貴公子、淫獄に堕つ

桃山夜舟

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妻問

睦言※

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 夜もすがら睦み合い、気づけば几帳きちょうの向こうから白々とした朝の光が射し込み始めていた。
 真霧まきり浪月ろうげつに腕枕をされながら、己の下腹にそっと触れた。
 今夜だけで何度、浪月の精を受けただろうか。
 浪月は私の子を孕むか、などと言っていたけれど。

 おそるおそる浪月を見上げる。

「あの……、まさか……、まことに子ができるのですか?」
「さあ、どうであろう?」
「……もう!からかったのですね」

 やはり、戯れの言葉だったようだ。
 浪月は、その体躯や滲み出る威厳と相俟ってひどく大人びて見えるが、齢は十九とのこと。
 なんと真霧より一つ年下なのだ。
 戯れ言をしかけてくるのも、もっともなことだ。
 そう思えば、恐れ多いことだが少々かわいくも見えてくる。
 
 真霧の手に、浪月の大きな手が重ねられた。

「そなたが心から望めば、叶えてやろうぞ」

 嘘か誠か、煙に巻くようにそう囁くと、

「ところで、影親かげちかだがな」

 ふと、流罪となった左大臣の名を口にした。

「影親様がどうなさいましたか」
「遠流先の魔斗羅教の分社に、神子として推薦しておいてやったぞ。今頃は淫妖たちにかわいがられておるやもしれぬな」
「な────」

 真霧は仰天してあんぐりと口を開けた。

「なんと……、やはり、それほどまでにお恨みだったのですか」
「そうではない。むしろ親切心ゆえだ」
「……どういうことでしょうか」

 小首を傾げて瞬けば、浪月は真霧の肌を弄りながら、言葉を紡ぐ。

「影親は、自らはそなたを抱かなかっただろう。そなたを見て劣情を覚えなかったのは、抱くより抱かれることを好むからではないかと思うてな。それに、あやつも生まれや家柄に囚われていたからこそ、栄華のために呪詛にまで手を染めたのだ。己を解き放って楽になればよいと思ったまで」
「さようにございますか……」

 単に真霧に魅力を感じなかったのではないかとも思ったが、いずれにせよ荒療治にはよいのかもしれない。
 きっと、この世のことわりは一つではないということを、身をもって知ることができるだろう。
 真霧自身がそうであったように。

 ただ、魔斗羅教に関しては、一つ不思議に思っていたことがある。

「……魔斗羅神は、どのような神なのでしょう」

 肌をまさぐる浪月の手に、時折びくびくと身を震わせながら、真霧は呟いた。

「眷属たる妖は数多見てまいりました。けれど、これまで魔斗羅神が自ら現れたことはありませぬ。浪月様はお姿を見たことがございますか」
「ないな」
「宮司であった浪月様もですか」
「というより、誰も見たことがないだろうな」
「それは……なぜなのでしょうか」」
「魔斗羅神は、おらぬからだ」
「え……────、どういう……あんっ」

 問いかけようとしたところで、胸の先を指で転がされた。
 一晩中弄られ、吸われた続けたそこは、赤く熟し、ひどく敏感になっている。

「あ……っ、ん、んんっ、どういう、意味にございましょう、あ、ああ……っ」

 くりくりと両の乳首を摘まれ、甘い快感に喘ぎながら、どうにか言葉を紡ぐ。
 浪月は、真霧を苛む手を休めぬまま、答えた。

「正しく言えば、姿形をもたぬ、ということだ。魔斗羅神とは、淫欲そのもの。淫欲のもたらす力強い生を人々が礼賛し、いつしか神として崇めるようになったのだ。女神ということになっているが、淫欲には男も女もない。つ国から来たというのも怪しいものだな」
「そう、なのですか……、ん、んぅ……っ」

 乳首への刺激で蕩け始めた頭では、わかったようなわからぬような。

 浪月が真霧の胸を揉み絞る。
 すると夜の間、たっぷりと吸われたはずのそこから、蜜がとぷとぷとあふれ出す。
 滴る蜜を啜られ、胸の尖りを吸い上げられて、ほとばしる愉悦に真霧は背をしならせた。

「あぁ……ん……っ」

 真霧の脚に当たる浪月の物もまた、硬さを取り戻している。
 戯れるように腿に擦り付けながら軽く突き上げられると、腹の奥がせつなく疼いてきて、真霧は浪月の漲りに手を伸ばした。
 雄々しく長大なそれは熱く、筋が立つほど張り詰めている。

「浪月様……、今一度……」
「子種が欲しいのか」
「はい……」

 子が欲しいわけではないけれど、浪月の種だから欲しいのだ。
 浪月は真霧の唇に口付けを一つ落とすと、横臥しながら背後から抱きしめ、双丘のあわいに剛直を押し当てた。
 蕾は十分に濡れそぼっていて、衰えを知らぬそれをぬぷぬぷと呑み込んでいく。

「あ、は、ぁあ……」

 広い胸に抱き込まれ、奥にぐっぽりと埋め込まれた物で肉襞を執拗に擦り上げられて、真霧は恍惚として腰を揺らした。
 次第に激しくなっていく律動に素直に身を委ね、感じるままに声を上げる。


 二人きりの交歓はいつまでも終わらず、日が高くなっても二人が褥から出てくることはなかった。


 
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