。
「この野郎おおおおぉぉぉぉ!!」
奇跡的な攻防である。汗の一滴すらも出し切ってようやくギリギリ釣り合う天秤。
傍観者であればいつまでも飽きずに見れたかもしれないが、しかし残念ながらそれがずっと続くことはなく片方に傾き始めていく。
「鬱陶しい! そろそろ死ねよ!!」
ついにその拮抗が破れツォンが吹っ飛ばされる。
辛うじて彼は後ろに自分から跳んだのと噛み合いかなりの距離を後退させられた。ダメージも軽減させたが体力の消耗共に激しい。
そんなツォンを背中で守るようにアレンが前に出て顔を傾けながら小声で話し掛ける。
「やっべぇな、このままじゃあ勝てねぇぞ」
「はぁ……はぁ……」
「おい、聞いてんのかよ?」
「……くくく、あはははは……。本当、世界ってのは広いな。まさか爺より強いやつがこんなにいるとは思わなかったぜ」
全身汗でびっしょりのツォンはそれでも笑う。
地力の差は圧倒的だ。葵ほどではないがそれでも二人掛かりでも時間の問題なのは明白であった。
そんな彼にアレンは眉をひそめる。
「痛みでおかしくなっちまったのか?」
「うるせぇよ。燃えてきたって言ってんだ」
「根性論だけじゃ勝てない相手だぞ。悔しいが正直、俺は気を散らせることぐらいしか出来てねぇ」
「分ーってるよ。あいつが武器と認識したものを弾くんだったな……一個だけ手がある」
「マジか!?」
まさかのツォンの起死回生の策があるという言葉にアレンは喜色ばんだ。
「あぁ。…………って感じだ。これならいけるだろ?」
「はぁ!? 無茶苦茶だ。お前死ぬぞ?」
が、その作戦はアレンからするとあまりにも荒唐無稽なものだった。
本当に頭がイカれたのかと思ったぐらいだ。
「どうだろうな。まぁ俺は頑丈だ。なんとかなるだろ」
ツォンは体剣を杖にして立ち上がり冗談ではなく本気で言っていると分かったアレンは覚悟を決める。
「……死ぬなよ」
「死ぬかよ」
命を懸ける決心をした戦士たちのお別れの挨拶は短かった。
「もういいか? お前らに待っているのは死だけだ。手早く済ませてやる」
ガルトは強者の特権として嬲るように彼らの相談事を待ってやっていたらしい。
だがそれもそろそろ限界で二人に声を掛けた。
「はっ! おっさん、吠え面かかせてやるぜ!」
ツォンが瞬発する。
動きはここまでの怪我のせいでやや精彩を欠いていた。
けれど漲る闘志はむしろ最高に高まっていた。
「この期に及んでまた正面からの特攻か。やることが陳腐過ぎるぞガキ共!」
「うおおおおおぉぉぉぉ!!!」
再び二人の大剣での奏で合いが始まる。
唸る剛剣は耳が痛くなるような音を出し何度もぶつかり合い弾き合う。
そこにアレンがさっきまでと同じように横から接近してきた。
「何度も同じことを! バカの一つ覚えか! 【引斥力】!!」
結局は今までの巻き戻しでしかない。
ガルトは嘲りまた近付いたアレンは剣ごと反発され……なかった。
なんとアレンは剣を早々に放棄し素手で殴りかかったのだ。
「素手なら武器とはみなされないんだろ!! 食らえ!!」
ガルトの横っ面をやや斜め下からの鋭いフックが襲う。
普通なら剣を持っている相手に素手などそれ専用の装備やスタイルを習得していないと自殺行為でしかない。
だが今度はツォンが邪魔をしてガルトはアレンに手を割くのが難しかった。攻守が入れ替わったのに対応できなかったのだ。
「ぐ……だからどうした……だからどうしたぁぁぁぁぁぁ!!!」
アレンたちの博打に出た行動はしかしそれでも多少の打撃ダメージを与えただけで終わる。
そもそもレベル差も体格も違うのだ。いくら無防備なところに拳がクリティカルヒットしたところでそれで倒れるほどガルトは柔ではない。
膨れ上がる戦意を吐き出した声がそれだけで竦み上がるような衝撃をもたらし、アレンは体が固まってしまう。
そして完全に無防備なそこにガルトの殺意の乗った刃が迫る。
「口が臭ぇから閉じてろよ!!」
がちぃん、とツォンが突き出した大剣がそれを阻んだ。
しかし無理な態勢と膂力の差が如実に出ており少しずつガルトの剣はアレンの顔に近付いていく。
「ツォン!」
「今だ! 早くしろ!」
「あぁもう! 分かった! ガルトムント!」
ガルトはアレンの掛け声を聞いて飛剣の介入を警戒をした。
飛剣は自分の天恵と相性が良いものでそれほど危険は感じていない。それにスピードは見ていれば捌けるしパワーも当たり負けはしない自信がある。しかしもし簡単に防げる天恵が無ければさすがにもっと苦戦していたのは密かに認めていたからだ。
「っ!? どこだ!?」
辺りをどれだけ振り返ってもガルトの目にはアレンが飛ばしているはずの剣は映らない。
ひょっとして掛け声だけのフェイントか? と思考が過った瞬間――ガルトは自分の腹に衝撃を感じ、次いで灼熱の炎に焙られているかのような錯覚を覚える。
すぐに視線を下げるとアレンの剣が突き刺さっていた。
「がっ……」
血が逆流し喉が詰まり口から吐血する。
そこでさらにガルトは信じられないものを目にした。
「お、お前……」
「はっ、おっさん……に勝つには……これしか……思いつかなくて……よ……」
ガルトを貫く剣はなんとツォンの腹から突き出ていたのだ。
ハッキリ言って常人なら即死級の捨て身の策でしかなく、アレンがこれを聞いた時に頭がおかしくなったと思うのも無理はないだろう。正気を逸脱した策とも言えない策でいくらツォンが赤目になっていて丈夫な種族であったとしてもすぐに回復魔法を受けないと致命傷は免れない。
「さ、最近のガキは……イカれてやがる……」
ガルトは剣を素手で握って自分の腹から抜き、よろよろとして頭から倒れる。
快挙としか言いようがない勝ち方だ。しかしその被害は大きい。
「ツォン! 全く無茶しやがる!」
血がどんどんと流れ落ちて真っ青になって倒れそうになるツォンをアレンが支え、自分の肌着を千切って腹に巻いてやる。
本当に応急処置でしかなく、今すぐ美歌かオリビアに診せないとまずい怪我だった。
逆に言えばまだその望みがあるからこそアレンも手を貸した。そうでなければさすがに味方を犠牲にした戦術は彼であっても取らなかった。
「へへ……だってよ……おっさんに好き勝手……言われるの……癪じゃ……ねぇか……くく……い、いてて……わ、笑うと腹が……痛ぇ……」
「当たり前だ。黙ってろ! 今すぐあいつらのところに連れて行ってやる! ミカかオリビアと合流すれば何とかなるはずだ!」
減らず口を叩くツォンにアレンが肩を貸してとりあえず誰かいないかとその場から離れようとする。
だが、
「お二人さん、おじさんを置いてどこ行くんだい?」
アレンは背筋が凍るほどぞっとした。
彼の後ろで元気そうに立ち上がってきたのは今倒したはずのガルトだったのだ。
ツォンよりはマシでもガルトも浅くない傷で、今見ているみたいに安穏としている場合ではなく死に直結する刺し傷のはず。なのに彼はまるで痛みを感じていないかのごとく復活を果たした。
「ば、馬鹿な……!?」
「私がこれぐらいで死ぬわけがないでしょう。あれ? 違ったか? 僕? 俺?」
しかもガルトが何か訳の分からないことを呟き始め、アレンは二重の衝撃によって呆然とするしかない。
「俺様? そうだ俺様だ。体ごとに口調や性格を何年も真似する必要があった上にさすがに死んだ直後は記憶が混濁する。よお、初めまして後輩君」
「初めまして? 後輩?」
アレンはガルトが何を言っているのか皆目見当も付かなかった。
さらに口調が変わっただけでなく、雰囲気まで変わっているような気さえしている。
「そう、冒険者のな。昔、俺様も冒険者でけっこう有名だったんだぜ? ざっと百五十年前ぐらいだけどな。ギャハハハ!」
「百五十? おっさん何言ってんだ?」
「そりゃ信じられないよな。まぁ天恵の効果だよ。俺様はそれで生き永らえてんだよ。分かったかクソガキ共?」
「は? おっさんの天恵は武器を弾いたりするやつだろ?」
「あー、それは今のこの体のやつのな」
「……頭大丈夫か?」
話せば話すほどに理解が及ばなくなってきて、アレンはガルトが怪我のせいでおかしくなったのではないかと思い始めてきた。
しかしガルト自身はそういう反応に慣れているのか飄々として不快にも思っていないらしい。
「この話をするとみんなそんな感じだ。まぁ聞けよ。俺様の本当の天恵は『寄生』だ。弱っているやつに寄生して操り本体は身近なものに隠れている。今はこの剣だ」
ガルトは腰に提げていた普通の剣を自分の指でトントンと軽く叩く。
「俺様はそうして体が壊れるごとに入れ替わり普通の人間の数倍もの時間を生きてきた。おかげで好き放題人を殺し犯し、やられてもまた別のやつに乗り換えるだけで簡単に人生をリセット出来る。まぁやり過ぎて教会に目を付けられ鎖に繋がれたけどよ。おかげで不死身とかいう呼び名まで付けられた」
ガルトは得意げに指で腰に差しているショートソードを叩く。
「あ、頭がついていけねぇ。もしそれが本当ならなんでそんな弱点をバラした?」
「そりゃまぁ今のこの体がもうすぐ使い物にならなくなるから目の前の新品の体を乗っ取ろうとしているからだよ。本当ならそっちのやつの方が良かったが死に掛けもらっても意味ねぇしな。なぁに一月あればまたレベル上げとやらをして鍛え上げてやるぜ。そんで行く行くはあのカナタとかいう異世界人だ。あの体を乗っ取ることができれば何でも思いのままってやつだ!」
「ふ、ふざけんなっ! そんなことさせるかよ! ガルトムント!」
今手が塞がっているアレンが咄嗟にできたのは飛剣を操ることのみ。
ツォンとガルトの血を吸った剣が再び襲い掛かる。
「遅い!」
だがガルトは易々とその一撃を弾き返した。
体が死んでいるせいか痛みによる鈍りもなく身体能力もそのままのようだった。
「そう拒否するなよ。だってよ、お前俺様に憧れた口だろ? それなら俺様に体を差し出しても問題ないだろ」
「憧れ? 何を言ってやがる?」
「昔、俺様がまだ表の世界で英雄とか言われてた時代な、まぁ本当は当時の強いやつから体を奪って好き放題にゴミ共を殺しまくっただけなんだけどよ、この本体が憑依してた剣を使って人を斬りまくったのを見て他の奴らが何て言ったと思う? 決して折れない剣『ガルトムント』だとよ」
「は!? お、おいまさか……」
「そう、俺様こそがお前の憧れる英雄様だってことだ。まったく俺様なんかが英雄なんて呼ばれてるなんて笑っちまうぜ、ギャハハハハ!! さぁその体を俺様に差し出せ!!」
吟遊詩人が語る昔の英雄たち。その中でも冒険者として、傭兵として数々の武功を成し遂げた英雄がいた。
名前までは伝わらなかったが彼がいつも肌身離さず持っていた剣を『ガルトムント』と呼んだ。
それを知ってアレンは自分の天恵の名前をそれにしたのだが、その百五十年前の亡霊が今敵となって彼の肉体を奪い取ろうと襲い掛かった。
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