貴公子、淫獄に堕つ

桃山夜舟

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帰還

牛車※

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 右大臣による東宮呪詛の証を得られないまま、奉納祭は終わってしまった。
 だが、望みは残されていた。

 直会なおらいの後、真霧まきりは一昼夜、昏昏こんこんと眠り続けた。
 そして目を覚ました真霧に、浪月ろうげつは告げたのである。

 ────さる貴人の元を訪うゆえ、共に参るように、と。


 そして今、真霧は浪月とともに牛車に揺られ、その貴人が待つという都の邸に向かっていた。
 浪月はいつもどおりの黒衣姿だが、真霧は半月ぶりにうすぎぬを脱ぐことを許され、桜色の布衣ほいを身に纏っている。

(ついにこの時が……)
 
 さる方とは信徒達が話していた大臣に違いなく、おそらくは右大臣のことだ。

 右大臣と対面を果たせたら、どうにかして呪詛にまつわる話を聞き出さねばならない。
 牛車の前駆は馴染みのある者にしてもらいたいと願い出て、左大臣の家人の武者たちを配してもらった。
 彼らには、真霧が右大臣と対面している間、邸内で何か呪詛につながるものがないか探すよう、密かに言い置いてある。

 呪詛の証を得ることができれば、神子の真似事から解放される。
 元の暮らしに戻れるだけではなく、左大臣の引き立てで出世もできるはずだ。

 だが、なぜだろうか。

 そんな己の姿を、うまく思い浮かべることができない。
 つい半月前まで当たり前だった貴族として生き方が、今はなにやら遠く感じられる。
 都に戻ればまた地位や出世のため公卿に擦り寄り、作り笑いを顔に貼り付けて過ごす日々が始まるだろう。
 そしてそこには当然、浪月はいない────



「どうした」

 知らず物思いに沈んでいると、不意に浪月に声をかけられた。

「浮かない顔をしておる」
「いえ……、その、高貴なお方に御目通りをすると思うと、気おくれいたしまして……」

 咄嗟に笑みを浮かべて取り繕う。
 すると、向かいから伸びてきた手に抱き寄せられた。

「ならば、気の緩むようにしてやろう」
「あ……」

 顎をすくいあげられ、唇を塞がれた。
 薄く開いた歯列の隙間から舌が入り込み、真霧のそれを絡め取る。

「ん……ふっ、んんっ」

 上顎を擦られ、口内をかき混ぜられると、すぐに体から力が抜け、身の内が熱くなり始めた。
 快楽に慣らされた体は、口付だけでたやすく昂ぶってしまう。

「はぁ……ん……」

 息を乱し、広い胸にくたりと身を預けた。
 浪月は、僅かに乱れた真霧の艶やかな黒髪を耳にかけ、露わになった耳朶を食む。

「あ……っ」

 思わず高く声を上げそうになり、慌てて唇を噛んだ。
 ここはあの社ではなく、牛の手綱を握る牛飼童うしかいわらわは信徒ではない。
 みだりがましい声など聞かれてはならない。

 だが、そんな真霧の心中など知らぬげに、浪月は首筋に甘く歯を立てると、布衣のたもとから手を忍び込ませ、その下の単衣ひとえの襟を割った。
 探りあてられた胸の突起を指先で転がされ、びくんと体が跳ねた。

「ふ、う……ん……っ」

 きゅっと摘み上げられれば、ぞくぞくと胸の先が疼いて、蜜が滲み出してしまう。

「浪月様……、衣が……」

 濡れてしまうから今はやめてほしいと訴えたつもりだった。
 だが、浪月は片手で胸をいじめながら、器用に反対の手で衣の留め具を外した。
 そして前を開き、単衣の襟を大きくはだけると、乳首から滴る雫を吸い取った。

「んんっ」

 漏れかけた声を、口元を押さえて必死にこらえた。
 舌先で転がされたかと思うと緩急をつけて吸われ、びくびくと腰が跳ねてしまう。
 とめどなく濡れる胸粒を嬲りながら、浪月の手は真霧の袴の紐をほどき、臍の下へと潜り込む。

「ぁ……う……っ」

 既に形を変えていた中心を握り込まれ、直裁な刺激に腰が浮いた。
 浪月は真霧を後ろから抱きすくめ、片手で胸の先を転がしつつ、もう片方の手で花芯を握り、上下に扱き立てる。

「は……あっ」

 立てた膝を震わせ、丸めた足指で床の畳を擦りながら、真霧は快感を堪えた。
 だが、花芯を弄んでいた手は、更に奥へと忍び入ってしまう。

「あ、そこは……っ」

 先走りで濡れた指が、窄まりにつぷりと挿し入れられた。

「くう……っんっ」

 浪月の指は真霧の弱い所を知り尽くしていて、粘膜を掻き混ぜながら抜き差しされると、あふれだす快感に腰がわななく。
 
「や、は……、あ、そんなに、された、ら……っ、ん、んう……っ」

 いつの間にか袴も剥ぎ取られ、ずるずると崩れ落ちた体の上に浪月がのしかかる。
 秘肉がとろけきったところで指が引き抜かれ、指よりずっと大きな物で貫かれた。

「ああぁ……───ッ」

 一息に奥まで突き込まれ、高い喘ぎが漏れた。
 挿れられただけで甘く達してしまい、白い喉を反らし、がくがくと身を震わせる。
 蠕動する媚肉を擦りながら一度引き抜かれたかと思えば、すぐに最奥を突かれ、吐息で湿った唇からまた高い声がこぼれ落ちた。
 繰り返し敏感な肉壺を擦られ、嬌声を止められない。

「よいのか、そんなに声を上げて。聞かれてしまうぞ」

 意地悪気に囁かれ、真霧ははっとして唇を噛んだ。
 牛車の車輪の音に混じり、少し離れたところから人の声が聞こえてくることに気づく。
 畑仕事に精を出す者達が、何か声をかけあっているらしい。
 いつの間にか山道を抜け、田園に差しかかっていたようだ。

「ふ、くう、ん……」

 唇を噛んで声を堪えるが、浪月の律動と牛車の揺れとが相まって、真霧を翻弄する。
 覆いかぶさる浪月の肩越しに、牛車の天井が揺れている。
 車の中で、淫らな行為をしているのだとまざまざと感じられ、頬がかあっと熱くなる。

 やがて都に入ったらしく、通りを行き交う人も増え出した。
 普段どおりに暮らす人々の気配を感じながら淫蕩にふける背徳に、羞恥とそれを上回る興奮を覚えてしまう。
 倒錯した状況に心はついていけないのに、体は昂るばかりで。


 ぐいと体を起こされ、貫かれたまま向かい合わせに膝の上に乗せられた。

「ひ…ん…っ」

 自重でより深く突き刺さり、強すぎる快感に目の前が白く弾ける。
 浪月は真霧の衣の袖を抜いて全て脱がせると、下から大きく突き上げ始めた。

「んっ、は、ぁあ……っ」

 一人だけ裸に剥かれ、恥ずかしいのに気持ちがよくて、声を殺して啜り泣きながら浪月の首に縋り付く。
 牛車が揺れるたびに、最奥をぐぽぐぽと抉られ、稲妻のような愉悦が何度も体を貫く。
 もうずっと達し続けていて、尖り切った胸の先端からも花芯からも蜜があふれ続けている。

「は、ぁ……っ、も……っ、あ、ああ……っ!」

 もはや声を堪えることもできず、首に回した手に力を込めると、浪月が唇で真霧のそれを塞いでくれた。
 口付けの合間に、浪月が囁く。

「……何人も情愛には抗えぬ。それを覚えておくがよい」

 悦楽に霞む意識に、その声が滑り込む。
 それは魔斗羅の教えなのか。
 それとも、浪月自身の言葉なのか。

 だが、もはや意味を問い返すこともできず、ただ突き上げられるままに快楽に身をくねらせるばかりだった。
 
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