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2章 くの一御一行~湯けむり道中記~

29 合流

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「ひどい……」


 一キロほどの距離なんて全開の私からすれば数十秒もあれば到着する。
 猛スピードで町までの道を駆け抜け外壁に辿り着くと、ガラガラと材料である石材が今もなお崩れ落ちていて土埃を巻き上げていた。
 もうこの一画は壁としての体裁が保てていない。それどころか雷は貫通して町の中にも甚大な被害を与えていた。

 さらに瓦礫の隙間からは人の手のようなものが見え隠れしていて、おそらくさっきまで命だったものが埋もれている。
 目を背けたくなる有様だ。そこにすでに生命はない。ずっしりと人の身では到底支えきれない大量の土砂と破片が一部の空間もなく無残にも積み上がっていた。
 
 それを歯を噛み締めながら乗り越えると、


「うぁぁぁぁぁぁん! ママぁぁぁ!!」

「誰か、ガレキを退けてくれ! 足が挟まって動けないんだ!!」

「うわぁぁ!! 化物だぁぁl逃げろおおおお!!」

「おい押すなよ! ぐはっ! 痛ぇじゃねぇかこの野郎、ぶっ殺すぞ!」


 カッシーラの町は今、阿鼻叫喚の渦に包まれている。
 避難が遅々として進まなかったせいで、まだほとんどの人が建物の中にいて逃げ遅れていたせいだ。

 無論それは兵士たちだけの責任ではなく、危機感を募らせず安穏と日々を謳歌しようと聞く耳を持たなかった彼らにも非がある。
 けれどそれをここで論じていても意味はないし、そもそもは元凶が全て悪い。

 彼らは自分たちを守る堅牢な壁がぶち破られ、そこから姿を現した元凶――ゴーレムに恐れ慄いていた。
 戦いを専門にしている人たちですら最初は絶望を感じたサイズ比だ、一般人からしたらどれほどの脅威だったろうか。

 それに壁というのは物理的な意味でもそうだが、精神的な意味でも彼らの生活を、平穏を保っていた象徴でもあったんだと思う。
 それが容易く打ち破られたことに動じない人間など存在しない。

 ここにあった人の暮らしや無数の笑顔をも同時に壊され、もはや蜂の巣をつついた様な有り様で、騒然となった住民たちが着の身着のまま逃げて行く。
 さらには他人を顧みず余裕のない行動のせいで新しい怪我人が続出し二次被害も出始めている。


「豆太郎、救助お願い!」

『わかったー!』


 幸いなことに外壁が最低限の仕事をしたみたいで余波はまだ最小で抑えられていた。
 それでも直撃した進路は抉れているし、幾つもの家が倒壊し、焼け焦げている箇所から小さく火が発生している。このままでは火事になってさらなる地獄が生まれることを連想させられた。


「火を消すんだったら! ―【水遁】鉄砲蛙てっぽうがえる―」

『ゲロォ!』


 召喚に応じて私の腰ぐらいあるサイズのちょんまげ蛙が歌舞伎の見得を切るポーズで登場した。
 あの夜以来だね。
 今は遊んであげる暇がなく手早く指示を出す。
 

「火事になりそうなところの消火お願い!」

『ゲロゲーロ!』


 彼は水かきのある手で、器用に親指を立て、一目散にジャンプして火災現場に向かってくれた。

 他にも分身とか出せたらいいんだけど、召喚系忍術は一度に一種類まで。ここは消火を優先したい。
 私にできる支援は豆太郎と蛙ちゃんだけで、もどかしいけれどこっちはこっちで今から大変になる。


「さぁて、こっちは注意を引かないとね」


 唾を飲んで両手の鎧ムカデの滅打ナックルを気合入れるためにかち合わせる。
 ゴーレムは私が生きていたことに気付いたのか、進行を止めこちらに向き直った。
 方向転換するだけでどすんどすんと地面が本当に揺れる。

 
『――!!』


 相対したと思ったら、いきなりの無言の先制パンチ。
 その巨大質量による破壊の威力は、私が今立っていた地面を柔らかいプリンのごとく深く陥没せしめた。


「ご挨拶ね!」


 当然、そんなもの当たってやる義理はない。
 風を纏いゴーレムの膝小僧に強烈なストレートをお返しする。
 固い感触はあるも、ピシっと装甲に亀裂を与えるぐらいはできた。

 だが余韻を感じる暇もなく、横からはたき落とす勢いで張り手が迫る。
 今砕いたところを足場に跳躍して避けたが、掠めていく馬鹿でかい手からの風圧で髪がボサボサに掻き立てられた。
 宙返りを決めて着地すると、今度は両手を開いてパーの状態からの面制圧攻撃が猛然と頭上からやってくる。
 私からすると鈍重だけど、決してこのゴーレムが遅いわけではない。
 次から次へと出してくるこの攻撃を避けられるのが私ぐらいしかいないってだけだ。
 
 指の隙間から抜け出て腕を伝い、再び上半身へと突撃を敢行する。


「―【火遁】爆砕符―」


 肩まで登りきり、すかさずくないを弱点である顔に投げつけた。
 しかし、ゴーレムは咄嗟に両の手を打ち合わせる。
 手と手が衝突した衝撃でかなりの突風が生まれ、くないや私を巻き上げた。


「うわっ!?」


 寄りかかるものが何もない空中に投げ出され、無理やり体を捻る。
 どうしようもない浮遊感の末、何とか二本の足で近くの家の屋根に着地したが、なかなか止まらない勢いが屋根瓦を何枚もめくり上がらせてようやくストップした。
 にゃろう。学習してるなこいつ。


『――!』


 睨んでいるとゴーレムが足を振りかぶり、家ごと掬い上げる形で蹴り飛ばす。
 ものすごい破砕する音がして瞬きする間に家一軒がぶっ壊れる。
 

「きゃーーーー!!!」


 私自身は跳んですぐに逃げたが地面に降りる途中で悲鳴に気付き後ろを振り返ると、バラバラになった家の破片が広範囲にぶち撒けられて、逃げる町の人たちの頭上から雨のように降り注ごうとしていた。



「―【火遁】爆砕符―【解】!」


 冷や汗がぶわっと背中に出て、反射的にくないを投げつけ爆発させる。
 しかしそれでも半分がやっとだ。

 そこに、
 

『まー、ぱーんち!』

『ゲロォ!』


 大きくて危なさそうな塊は豆太郎が打撃で、鉄砲蛙は水を鉄砲のように打ち出し砕いて阻んでくれた。だけど、小さな木くずが頭に当たってたりして軽傷ながらも血を流す怪我人が続出した。
 それでも助かった。これは私が迂闊だったせいで招いた事態だ。


「戦うにしても逃げる場所も気を遣うってわけね。困ったねこりゃ」


 なかなかに大変だ。中途半端に逃げると巻き添えを増やしてしまい、逃げる場所も制限されてしまった。
 それでも負ける気はしないが焦れてしまう。
 

「――ならここで援軍はいかがですか?」


 横合いからいきなり声を掛けてきたのは執事服のバータルさんだった。
 昨日、かなりの重症を負ったのにそんなことはおくびにも出さず、自分の背丈ほどあるバスターソードを担いで飄々ひょうひょうとそこにいた。
 この人ホント、毎回良いところで現れるなぁ。


「俺もいるぜぇ!」


 バータルさんと同じ格好、同じ巨大な大剣を持ち上げているのは私が叩きのめしたツォン。
 ボコボコになって見る影も無かった腫れた顔もすっかり回復し切っている。
 まぁこっちはここ数日の間に治っているの知ってたんだけどね。
 

「色々と準備をしておりましたので遅れました。あるいは町の外だけで片付くかとも思っていたのですが、ここまで入られた以上は私共の出番でしょう?」

「怪我は大丈夫だったんですか?」

「夜中のうちに高治癒術士ハイプリーストを金貨で叩きつけて起こしました。世の中たいてい金で動きますから」


 に、っと口の端を吊り上げて笑うその表情は、自分よりも三倍以上年齢を重ねたお爺さんなのに悪戯小僧のような印象があった。


「おいてめぇ、俺を無視すんじゃねぇ!」


 ツォンが重そうな剣の刃先をこっちに向けて声を荒げてくる。


「うるさいわね、また殴られたいの?」

「ぐっ、つ、次は負けねぇ!」


 眉に皺を寄せて睨んでやったらちょっとびびり出した。
 あれだけやられて粋がるのは大したもんだけど、こいつ戦力になるのかなぁ?


「元気が有り余ってるのでこき使ってやってください。こんなところで死ぬような男ならそれまでだということです」

じじぃ、孫に容赦無さ過ぎじゃねぇか?」

「教えてやろう。馬鹿な子ほど可愛いと言うが、度が過ぎると殺意が湧いてくる」

「おっかねぇな……」 


 ここしばらくの不手際もあるけど、こいつならもっと前から色々とやらかしてそうだ。何となくバータルさんの気持ちも分かる気がする。
 

「現在、ガルシア様が指揮を取られて部下たちで救助活動も行っています。私たちはあのでかぶつの気を引くのが仕事です」


 目で示された方向には、少し遠いけど確かにガルシアが部下たちに命令して、小さな子供やお年寄りを運んだりしていた。


「あの悪党面で昼間から人助け? 違和感あるなぁ」

「悪にも悪のルールと挟持きょうじがあります。それに、ここに住む人がいなくなったら飯の種が無くなるでしょう? それは私たちも避けたいわけです」

「なーる。すっごく納得したわ」
 
「ではそろそろ参りましょうか?」

「了解!」

「しばらく暴れられなかった鬱憤晴らしてやる! 終わったら次はてめぇだからな?」

「ウザ!」


 三人で一気に散開する。
 私一人でも捉えきれていなかったのに、さらに二人ちょこまかするのが増えたことにゴーレムは戸惑いを隠せない様子。でもまだ私をロックオンしていた。
 

「せいやぁ!」


 その間にバータルさんがさっそく肉薄し、十キロ以上は軽くありそうな大剣でゴーレムのすねを力任せに叩きつける。
 結果は薄っすらと数センチほど剣身がめり込む程度で、不満そうに額に皺が寄っていく。
 
 それでも私以外に傷を付けることができる人がここまでいなかっただけに、やはりレベルが他と違うことだけは分かる。
 彼は即座に私がすでに殴ってひびを発生させたところも斬りつけ、岩盤を削り取ることにも成功した。


「不甲斐ない話ですが、これはおこぼれを頂戴するのが現実的のようですな」

「女の尻を追っかける趣味はねぇが、これしかねぇなら仕方ねぇ、な!」 


 ツォンももう片方の足に残るひび割れをどんどんと剣で損傷させていく。
 

『――!』


 さすがにこのままだとやばいと思ったのか、ゴーレムが二人を狙って両の手で殴り付けるが、どっちも手際良く察知してその場から離れた。
 空振りのパンチがまた地面を破壊するだけに留まる。


「ま、大変なところは任せてもらいますよ! そりゃそりゃそりゃそりゃそりゃあ!!」


 今度は私の番だ。あっちに気を取られた隙に近付いて、まだ真新しい部分をナックルで殴り彼らでも傷付けられる部位を増やしていく。
 私がダメージを入れた箇所をさらに砕いてくれるなら有り難いことだ。


「木偶の坊が! カッシーラをこれ以上傷付けはさせん!」

「粗大ゴミは小さくしてから分別だわなぁ!」


 入れ替わり立ち替わり、三人になったことでターゲットがバラバラになり、その分、隙が増えて効率がかなり良くなった。
 太い足なせいで潰れるまではいかないでも、足首の辺りは一回り小さくなるぐらいまでは破砕できてきていると思う。
 このまま続けばそのうち片足をもぎ取れるんじゃないかという希望は抱けてきた。


『――!』


 そこに再びあの音が聴こえる。
 同じ轍は二度と踏まない。警告を発して反射的に飛び退る。


「全周囲の雷が来ます、後退して!」

「ぬぅ!」

「ちぃっ! いちちちち」


 二人も私の声に反応して離脱した。
 バータルさんは何とか、ツォンはギリギリ雷に灼かれている。
 ただ本当に範囲内だったのは一瞬だけだったので、かなりダメージは軽いっぽい。
 手をプラプラとしたり顔を撫で回し、見た感じ静電気のちょっと強いのがきたぐらいのものだ。
 てかタフだなあいつ。 

 
「厄介ですが、これぐらいなら何とでもなりますな」

「こんなもんじゃあ俺は止められねぇ!」


 二人とも音がしてから発動するまでの僅かなタイムラグの間に有効範囲からちゃんと抜け出せるだけの身体能力がある。
 敵として相手していたときは面倒だったけど、味方にするとなかなかに頼もしい。
 あの全方位攻撃が効かないとなればもうこのゴーレムに打つ手はないはずだ。残っているのはあの直線上に飛ぶ雷撃ぐらいだが、あんなもの食らうはずもない。


「アオイ! 遅れてすまない!」


 さらに息を切らせてダルフォールさんと部下三十名、冒険者十名ほどが到着した。
 これは人数が少ないと見るべきか多いと見るべきか難しい。
 たぶん、怪我した人や心が折れた人は置いてきたんだろうけど。


「ちっ、堅物のおっさんが来やがったか」


 露骨に顔をしかめさせ、ツォンが悪態を吐いた。
 敵対関係に近いものがあるのは分かるけど、こんなところで喧嘩しないでよ。ちょっと心配だわ。


「お前らは……ガルシア商会のツォンとバータルか」

「無能の兵士長様が今更何用ですかな? 避難誘導はガルシア商会がすでに行っております。あなた方は邪魔にならないように隅で震えて待っているをお勧めしますよ」


 あんたもかーい!
 バータルさんも言い回しは丁寧でも明らかに敵意丸出しだった。
 それに興奮しきっているのか二人共、真っ赤な目を隠そうともせずに瞼を細めて凄んでいる。
 

「町に風穴を開けられてしまった以上、無能の否定はしない。それにお前たちが揃っているのなら俺たちが足手まといというのも確かだろう。だが避難誘導はさせてもらう」

「ご随意に」


 ダルフォールさんの方が先に折れてくれて胸を撫で下ろした。
 この緊急事態にマジで争ってる場合じゃないからね。


『――!!』

「なんだ?」


 最初にゴーレムの異変を察知したのはツォンだ。
 訝しげな視線を送り、その小刻みに揺れる奇怪なゴーレムを観察していると、突然その場で回転を始めた。
 全身を覆っていた岩の塊が亀裂を生じぽろぽろと外れ、一~三メートルほどの破片が周囲に飛び散っていく。
 実際にはかなりの重量があるので地面や家屋にぶつかるとそこを粉砕していくほどなのだが、おそらく十個強程度が飛散した。


「なに? 飛び道具のつもり?」


 訳が分からなかった。
 その上、今のでゴーレムは体格が一回り小さくなっている。
 単なる弱体化に意味があるのか? 


「お、おい、これ動いているぞ!?」


 ツォンが素っ頓狂な声を上げる。
 確かに彼の前に落ちた一メートルほどの岩の破片がゴトゴトと振動を繰り返し、そして冗談のようにそこから四肢が突然生えた。
 まるで小さなゴーレムの完成だ。


「プチ・ゴーレム?」


 見た目は確かにそんな名前が相応しいように可愛らしいと言えなくもない。
 そいつらは近くにいた兵士たちに小さな足でテクテクと駆け寄っていく。全員が呆気に囚われてその行動を許してしまった。
 
 そして、


「がはっ!」


 簡単に間合いに入れてしまった兵士に重い一撃が与えられ、ごろごろと地面を転がる。
 それを皮切りに次々と他の射出された破片たちも動き出す。中には最大三メートル近いのもいて、それはさすがにプチとは言えない。
 そいつらは一斉に近くの人間に攻撃を開始した。


「は、反撃ぃ!!」


 ダルフォールさんの一喝ではっとなった兵士や冒険者たちが抜刀する。
 

「こんなチビにやられるかよ!! ――固ぇ!?」


 冒険者が自前の剣で自分よりも小さなプチゴーレムに斬りかかったが、元々あのゴーレムの素材となっていたものだ。つまり硬さはあれと同等。
 手の痺れと剣が欠けるという最悪の結果だけが残される。
 さらにプチゴーレムたちは防御などせずに無防備に近寄っては猛烈な打撃を繰り返してきた。
 シンプルな行動だけに厄介で、怯まないというのはそれだけで脅威に当たる。もしそのまま押し倒されでもしたら圧倒的な重量を体から押しのけることができずに馬乗り状態で撲殺される未来しか見えない。

 さらにもっとやばいのは人の背丈を越すものも幾つかあることだ。
 小さいのならまだダメージを受けても最悪腫れや骨折で済むが、そのサイズにやられたら即死もあり得る。


「一発で無理なら何度でも叩いて潰してやるよ!」


 ツォンが自分の身長よりも大きい大剣で、プチゴーレムの一体を滅多打ちにし始めた。
 さすがにリーチも速度も圧倒し地面に倒して、そこに執拗な剣筋を何度も叩き込んでいく。
 技術も何もないただの乱暴な打ち込みだ。
 一振りごとにがっがっ、と岩が削れていき思ったより簡単に小さめのやつに対してかなり刀身をめり込ませることに成功していった。 

 もはやイジメなのではと思うような一方的な様相を呈していたが、ツォンが半ばまで剣を突き入れたとき、

 ――爆発した。

 どぉん! と爆炎が巻き上がりプチゴーレム自体が粉々に吹き飛んだのだ。
 突然のことに近くにいた全ての注意が集まり、全員の血の気が引いた。
 

「がっ!」


 当然、その最も近くにいたツォンが岩の飛礫に全身を打ち据えられ被弾する。
 爆発と岩によって数メートルをふっ飛ばされ民家の壁に背中と後頭部を打ち、ぐったりと崩れ落ちて体を震わせた。
 岩が当たった額の側面から、ぱっくりと皮膚が裂けそこから血が流れて始めている。


「……の……野郎……」


 口からもれる声量は弱々しいが、まだ生きていることに息が抜けた。
 

「これってまさか自爆!?」

「そのようですな。通常攻撃はほとんど効かず、さりとて破壊しようとするともろとも自爆する。手が出せず、厄介極まりない」


 バータルさんが憎々しげにゴーレムたちを睨みを効かせる。
 自分の持っている剣を見比べて、結局それを使っても孫と同じ結末を辿ることが忌々しいといった感じだ。
 

「なら私が被弾覚悟で潰すしかないか?」


 私なら数撃で倒せるだろうし、爆発しても被ダメージは最小限に抑えられる。
 多少食らったとしても回復すればいいだけだ。あんまりスマートじゃないし、進んでやりたくはないけど、それぐらいしか思いつかない。


『ゴアアァァァァァァ!!』


 しかしそれを阻もうとしてか、巨大な方のゴーレムが私に向かって巨大な拳を振るってくる。
 軽いジャンプで避けると、代わりに私が立っていた石畳みが砕け破片が散らばった。
 こっちもこっちでパンチ一つが爆弾みたいなものだ。


「ちっ!」


 思ったよりも目測のタイミングと間合いがギリギリで驚いたことに思わず舌打ちが口からもれた。
 なぜならちょっと振りの速度が速くなっていたからだ。
 そりゃ一回り小さくなるぐらい軽くなったんなら動きも速くなるか。
 
 ゴーレムはもう他に目もくれず、私を脅威として真っしぐらに追従してくる。


「うわぁぁ! 無茶苦茶だぁ!!」


 逃げれば逃げるほど次々と私の周辺が破壊されていき冒険者たちの悲鳴が上がった。
 足元に自分の分身プチゴーレムがいようが、人がいようが、建物があろうがその全てを蹴飛ばし猛追してきて、ぞっとする。

 こりゃあ、小さいのの相手をさせないつもりだな。
 でもこれだけ人や建物が密集している場所で戦ったらたぶんとばっちりだけで死人が出てしまう。一回、移動が必要か。


「アオイ殿!」

「あの元凶は私がやります! それまでその小さいやつの相手を何とかお願いします!」


 心配するようなダルフォールさんの言葉に返答をしながら駆け出すと予想通りゴーレムも付いてくる。
 曲がり角のでっぱった箇所にふとももが当たっても障害物にすらならず、そのまま粉砕してまるでブルドーザーだ。
 そのままできるだけ人がもういなくて建物が少なさそうな方へと誘導をしないと。
 
 ただ時間稼ぎを任せてみてもそれすらも彼らで何とかできる方法が無さそうなのでけっこうまずい。早いところゴーレムを倒して戻ってあげないといけないんだけど、素早くなったゴーレムはむしろ面倒さを増している気がしてならない。
 事態がどんどんと混沌としてきたのを感じてしまっていた。


「あぁもう! あと一人いればなぁ!」


 追い詰められつい弱音が出てしまった。
 どうしても私一人では手も足りないし決定打に欠けてしまう。けれど、この場でたらればは無しだ。しても仕方がない。あるもの、いるものだけで対策を考えないと。

 そうして私とゴーレムとの鬼ごっこが始まった。
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