貴公子、淫獄に堕つ

桃山夜舟

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終章 東下り

物の怪※

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 きしりと金具を軋ませて、妻戸つまどが開かれた。
 射し込む日の光に、しとねに横たわっていた男は目を眇めた。
 どうやら今は昼らしい。
 ずっと薄暗い室内にいたため、昼夜の感覚がない。

「もう大丈夫じゃ、方士様をお連れしたぞ!」

 妻戸の向こうから聞こえてきたのは、父の声だった。

「都からいらした偉い方士様じゃ。おまえに憑いた物の怪もすぐに祓うてくれるゆえ、安心せい。────ああ、方士様。息子を何卒お頼み申します」

 父が立ち去ると、妻戸が大きく開かれた。
 誰かが中に入り、そしてまた閉められる。
 その誰かは、しずしずとこちらへ歩み寄り、男の枕辺に座ると、燈台とうだいに灯りを点した。

 灯りに照らし出されたのは、息を呑むほど美麗な男だった。
 白く滑らかな肌に、黒目がちの大きな瞳、紅を引いたように赤い唇がなまめかしい。
 衣が水干すいかんなので男だと思ったのだが、一見したところは、男とも女ともわからない。

「心地はいかようか」

 澄んだ美しい声音で問われた。
 女にしては低いため、やはり男のようだ。
 横たわる男は、応えを返すべく乾いて貼り付く口をどうにか開いたが、喉が掠れて声が出ない。
 すると美貌の男は、いたましげに眉を寄せた。

「もう声も出せぬか。やはり、今すぐに対処せねば……。私の声は聞こえておるか」

 なんとか顎に力を込め、頷く。

「では、聞いておくれ。私は真霧まきりと申す。すまぬが、私はそなたの父が言っていた方士ではない。その手伝いをしている者だ。折悪しく方士は遠方にいるため、私が代わりに様子見に参ったのだが……。そなたに憑いた邪気は大変濃く、一刻も早く取り除かねば命にかかわる。私には法力がないため、祓うことはできぬが、邪気の類には多少慣れておるゆえ、引き受けてやることはできる」

 真霧と名乗った男は、そこまで話したところで言い淀み、なぜか頬を赤らめた。

「それで、その……、邪気を引き受けるためには、私と交わり、私の腹の中にそなたの精を注いでもらわねばならないのだが……、よいか……?」

 男は驚き、真霧をまじまじと見上げた。
 見れば見るほど、美しい。
 都人から東国と呼ばれるこの地に生まれてこの方、これほど美しい者は見たことがない。
 聞き間違いではなければ、この見目麗しい男と交わり、腹に精を注げ、と言われたような。

 男の視線をどう受け取ったのか、真霧は困ったように微笑んだ。

「これが一番早く、確実なのだ。かまわないだろうか」

 狐につままれたような心地で頷けば、真霧はほっと胸を撫で下ろし、そして恥ずかしそうに目をそらして宣言した。

「では……、これより邪気移しを始める」




 一月ほど前のこと。
 雨の中、山路を歩いていた男は、うっかり足を滑らせ、斜面を転がり落ちた。
 落ちた先は黒々とした気味の悪い水草の繁茂する深い沼で、幸い男は泳ぎが得意であったため溺れることはなかったのだが、家に帰りつくなり、高熱を発し、寝込んでしまった。

 十日経ち、二十日経っても一向によくならず、むしろ病は篤くなる一方。
 ついには起き上がることもできなくなった。
 心配した父が隣村から呼び寄せた老巫女は、男を見るなり顔を顰め、凶悪な物の怪が憑いており、己にはとても手に負えぬと帰って行った。

 もはやこれまでかと、朦朧としつつも覚悟を決めた。
 そんな折の、救い主の来訪だったのだが────
 






 夢でも見ているのだろうか。
 目の前で、世にも美しい男が恥じらいながら衣を脱いでいく。
 露わになった裸身は白く、すんなりと華奢だった。
 薄紅色の可憐な胸粒、つるりとなめらかな下腹、まるで果実のような桃色の花芯に目を奪われ、ごくりと生唾を呑み込む。

 細い指が男の帯をほどき、うちぎをはだけた。
 真霧の媚態に煽られ、すでに芯を持ち始めていたそこは、少し扱かれただけで腹につくほど反り返ってしまう。
 長く寝たきりだったため、果たして使い物になるかと案じもしたが、いらぬ心配だったようだ。
 死に瀕した時ほど女が欲しくなるとどこかで聞いた気もするので、そういうものなのかもしれない。


 真霧が男の上に跨り、あれよあれよという間に、狭くて温かい肉にずぬりと包み込まれた。
 刹那、あまりの快感に、男の口からうめき声が漏れた。

 中は蕩けるように熟れ、男の物に媚びるように吸い付いてくる。
 これまで抱いたどんな女よりも具合がよい。

 ただ、包み込まれているだけでもたまらない心地よさだというのに、真霧は男の腹に手をつき、腰を上下させ始めた。
 抜けかけたかと思うとまたずぶずぶと咥え込まれ、凄まじい愉悦に腰が抜けそうになる。
 寝たままの男からは、小さな蕾をいきり立った怒張が出入りする様が見え、淫らすぎる光景に目が血走るほどの興奮を覚える。
 
「あ……は……っ」

 真霧自身も感じているのか、吐息の合間に濡れた声が漏れ始めた。
 滑らかな肌を桃色に染め、身をくねらせる凄艶な様に男の目は釘付けになる。
 うっすらと汗ばんだ体から、肌の匂いが立ち昇る。
 そのめくるめくような甘い香りを嗅いだ途端、どくんと鼓動が弾けた。

 頭が真っ白になり、気づけば達していた。
 腰がかくかくと震え、狭くて気持ちのいい孔の中にびゅくびゅくと白濁がぶちまけられていく。

「ああ……っ」

 男の精を受け止めながら、真霧もびくびくと身を震わせている。
 中に注がれて感じているのだ。

 不思議なことに、吐精した途端、すうっと体が楽になった。
 胸苦しさが薄れ、鉛のように重かった腕も動く。
 交わり、精を注ぐことで邪気を移せるというのは、まことのことだったようだ。

 互いの呼吸が少し落ち着いたところで、問いかけられた。

「は、あ……、どうだ、邪気は……抜けたか」
「……ありがとうございます。少し楽に……、なりました」
「少し、か……。一度では足りなんだか。ならば、今一度────」

 熱っぽく潤んだ瞳に見下ろされ、男は脚の間にまた血が集まっていくのを感じた。
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